とっておき アフタヌーン Vol.9
とっておき アフタヌーン Vol.9

<ロマンをめぐる物語 ―“愛” >

指揮・角田鋼亮インタビュー

サントリーホールと日本フィルハーモニー交響楽団が平日のマチネでお届けするシリーズ「日本フィル&サントリーホール とっておき アフタヌーン」。2018-19シーズン最終回の指揮者、角田鋼亮さんにお話を伺いました。

  • 角田鋼亮

    角田鋼亮

    Ⓒ大杉隼平

  • 角田鋼亮

    角田鋼亮

    Ⓒ大杉隼平

“オーケストラとホールが贈る、平日午後のエレガンス”『とっておきアフタヌーン』、いよいよ2018-19シーズンの最終回となります。

今回のテーマは「愛」です。クラシック音楽の魅力をこれから知っていただく方にとって、なにかテーマがあったほうが、音楽から想像を膨らませやすいかもしれませんね。素敵な内容だと思います。

今が旬で、これから注目し続けたい指揮者とソリストを迎えての演奏会というのが、2018シーズンのコンセプトだと伺っています。今回のソリストはヴァイオリニストの成田達輝さんです。今までに共演されたことはありますか?

私は今、大阪フィルの指揮者を務めていますが、彼らとの最初の演奏会でソリストを務めていただいたのが、成田達輝さんでした。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を一緒に演奏しました。昨年は札幌でも共演の機会がありましたし、先日は、仙台で行われているクラシックフェスティバル「せんくら」で、彼が室内楽を演奏されるのを聴きに行き、とても感動しました。
成田さんの演奏はファンタジーにあふれていて、“天衣無縫”という言葉がぴったりだと思います。自然に心の中から沸き上がったものを、そのまま豊かに紡いでいく感じ。演奏会ではいつも、わたしたちを全然知らない世界にいざなってくれ、見たこともない景色を見せてくれるようなヴァイオリニストだと思っています。メンデルスゾーンでの共演は初めてなので、どんな感じになるのかなとすごくワクワクしています。とても楽しみです。

  • とっておきアフタヌーンVol.8 より

    「とっておきアフタヌーンVol.8」2018年9月
    指揮:川瀬賢太郎 バリトン:加耒徹

シーズンを通じて、バリトン歌手の加耒徹さんにナビゲーターとしてご登場いただいています。

加耒徹さんは、実は彼が大学生の頃からすごく注目していて、演奏会の様子をYouTubeなどで見てチェックしていたんです。一昨年、大阪フィルでバーンスタインの『ミサ』という大作に携わったとき、指揮者の井上道義さんから、誰か良いバリトン歌手がいないかと言われ、真っ先に私が推したのが加耒さんです。
彼は本当にプロフェッショナルで、1回目のリハーサル時からすべてが完璧なんです。もちろんすべて暗譜しているし、ある程度自分の中でこうしたいという演技のプランを持っていて、でもマエストロからの要求にも柔軟にすぐ反応できる。とても頭のいい方ですし、踊りもものすごく上手で。尊敬しています。共演するのは、今回が初めてで、ニーノ・ロータの『ロメオとジュリエット』のテーマを歌っていただきます。

