日本フィル&サントリーホール 
とっておき アフタヌーン Vol. 12

<マエストロと新星が紡ぐストーリー>

藤田真央(ピアニスト) インタビュー

ピアノ:藤田真央 ©EIICHI IKEDA

ピアノ:藤田真央

©EIICHI IKEDA

日本フィルとサントリーホールが贈る、エレガントな平日の午後『とっておきアフタヌーン』。2019-20シーズンのコンセプトは「マエストロと新星が紡ぐストーリー」。

シーズン最後を飾るソリストは、ピアニストの藤田真央さんです。
小学生の頃から国内外のコンクールで受賞を重ね、2019年6月には「第16回チャイコフスキー国際コンクール」ピアノ部門第2位の栄冠に輝かれました。いま、世界中から熱い視線を注がれている21歳の「新星」です。

2020年3月18日開催『とっておきアフタヌーンVol.12』に向けて、お話を伺いました。

ピアノ:藤田真央 ©EIICHI IKEDA

ピアノ:藤田真央

©EIICHI IKEDA

――藤田さんとサントリーホールは深いご縁があります。

12歳の時に、『こども定期演奏会』(東京交響楽団&サントリーホール主催)のこどもソリストとして、大ホールのステージに初めて立たせていただきました。指揮者の大友直人さんがとても紳士で、一人の演奏家として対等に話してくださり、ああ弾きたいこう弾きたいと私が言うのをきちんと聞いてくださったのを覚えています。プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番でした。

――初めての大ホールの響きはいかがでしたか?

その時は、響きのことなどまったく考えていませんでした。緊張していたわけではなく、むしろ、「オーケストラの方々(東京交響楽団)に見せてやろう、どうだ私の演奏は!」なんて挑む気持ちだったんです。生意気な小僧でした(笑)

――全日本学生音楽コンクール(小学校の部)で第1位を受賞された後のことですね。12歳でプロコフィエフとは、聴衆は圧倒されたことでしょう。ピアノを始められたのはいつ頃、どんなきっかけですか?

母に連れられて1歳頃からリトミックの音楽教室に通っていたそうで、自然な流れで3歳からピアノを習い始めました。でもピアニストになるなんて考えてもいなくて、サッカーしたり水泳したりスキーに熱中したり塾に通ったり、いろいろなことをやっているなかで、ピアノだけが残り、それが今に続いているという感じです。ピアノが大好きです。嫌いになったことは一度もないです。私の人生にピアノがあってよかったと、心の底から思います。

――サントリーホール初舞台からすでに何度も大ホールにご登場いただいていますが、今回は日本フィルとの共演で、ショパンの『ピアノ協奏曲第1番』です。

高校生のときに毎夏、ポーランドで開催される『ショパン国際音楽祭』に呼んでいただいていたので、ショパンの主要なレパートリーは弾いたことがあります。でも協奏曲だけはまだ弾いたことがありませんでした。今回『とっておきアフタヌーン』で機会をいただいて、そうしたら偶然にも直前の2月、3月に同じ協奏曲第1番を異なるオーケストラと弾くことになり、サントリーホールでは3度目の協奏曲第1番となります。

指揮:広上淳一

指揮:広上淳一

――広上マエストロとは今までも共演されていますか? 藤田さんが在籍されている東京音大で教鞭をとられていますね。

よく大学でお会いして、「真央ちゃん、真央ちゃん」と、いつも声かけていただいています。以前から面識があったのですが、共演したことは実はまだ無くて、3月の京響が初めてになります。その直後に、『とっておきアフタヌーン』。楽しみです!

指揮:広上淳一

指揮:広上淳一

日本フィルハーモニー交響楽団第377回名曲コンサート (2018年10月、サントリーホール)

日本フィルハーモニー交響楽団第377回名曲コンサート
(2018年10月、サントリーホール)

――日本フィルとはすでに何度か共演されていますが、オーケストラとの相性はいかがですか?

ついこの間も小林研一郎マエストロの指揮で共演させていただきました。団員の方々とも、音楽祭で一緒になってお世話になったり、ごちそうになったり、個人的にもいいお付き合いをさせていただいています。オーケストラとの協奏曲は、ソロの舞台とは違い、大きい形でアンサンブルを楽しめるのがいいですね。一緒に音楽をつくっていこうというあたたかい雰囲気もあって。今回はすごくいいマッチングになると思います。

日本フィルハーモニー交響楽団第377回名曲コンサート (2018年10月、サントリーホール)

日本フィルハーモニー交響楽団第377回名曲コンサート
(2018年10月、サントリーホール)

――協奏曲第1番の聴きどころは?

ショパンならではの悲痛な旋律が出てきます。それからすぐリズミカルな展開になって、3楽章は舞踊(ダンス)。1曲の中にいろいろな要素があります。弾き手からしたら、いろいろなアプローチができるから面白いです。ショパンは私に合っていると思います。私はコロコロ音色を変えるのが好きなのですが、それが自在にできるんです。弾いていてすごく幸せです。軽いタッチでポロポロポロと。あとは対比というのかな。レンジが広い楽器なので、ちょっと普通ではない和声が出てきたときに、ピアニストの実力が測り知られるかと思います。言葉で説明するのはすごく難しいですが。

――聴くしかない!ですね。
藤田さんは常に「きれいな音を大切にしている」とおっしゃっています。一音一音の意味を考えて音色をつくるということでしょうか?

