日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 11
<マエストロと新星が紡ぐストーリー>
沼尻竜典(指揮) インタビュー
オーケストラとホールが贈る、エレガントな平日の午後『とっておきアフタヌーン』、2019-20シーズンのコンセプトは「マエストロと新星が紡ぐストーリー」。10月8日(火)開催Vol.11の指揮者は沼尻竜典さん。サントリーホールには1991年にデビューされて以来、数多くご出演いただいている、お馴染みのマエストロです。
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チェロの新星、鳥羽咲音(さくら)さんとの共演です。鳥羽さんはこれがサントリーホール大ホールデビューとなりますが、指揮者としてなにかメッセージはありますか?
サントリーホールでデビューできるとはなんと運が良いのでしょう。最高の響きの中で、心地よく楽に弾けるのではないでしょうか。オーケストラもサントリーホールに慣れている日本フィルなので安心です。
一緒にステージに上がる以上、指揮者もオーケストラも「同僚」、ドイツ語でいうところのコレーゲ(Kollege)になるわけですから、自分が一番若いからといって気を使ったりしなくても大丈夫です。
鳥羽さんのような“新星”に対して、どのような思いを持っていらっしゃいますか?
これから人生経験を積んでいけば、同じ作品でも今まで気がつかなかったことに気づいたりして、演奏の内容も深まっていくでしょう。たとえば家庭を持つとか、ライフスタイルにも変化があるだろうし、それが演奏に反映されていくわけです。若い人が楽しみなのは、そこですね。天才が出てくると周りは大騒ぎするけれども、デビューのその先が大事ですから、キャリア作りを焦らずに、お婆ちゃんになるまで長く演奏していただけたらと思います。
聴く側としても、デビューコンサートに立ち会って、その後の成長をずっと追っていくのは楽しいですよね。世界的に有名になった暁には「私は彼女のデビューを聴いてたんですよ!」と自慢もできます(笑)。
鳥羽さんは 14 歳の中学 2 年生です。マエストロは 14 歳の頃はどんな音楽体験をされていましたか?
ピアノを習ったり、コーラス部で歌っていたくらいです。それより放送委員会の活動の方が楽しかった。テレビ放送を、番組を作って給食の時間に放送していたんですよ。毎日生放送です。各教室にテレビがあって全校生徒が見ていました。
音声だけでなく、映像も!本格的ですね。
掃除の時間は音声だけの放送になるんですが、選曲も工夫して、少しアップテンポの曲の方が手がよく動くんじゃないかとか(笑)。
ただ、歌謡曲は禁止だとか制約もありました。放送委員会の予算で買うレコードは自分たちで決められたのですが、三善晃の合唱曲を密かにリストに入れたり、好き勝手やっていました。
今でも放送の仕事をする時にはその時代の経験が活きています。
好評だった番組などは覚えていますか?
中学1年生たちの遠足の日に、朝、彼らの出発場所の井の頭公園駅でインタビューに行ったんです。録音機を回して「何が楽しみですか?」「おやつは何を持ってきましたか?」みたいな質問をたくさんして、すぐ学校に戻って編集作業。その日のお昼にオンエアしました。
早い!
新入生にアナウンス研修などもしました。それぞれの適性を見て技術かアナウンスか決めるんです。3 年生の時は委員長でしたから責任も大きくて。アナウンス担当の女子同士の葛藤とか、人間関係もいろいろ学びました(笑)。この音楽はかけちゃいけないと言ってくる先生と衝突することもありましたね。生放送中に放送室に来て「直ちにやめなさい!」って。やめませんでしたけど(笑)。
中学生のときの放送委員会の経験が、その後の指揮者人生に大いに役立っていることがよくわかりました。鳥羽さんも今、学校生活と音楽活動の両方を楽しんでいらっしゃるようです。「とっておきアフタヌーン」では、チャイコフスキー『ロココ風の主題による変奏曲』で共演ですね。
大学時代に散々伴奏もしましたし、ロストロポーヴィチをはじめ、いろいろなソリストと共演したこともある慣れた曲ではあるのですが、演奏するたびに難しさを感じます。変奏曲ですから、各変奏によってテンポも音楽の表情も変わるので、次の変奏が始まった瞬間にそれにふさわしいテンションで開始しなければなりません。スイッチを瞬時に切り替えていく。ソリストのみならず、オーケストラ、指揮者にとっても厄介な曲です。
オープニングは、プロコフィエフのバレエ音楽です。
リューベック歌劇場で何度もバレエ公演を指揮するチャンスがあったので、舞台が見えるような演奏ができればと思っています。
後半にはストラヴィンスキー『春の祭典』を選ばれました。
初演された当時は衝撃作としてスキャンダルになりました。日本でも、昭和まではこの曲を演奏することは一つの大イベントでしたが今や普通のレパートリー。むしろ古典として、リズムや不協和音の面白さを味わう時代になっていると思います。
平日の昼間、刺激的というか、ウキウキする感じになるかもしれませんね。
ウキウキしますよ。踊りの音楽ですから。テーマが生贄(いけにえ)なので、本当はウキウキしちゃいけないのかもしれないけれど(笑)。
火山がブクブクと音を立て、始祖鳥が優雅に滑空し、太古の人間たちが呪術を行なっているような光景。そのような光景は、今なお我々のDNAの中にインプットされているのかもしれません。「春の祭典」の音楽は、脳みそを通らずに直接体に響いてきます。
マエストロは2003 年から 2008 年まで日本フィルの正指揮者を務められていましたが、最近の日本フィルについてはどう思われますか?
昨年末久しぶりに共演しましたが、世代交代で若い顔ぶれが多くなりました。ラザレフさんやインキネンさんといった国際的な指揮者から日常的に刺激を受けて、鍛えられているんだなと感じました。
最後に、“とっておき”アフタヌーンにちなんで、マエストロにとっての“とっておき”を教えていただけますか? 日々の暮らしの中でのお気に入りの時間や、お気に入りのものがあれば。
何でしょうね......やっぱり本番の最中が一番楽しい。それを皆さんと共有できるのは幸せなことだと思います。