  • とっておきアフタヌーンVol.8 より

    「とっておきアフタヌーンVol.8」 2018年9月
    指揮:川瀬賢太郎 バリトン:加耒徹

今回のプログラムは、2018シーズンの今までの指揮者、鈴木優人さんや川瀬賢太郎さんに「この回の選曲、ちょっとずるくない?」と言わせるほどの、まさに名曲揃いです。

たしかに、ラフマニノフの第3楽章だけ演奏するのはずるいかもしれませんね(笑)
“愛”ということでくくりましたが、愛といってもいろいろな種類がありますよね。幸福感に溢れた愛、いろいろな人から愛された作品という意味での愛、邪魔される愛、悲劇をまとった愛⋯⋯愛のいろいろな形を音楽で描きわけたいなと思っています。
今もお話に出たラフマニノフの『交響曲第2番』は、個人的にもすごく思い入れのある曲です。青春時代⋯⋯というとちょっと恥ずかしいですけれど、高校生のときに毎日のように聴いていた作品です。とくに“愛”と銘打たれているわけではありませんし、愛の物語を描写しているわけでもありませんが、私としては、この第3楽章は“叶わなかった愛”を描いていると思うんです。数々の作曲家が愛の調性として利用してきたイ長調で書かれていて、愛を象徴する楽器のクラリネットで、一筆書きしたラブレターのような、息の長い旋律が聴こえてきます。あたかもロシア文学で、何百キロも離れた所にいる人のことを想って手紙を書いているようなシーンが頭によぎる、素敵な楽想があって。窓辺にいて、空を眺めながら想いを馳せるような。ロシアの寒さのようなものも感じますが、心の中はちょっと熱くなったり。そしてクライマックスが訪れるのですが、そのあとの音楽の展開からすると、その恋は叶わなかったのかなと、ちょっとほろっとした苦みもあるような作品です。でも、とくにテーマがあるわけではないので、自由に愛の形を想像しながら聴いていただける作品だと思います。
メンデルスゾーンの『ヴァイオリン協奏曲』は、作曲家自身も、この作品も、本当に多くの人から愛されています。その訳を、演奏を聴いて感じていただければと思います。モーツァルトの『フィガロの結婚』は、いろいろな邪魔にあいながらも、なんとか困難を乗り越えて、若いスザンナとフィガロというカップルが結びつくというオペラです。とくに序曲は、ワクワクしますよね。エルガーの『愛の挨拶』は、奥さんに対して婚約記念に描かれた作品です。
チャイコフスキー幻想序曲『ロメオとジュリエット』は、シェイクスピアの戯曲のそれぞれのシーンを、わかりやすく描いた作品。両家の対立のシーンもあれば、有名なバルコニーのシーンもあり、最後に死と死が重なりあってしまうという悲劇の部分もあり。それらが非常に劇的に描かれているので、チャイコフスキーの妙技を味わっていただきたいと思います。演奏会の始まりが、加耒さんの歌うロメオとジュリエットですから、最初と最後がロメオとジュリエットという恋愛劇で括られるわけです。

  • 「日本フィルハーモニー交響楽団 第44回夏休みコンサート」2018年7月

    「日本フィルハーモニー交響楽団 第44回夏休みコンサート」2018年7月

『とっておきアフタヌーン』2018-19シーズンの締めくくりの回となりますが、意気込みは?

なんといっても、まず、サントリーホールに入るということが、特別な経験、機会だと思うんですよね。たとえば、ヨーロッパで教会を訪れるような。自分にとってもそうなんですが、それ自体、すごく価値がある体験だと思います。そして、本当にすばらしいお2人のソリストとの共演で、作品も名曲揃いです。日本フィルの皆さんとは、昨夏、17公演もご一緒させていただいています。
すべての楽団員さんと1度は必ずご一緒して、本当に関係を深めていったという感覚があり、とてもいい関係になっていると思っています。期待して聴きに来てください。
演奏会の主旨としても、カジュアルとフォーマルの間ぐらいで、アフタヌーンティーを楽しむような感覚でいらしていただければ。日々の暮らしのアクセント、刺激になるような時間になればいいなと思います。
お昼に聴いた音楽は、それから一日中頭の中で巡っていると思いますし、ご自宅に戻られて、その余韻をまたご家族と共有していただいて。それが昼の演奏会のひとつの魅力ですよね。

  • 「日本フィルハーモニー交響楽団 第44回夏休みコンサート」2018年7月

    「日本フィルハーモニー交響楽団 第44回夏休みコンサート」2018年7月

今回、各指揮者、ソリストの方々にキャッチコピーがつけられています。角田さんは、“才能あふれる若きオールラウンダー!”となっています。

ちょっとこそばゆい感じもありますが、オールラウンダーというのは、すごく嬉しい言葉です。今、オーケストラの定期演奏会はもちろん、オペラの上演や、つい先日はゲーム音楽のコンサートもしましたし、音楽鑑賞教室もありますし、音楽の仕組みや魅力を知っていただくワークショップなども手掛けていて、いろいろな場面で活動する機会をいただいています。今はいろいろな経験値を高めている時だと思っていて、40歳を回ったら、自分の的をもう少し絞っていって、何かのスペシャリストになれたらいいなと思っています。
サッカーや将棋がすごい好きなんですけれど、たとえば長谷部誠選手はオールラウンダーと言われていますし、将棋でも、いろいろな戦型をさしこなす棋士が好きなので、オールラウンダーという単語には憧れがありました。

平日の午後にコンサートを楽しむというライフスタイルの提案でもあるのですが、昼公演というのは、演奏者側にとっては、夜公演と気分が違うことなどありますか?

