アーティスト・インタビュー

サントリーホール ジルヴェスター・コンサート 2024
キユーピー スペシャル サントリーホール ニューイヤー・コンサート 2025

シピーウェ・マッケンジー(ソプラノ) インタビュー

ウィーン・フォルクスオーパー交響楽団がサントリーホールを華やかに彩る年末年始の公演へ出演するのはソプラノ歌手のシピーウェ・マッケンジー。2007/08シーズン以来、この「サントリーホール ジルヴェスター&ニューイヤー・コンサート」へ度々出演しており、2020年も圧巻の歌唱を披露した彼女に、公演へ向けての意気込みを語っていただきました。

前回の来日以降、新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)を経て、世の中は大きく変わりました。ご自身の中で、パンデミック前後で何か変化はありましたか?

パンデミックは、極めて不安定なものでした。社会のあらゆるレベルで影響が生じたと思います。個人的には、私たちは社会の中で生きる存在である、と気づかされ、人とのつながりの重要性を感じるようになりました。私たちは、世界から切り離されて生きていくことはできないのです。パンデミックを通じて、確かに他人と交流しなくても一人で存在し得ることがわかりましたが、その結果、人間にとっての究極の限界も突きつけられました。私自身は、今までより体調を気に掛けるようになり、自分が病気にならないようにするだけでなく、周囲の人々に病気を移さないように注意するようになりました。それが私にとっての最も大きな変化です。また、パンデミックで目の当たりにしたように、自由な時間とは一瞬にして失われ、瓦解してしまう可能性があり、だからこそ一瞬一瞬を大切にしなければならない、ということにも気付きました。自分自身や周囲の人々の健康に配慮することは、非常に重要です。

今年に限らず、年末年始はほとんど演奏活動をしていらっしゃると思いますが、もしこの期間にコンサートの予定がない場合、どのように過ごしますか?

幼少時から青春時代までは、家族と一緒に過ごしていました。私にとって新年は内省する時間です。自分の内面を見つめる時期なので、新年のパーティーには参加せず、静かに過ごします。ポルトガルの自宅にいる場合は、通常、海辺の村を訪れ、美味しい食事を作り、キャンドルを灯して、過ぎ行く年に起きた素晴らしい出来事に感謝します。そして、新年の抱負や目標を胸に誓います。

ジルヴェスター・コンサートとニューイヤー・コンサートの聴きどころや過去の思い出を教えてください。

今回のコンサートに関しては、共演することで生まれる芸術的な体験全体を見てくださると嬉しいです。一方、これまでのコンサートを振り返ると、特に印象に残るシーンが2つあります。一つは、2019/20年シーズンの最終ツアーです。オーケストラがサントリーホールで『カヴァレリア・ルスティカーナ』の間奏曲をリハーサル中、舞台の袖に立って演奏を聴いていた私は、彼らの魔法に魅了されました。あまりにも美しい音色に涙が出そうになり、「ああ、今後の音楽人生で今を超える瞬間はないかもしれない」と思いました。もう一つの思い出は前回、ミロスラフ・ドヴォルスキーと共演した2016/17年シーズンのツアーでのことです。名古屋で開催された最終コンサートの一つでした。私たちは『ほほえみの国』のデュエットを歌いましたが、歌い始めた瞬間から、オーケストラと観客と一体になっているように感じました。形容しがたい、スピリチュアルな感覚でした。私にとって、シーズン最終のコンサートはいつも特別で、感動的なものになります。

2019年のジルヴェスター・コンサートより

フォルクスオーパー交響楽団の最大の魅力は何でしょうか?

フォルクスオーパー交響楽団は、ウィーンでもトップクラスのオーケストラです。彼らの演奏は並外れて優雅で、ゆるぎない演奏技術に裏打ちされています。有機的なアンサンブルが一体となって音楽を奏でることの意味を本能的に理解しているのです。 彼らと共演するたびに、このような高い水準の芸術体験を共に創り出すことができて幸運に思います。夢のような体験です。

サントリーホールでは、ジルヴェスター・コンサートやニューイヤー・コンサートを通じてウィーンの音楽文化を日本に紹介することを目指しています。日本に「音楽文化」 を広めるために、何が重要だとお考えですか?

とてもいい質問ですね。一言で答えるのは難しいです。というのも、社会のさまざまな側面に関わることですから。私が思うに、もっとも重要なのは、一般の人々、特に子どもや若者といった若年層への教育だと思います。個々の経済状況や地位に関係なく、誰もが芸術に触れる機会を与えられるべきだと私は考えています。なぜなら、芸術には人生を豊かにし、人生を変える力があるからです。そういう意味では、子どもや若者たちを無料コンサートに招待することが最善の方法ではないでしょうか。過去の名曲と現代の作品を組み合わせた演目にすること、 芸術がすべての人のものであると示せるよう創造性を駆使することが肝心です。後者は、もちろんライブ公演でも追求できますが、一般の人が自宅で見られる映画や テレビなどのメディアを利用するのもいいでしょう。文化への意識を高めるには、芸術に触れる機会がなくてはなりません。芸術が一般の人にも開かれれば、人々は芸術への関心を高め、もっと体験したくなるはずです。

日本の聴衆へメッセージをお願いします。

クラシック音楽を愛する日本の聴衆の皆様に感謝いたします。真摯に耳を傾け、気持ちを込めて演奏を聴いてくださる日本の方々に、いつも感謝しています。アーティストとして、私たちは演奏するステージからだけでなく、聴衆の皆様とともに織りなす空間からもエネルギーを感じます。今回の公演も非常に楽しみですし、素晴らしい芸術体験をお届けしたいです。私の中で、日本の聴衆の皆様は特別です。日本をまた訪れることができて、とても嬉しく思います。

◆シピーウェ・マッケンジー(ソプラノ) プロフィール

カナダのバンクーバー生まれ。ニュルンベルク州立劇場での『ラ・ボエーム』ムゼッタ役でキャリアをスタート。ウィーン・フォルクスオーパー、パルマ王立歌劇場、サンディエゴ・オペラ、バーデン州立歌劇場、ザンクト・ガレン劇場、ラインガウ音楽祭などで活躍。このジルヴェスター&ニューイヤー・コンサートには、2007/08シーズン以来度々出演し、迫力の歌唱で会場を席巻している。