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『Hibiki』Vol.2 2017年12月1日発行

クリスマスには清らかな歌声を、
新年はウィンナ・ワルツで晴れやかに!

心躍る季節になりました。
クリスマスにはキャロルの歌声を聴き、新年へのカウントダウンはジルヴェスター(ドイツ語で大晦日)・コンサートで。お正月は優雅にニューイヤー・コンサートを楽しむ……
そんな過ごし方が、日本でも定番になりつつあります。
華やかで楽しい、サントリーホールのウィンターシーズンをご紹介します。

クリスマスを彩るハーモニー

クリスマス・イヴ。
「なにやら高まる気持ちそのままに、音楽を楽しんでください。クリスマス・キャロルの数々を、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ )の世界一のアカペラハーモニーで、お聴かせします」と語るのは、『サントリーホール クリスマス オルガンコンサート クリスマスChoice』の仕掛け人、指揮者・オルガニストの鈴木優人さんです。12月23日はBCJによる『メサイア』全曲演奏会、24日はBCJによるクリスマスオルガンコンサートが、ここ数年の定番です。
今年のイヴのコンサートでは、ブラームスの美しいオルガン曲『11のコラール前奏曲』で、透明な歌声と伸びやかなオルガンの響きに包まれ、浄化された気分に。さらに、BCJの管弦楽器の名手たちも登場、ベートーヴェン『ロマンス第2番』をベートーヴェンの時代のヴァイオリンで、アルゼンチンの作曲家でバンドネオン奏者アストル・ピアソラの『アヴェ・マリア』をヴィオラで、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの『ガブリエルのオーボエ』をバロック・オーボエで奏でます。普段のBCJのコンサートではめったに聴くことのできない、この日ならではのロマンティックな調べに、心地よくあたたかな気分が広がることでしょう。ソリスト歌手によるシューマンやR. シュトラウスのクリスマス歌曲も、コンサートホールで聴けるまたとない機会です。
「クリスマスは赦しの日。音楽に包まれながら、今年1年をゆっくり振り返るような場になれば。演奏のクオリティは自信を持ってお届けします。でも堅苦しくなく、家族で過ごすクリスマスのような気分でいらしてください」。
清らかで贅沢な気分のイヴを!

鈴木優人さんは、サントリーホールのオルガンを最もよく知るオルガニストの1人。オーバーホールしたばかりで「よりクリアにきれいなった」音色をお楽しみください。

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)

バロック時代の音楽作品をオリジナル楽器で演奏することを目的に、鈴木雅明氏によって結成されたオーケストラと合唱団。世界の第一線で活躍するスペシャリストたちのアンサンブルは、国内外で絶賛されています。

お祭り気分のジルヴェスター

音楽に溢れた、あのウィーンの華やかで楽しい年末年始を日本でも実現したい――そんなサントリーホールのある制作プロデューサーの想いから、サントリーホールのジルヴェスター・コンサートは25年も前に始まりました。
大晦日のウィーン。人々は劇場やホールやレストランなど様々なイベント会場へと繰り出します。至るところで音楽が流れています。1年を締めくくるこの日に、国立オペラ座とフォルクスオーパーの2つの劇場で、ヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタ『こうもり』を楽しむのが昔ながらの伝統です。それぞれの豪華な配役陣が街の話題になります。
22時、王宮では大舞踏会(ジルヴェスター・バル)が開催されます。これを皮切りに2月までの2ヵ月間、長く寒い冬を吹き飛ばすウィーンの舞踏会シーズンが続くのも伝統。ワルツシーズンの幕開けです。
そして、時計の針が零時を指した瞬間、夜空に高々と花火が上がり、祝福の爆竹が方々で鳴らされます。おめでとうのハグ&キッス。乾杯!乾杯!乾杯! 夜通し踊り、歌い、飲み明かしながら、新年を迎えるのです。