すべての音に意味があります。作曲家は、いらない音なんて書かないですから。ピアニストは、それをすべて手中に納めて弾かなければならない。楽譜を読み込んで、すべて理解して。ショパンは結構、定型を崩すんですよ。4小節単位で曲が進むのですが、そのなかでフレージングを変える。それがまたショパンの面白いところです。楽譜を見ていると、人それぞれの性格が出てくるので、本当に面白いですよ。

――ショパンとは気が合いそうですか?

そうですね。でも彼は39歳の若さで死んでしまうでしょ……ずっと一緒にいたいぐらいなのに、ね。だからあまり近づかない方がいいかな。病気がちだから看病しなきゃいけないし。うーん、総合的に考えたら、気が合いそうなのはブラームスかな。あ、でもむしろクララになりたいぐらいです。クララ・シューマン。ブラームスのクララに対する愛は相当ですよ。もちろんシューマンにもすごく愛されていましたし。クララの旋律というのがあるんです。シューマンのどの曲にもその旋律が出てくるぐらい、クララのことが大好きなんですよ。

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

――作曲家の人生や作品が書かれた時代背景など、詳細に調べられるのですね。

本はよく読みますし、歴史が好きなんです。音楽に限らず、世界の歴史が。人が絡んだ歴史はドラマティックで面白いですよね。ピアノがなかったら、歴史の先生になりたかったぐらいです。弾き手としても、作品が書かれた背景を知らないと。ショパンが祖国ポーランドを求めて書いた曲だったら、楽譜からその思いを感じますし、その頃のポーランドの状況を知ったうえで弾きたいですからね。ショパンは内戦のポーランドから19歳ぐらいで逃げてきて、ウィーン、そしてパリへ向かい、ジョルジュ・サンドに出会えて、マヨルカ島に行ったりして、結構いい暮らしをしました。作曲家も演奏家もそうですけれど、音楽に人間が表れるところがいいですよね。私だからこういう音が出るというのがあると嬉しいです。特別なことをしなくてもにじみ出るのが“個性”というものだと思いますから。

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

――演奏家の方はよく、弾いているときに風景が見えるとか、色を感じるという方がいらっしゃいますが、藤田さんは演奏中どのようなことを感じられますか?

私は全然そういうことはなくて。むしろ、音で色を出す人ですから。ひたすら集中して、次の音なんだろう、次はどういうふうな音を出そうってことだけをずっと考えています。次の音、次の音……そうすると曲が終わっています。

――ということは、同じ曲でも毎回弾き方を変えているということですか?

完成型をつくらないようにしています。絶対こういう風に弾こうという型はつくらない。ホールによっても違うので。間合いなども絶対変えるようにしています。

――決まりきった型ではなく、毎回、驚かせてやろうと。

そうですね、私も結構いたずら好きなので。自分自身も常に変えて驚いて楽しんでいたいです。

――緊張はあまりされないようですね?

いえ、緊張します。出番前はほとんど喋りません。弾きだしたら、なんてことないんですけれどね。それまでが……。

――夜のコンサートと昼のコンサートでは、何か気分が違いますか?

全然違います。お昼のコンサート、大好きです。今回は素晴らしい時間帯、サントリーホール自体が素晴らしいですし。本当にいいホール。ピアノも相性いいですし。あと楽屋がいいですよね。アップライトピアノがあるB楽屋がお気に入りなんです。部屋を出たらすぐ真正面にステージに出られるので。

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

――これから目指すこと、あるいはこういう風になりたいという音楽家像などありますか?

あまりつくらず、私は私のままで。自分の音を追求していく。それは今までもずーっとやってきたことですので、これからもずっと続くと思います。コンクールで賞を取ったからって何も変わらないです。そういうのは嫌いですし。変わったのは体重ぐらい。ありがたいことに、みなさんお祝いでご馳走してくださるので、おいしいものをいただきすぎて太っちゃいました(笑)

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

第16回チャイコフスキー国際コンクールにて

――普段、大学生としての毎日は、どのような1日を過ごされているのでしょうか?

今3年生なので、月水金は学校に通っていて。授業は2限目から。家が埼玉なので、8時半には電車に乗らなければいけないんです。ピアノの練習は夜ですね。学校のない日は朝9時ぐらいからピアノの練習をします。何もなければ一日中ピアノの前にいます。

――リラックスする時間、藤田さんにとっての“とっておき”は何ですか?

家にネコちゃんがいるので、ネコちゃんと童心にかえって戯れるのが、とっておきの時間です。あとは野球を観るのが好きです。熱烈なベイスターズファンです。ベイスターズの試合って、ドラマティックな展開をするんですよ。逆転しそうで追いつかない。ファンを魅了するんです。いけるかも、いけるかも、あ〜ダメだった、みたいな。それがいいんですよね。最近強くなってきたので嬉しいですね。幸せです。
そう考えると、今が夢のよう。今が“とっておき”です。