1897年、ついに政府はウイスキーの新たな法律をつくる。「ボトルド・イン・ボンド法」である。熟成4年以上、100プルーフ(アルコール度数50%)以上で瓶詰めされたものをボンデッド(BONDED/納税済み)と表示できるというもの。
細かい規定があり、1蒸溜所(シングル・ディスティラリー)で、1年(シングル・イヤー)の1季節(シングル・シーズン)に蒸溜した原酒のみを樽詰めし、政府監督官の下、保税倉庫で熟成させるという厳しいものだった。
これはストレートバーボン、ストレートライなどそれぞれのタイプのストレートウイスキーに適用された。19世紀末はボトルド・イン・ボンドの品質保証によって深遠で力強く、リッチな酒質のバーボンが登場するようになる。ビーム家が生んだ人気ブランド「オールドタブ」もその法律に基づいてつくられ、ボンデッド(イラストは現在の復刻版/日本未発売)を記した。
ムーンシャイナーが消えることはなくても、それでも税収確保のための効力はあった。1900年には蒸溜酒税収が国の税収のなんと2/3までにも達している(所得税徴収はなし)。
20世紀の禁酒法によりこの法律は意味をなくしてしまうのだが、いまでもボンデッドと記した製品は存在する。これは昔日の名残りであり、1蒸溜所で蒸溜した原酒を使い、100プルーフ以上で瓶詰めしていることを謳っている。
時を重ねた1988年。「ジムビーム」を生むビーム家6代目、ブッカー・ノーがプレミアムなバーボンを誕生させた。これは彼が主催するバーベキュー・パーティーで、限られた賓客に振る舞っていた秘蔵のバーボンを製品化したものである。
ブッカーには理想とするつくりと味わいがあった。原点回帰といえるもので、禁酒法以前のボトルド・イン・ボンド時代の力強いバーボンの復刻とともに力強さに洗練を加え、長期熟成のリッチな深みを湛えた香味の実現だった。その試作ともいえる秘蔵バーボンは、賓客に振る舞うほどに評価が高まっていく。満を持して1988年に発売したのが「ブッカーズ」だった。
それから後、ブッカーはクラフトバーボンと呼ばれる彼の思想と理想を具現化したシリーズを誕生させる。1992年、長期熟成の深遠でリッチな香味を抱いた「ノブクリーク」「ベイカーズ」「ベイゼル ヘイデン」を発売した。
父ブッカーの魂を受け継いだ息子の7代目フレッド・ノーは、クラフトバーボンのより高い香味の頂きを目指して全霊を傾けている。2011年に誕生させた「ノブクリーク シングルバレル」は世界のウイスキー業界関係者を驚かせた。翌2012年には原点回帰のクラフト思想をもとに、19世紀のライウイスキー興隆時代の懐古を込めて力強さのある「ノブクリーク ライ」を発売する。
ブッカー、フレッド。父と子の名匠が紡ぎだした素晴らしい香味は、温故知新の世界といえよう。アメリカンウイスキーが歩んできた道をしっかりと見つめ、先人たちに敬意を表し、そして研鑽を積み、トライ&エラーを繰り返しながら生みだしたものである。長い歴史の積み重ねの上にいまがある。
(第36回了)