New Year’s Eve in Vienna / City hall
© Österreich Werbung, Photographer: G. Popp

Volksoper Wien
© Dimo Dimov/Volksoper Wien, zum einmaligen Abdruck freigegeben

ウィーンっ子たちが愛する「フォルクスオーパー」(右)では、オペレッタ『こうもり』が上演されます。大晦日の夜、ウィーンの空には花火が舞います。

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団

そんなウィーンの賑わいを、丸ごとサントリーホールに持って来てくれるのが、ウィーンの伝統ある劇場フォルクスオーパー(民衆の劇場の意)のオーケストラです。大晦日には本拠地で『こうもり』のオーケストラ・ピットにいるはずなのに、なぜ東京に?
――そうなのです、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団はこの20数年間毎年、地元組と日本組と半分ずつに分かれて、ジルヴェスターとニューイヤーのコンサートを開催しているのです(日本組を希望する楽団員が多くて、競争率は高いそうです!)。
フォルクスオーパーはオペレッタの殿堂。オペレッタは、気楽に楽しめるハッピーエンドの恋物語が大半です。『こうもり』は19世紀のウィーンを舞台に、仮面舞踏会あり刑務所騒動あり夫婦愛あり浮気あり復讐劇もありながら、最後は「すべてはシャンパンの泡のせい」と乾杯してめでたく幕を閉じる、喜歌劇です。このウィンナ・オペレッタの最高傑作を、コンサート形式でギュッと凝縮してお届けしようというのが、今年の『ジルヴェスター・コンサート』の観どころ聴きどころ。一度はどこかで耳にしたことのあるワルツやポルカの軽快な響き、「お酒を飲めば物事がよく見えてくる」とか「逆らえない運命を忘れてしまえる人は幸せだ」とか、人生の真実(?)を散りばめた台詞や歌声に、心がすっかり解き放たれてしまうかもしれませんね。
そして、毎年趣向を凝らしたカウントダウンが始まります。会場全体の気持ちがぴったり合わさり……零時。あけましておめでとうございます! 恒例のラデツキー行進曲で舞台も客席も一体となり、楽しさ最高潮。銀テープが勢いよく飛び交い、華やかに新年を迎えるのです。

2016‒2017 サントリーホール ジルヴェスター・コンサート、『こうもり』の一幕。

2018年の幕開け

ニューイヤー・コンサートに向かうお客様の顔は、みな晴れやかです。着物姿のご夫婦や、おめかしをしたお孫さん連れの3世代家族、会場での一体感を楽しみに毎年いらっしゃるお馴染みさんの姿も。
ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団による優雅な管弦楽、華やかな歌声、美しいバレエ・ダンサーも登場する、心躍る舞台。今回で3度目のニューイヤーを指揮するマエストロ、グイド・マンクージは、作曲家でもあり、氏の作曲によるワルツ『ローマ散策』は日本初お披露目です。ウィンナ・オペレッタの父スッペ作『ボッカチオ』からの名曲や、イタリアのオペラ作曲家ポンキエッリ『時の踊り』、ヨハン・シュトラウスⅠ世『ヴェネツィア人のギャロップ』、ヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタ『ヴェネツィアの一夜』から「ゴンドラの歌」など、そこはかとなくマエストロの故郷のイタリアの薫りがするのも、2018年ニューイヤー・コンサートの選曲の特徴です。もちろん最後は、『美しく青きドナウ』で。そしてアンコールに登場する曲は……乞うご期待です!

サントリーホールのニューイヤー・コンサート、記念すべき第1回は1988 年。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで有名なウィリー・ボスコフスキー氏の指揮で実現しました。写真は当時のプログラム。

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団の楽団員たち。ウィンナ・ワルツで大活躍する楽器、ウィンナ・ホルンやウィンナ・オーボエ、打楽器奏者の活躍ぶりにも注目です。

今年、ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団は100周年を迎えました。私達の音楽の第2の故郷である素晴らしいサントリーホールで、皆様方と一緒に私達の100周年と新年をお祝いできることは大きな喜びです。
若くして活躍しているソプラノ歌手アドリアーナ・クチェローワは、日本での初登場を楽しみにしています。マエストロ、マンクージも、テノール歌手モンタゼーリもオーケストラも、再び素晴らしい日本で演奏できることを大変に楽しみに、また皆様方にあたたかく迎えて頂けることをとても嬉しく思っています。再会を楽しみに!

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団一同

駐日オーストリア大使にウイーンの年末年始の様子を伺いました。

フーベルト・ハイッス駐日オーストリア大使

大晦日や元日は、過去一年の成功を祝福し将来に期待して、乾杯します。親戚や親しい仲間たちと「鉛占い」で新年を占ったり、幸運を呼ぶお守りを贈り合う伝統的な風習があります。1874年に初演されたオペレッタ『こうもり』の観劇も、大晦日に欠かせない風物詩となりました。「ウィーンのジルヴェスタープファード」(大晦日フェス)もヨーロッパ最大の大晦日イベントです。多彩なプログラムが街中で開催され、昨年度は世界中から65万人の人々が集まりました。
午前零時ぴったりに聖シュテファン大聖堂の大鐘「プンメリン」が迫力ある低音で鳴り始めると、オーストリア中が一斉に『美しく青きドナウ』の調べで踊りながら、エレガントに新年へと旅立つのです。
新年最初のハイライトは、元日の午前中、各地で行われるニューイヤーコンサートです。とくにウィーン楽友協会大ホールでの魅惑的な響きは、90数ヵ国5千万人以上の視聴者が、テレビの生中継で楽しんでいます。オーストリアのこれらの伝統を誇りに思い、末永く後世に引き継がれることを心から願っています。

フーベルト・ハイッス駐日オーストリア大使