南北戦争ではアメリカ連合国、つまり南軍に、少尉として従軍。本人によれば、疲労により戦闘不能状態に陥り除隊。実際のところは脱走だったようだ。
その後は西部を旅し、独特のユーモア、風刺のある西部ジャーナリズムに身を投じ、1865年から作家活動に入っている。
『トム・ソーヤの冒険』から6年後の1882年に『王子と乞食』を発表。そして現在でも批評家の研究対象であり、アーネスト・ヘミングウェイが“あらゆる現代アメリカ文学は『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊に由来する”とまで記した『ハックルベリー・フィンの冒険』を1885年に発表した。
この作品が『トム・ソーヤの冒険』と大きく異なるのは、人種差別を痛烈に書き記している点である。南北戦争以前のミシシッピ川沿いの生活を舞台にした、いきいきとした口語で書かれた国民文学でありながら、21世紀の今日でも問題作として語られる。オリジナル版と差別用語を変更、削除したバージョンの両方が存在する。閲覧制限や推薦書籍から排除する図書館もあったりする。つまり、いまなお人気が高い。
ちなみに『ハックルベリー・フィンの冒険』はアメリカ文学において、はじめてタイプライターを使って書かれた小説である。彼は新しいもの好きだった。
トウェインを語るのに、もうひとつ忘れてはいけない作品がある。『トム・ソーヤの冒険』発表の3年前、1873年にチャールズ・ウォーナーとの共著で『金ぴか時代』(Gilded Age/金メッキ時代とも)を著している。
出版したのはユリシーズ・グラントが1869年〜1877年の2期に渡って第18代大統領を務めていた最中にあたる。グラントとは南北戦争で北軍の名将としてヒーローとなったグラント将軍である。ただし、政界は汚職とスキャンダルにまみれていた。金ぴかの時代とは、経済成長とともに出現した政治の不正腐敗を皮肉ってトウェインが命名したものである。
そして1893年にアメリカが史上初の大恐慌に陥るまでの期間、資本主義の発展と拝金主義、成金趣味の時代を指して“金ぴか時代”と呼ぶようになった。ハレー彗星とともに誕生した男は、アメリカ史に強烈な刻印を焼きつけている。
では最後にまた、トウェインの名言をひとつ。
“真実をしゃべれば、何も覚えておかなくていい”
「ジムビーム」ハイボールを飲みながら、この名言を頭のなかで繰り返してみる。嘘や辻褄合わせから逃れたいがために飲む酒があるのかもしれない。でも、バーボンウイスキーだけは明るく正直な笑顔が似合う酒である。
(第34回了)