そうですね⋯⋯とくに心構えが変わるとか、朝起きる時間が変わるということは個人的にはないんですけれど。演奏会が終わったあとにご飯に行ったり、打ち上げの時間が長くとれるとかいうのが、わたしには嬉しいところです。終電もあまり気にしなくていいですし。きっとそれは、お客様にとっても同じですよね。ですから、わたしは昼のコンサートは好きですし、体にも優しい時間帯のコンサートかなと思います。
育児や家事に追われて家を離れにくい方にとっても、この時間なら多少出やすいというのもあるのかな。普段なかなか夜のコンサートには出掛けられないという方にとっても、いい機会になるといいなと思います。

  • 「オープンハウス~サントリーホールで遊ぼう!」2012年4月

    「オープンハウス~サントリーホールで遊ぼう!」2012年4月

サントリーホールというのは、角田さんにとってどういう存在ですか?

サントリーホールがオープンしたのは1986年ですよね? そのときは名古屋に住んでいたのですが、オープンしたばかりのときに、両親に連れられて来た覚えがあります。
大学時代は、もう足繁く通い、数々の名演に接してきました。私は、舞台下手の上のバルコニー席がお気に入りで。ちょうど指揮者の表情も見られるし、楽団員さんの息遣いも感じられるし、その位置からだと他のお客さんがどういう空気で聴いているかというのを、俯瞰して見られますよね。音も良い。ですから、学生時代はLAブロックの決まった席を買って聴いていました。
いま自分が舞台袖にはけるときは必ずその席を見上げて、どういう方がいらしているかなって見ますね。けっこう学生の方が座っていることも多くて、過去の自分を思い返しながら⋯⋯。
自分がサントリーホール大ホールの舞台で初めて指揮をさせていただいたのは、オープンハウスのときでした。2012年の4月です。そのとき演奏した『フィガロの結婚』序曲を、奇しくも、今回のとっておきアフタヌーンで演奏するんですよね。舞台に上がるだけで舞い上がるような気持ちになったのですが、控え室の高級感に、もう⋯⋯ちょっと特別な気分になりました。素敵な絵が掛かっていて。

  • 「オープンハウス~サントリーホールで遊ぼう!」2012年4月

    「オープンハウス~サントリーホールで遊ぼう!」2012年4月

その控え室を、いろいろな指揮者の方が使われてきたと思うと、また感慨がありますね。

そうそう、そうなんですよね。
このホールは本当に響きが素晴らしいです。指揮台で聴いていると、各楽器のそれぞれの動きも聴こえますし、混ざりあった芳醇な響きというのも体感できるし、お客様が固唾をのんで聴いていらっしゃる空気感も伝わってきますし、すべてが指揮台に集まってくるホールだなという感覚があります。
ヴィンヤード形式で客席に囲まれているので、大きな家のような温かみも感じます。包まれる感じで、同じ空気を共有している感覚がすごくあります。もちろん、サントリーホールに出演するというだけで、背筋がピンと伸びるような緊張感があるんですけれど、いざ舞台に立つと、なにか温かいものに包まれている感じがして、すごくリラックスして指揮ができるホールです。

最後に、“とっておき”アフタヌーンにちなんで、角田さんにとっての“とっておき”を教えていただけますか?

今は、2歳になった息子と過ごす時間が、とっておきの時間ですね。大阪、名古屋、仙台のオーケストラの指揮者を務めていることもあり、東京を離れる時間が長いんです。だからこそ、帰ってきて、子どもとゆっくり公園などで過ごす時間が貴重で、とっておきですね。リラックスしますし、ただ楽しいだけでなく、彼の成長ぶりから、こちらも学ぶことがいろいろあって。
音楽につながることを発見することもいっぱいあります。たとえば、彼にとってはすべてのことが初体験なのですが、どんな音楽でも⋯⋯私はけっこうマニアックな曲とか現代曲を家で聴いたりもするんですけれど、そういった音楽でも抵抗なく聴き入ったり、自然に体を動かしたりするんですよね。既存のイメージや偏見がないことの素晴らしさを感じます。何にでも興味があるという状態は、自分も見習わなければいけないな、と。実験的に彼にいろいろな曲を聴かせてみるんです。たとえば、大人だったらちょっと退屈してしまいそうな、ものすごくテンポのゆっくりな曲、優雅なバロック音楽でも、体を動かして聴きますし、ストラヴィンスキーの『春の祭典』なんかもノッて聴いていたり。有名無名問わず、ですよね。
音楽には人の心を動かす、本能に訴える力がやはり備わっているんです。大人になると、それを知識とか既存のイメージで避けたり敬遠してしまうこともありますが、子どもにはそういうことがまったくないので、いいなと思います。

“人の心を動かす音楽”『とっておきアフタヌーン』での演奏を楽しみにしています。

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  • *ご購入時に、チケットの半券をご提示ください。
  • *ご予約・お問い合わせ先:シェフズガーデン カメリア TEL03-3224-6654

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