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第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサート
濱田芳通(指揮・リコーダー) ヘンデル:オペラ『リナルド』

演出家のつぶやき

中村敬一                 

中村敬一(演出)                                 ©Keiichi Kimura

 ヘンデルは1706年ごろから、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアなどを旅して現地でイタリアオペラに触れ、自らもオペラ『アグリッピーナ』をヴェネツィアで初演して成功をおさめることができた。1710年にはハノーヴァー選帝侯の宮廷楽長の地位を得るがドイツに留まることはなく、すぐに旅に出て、そのままイギリスへ渡ることになる。当時のロンドンでは英語オペラの人気に陰りが出はじめ、イタリア語によるイタリアオペラの人気が高まりつつあった。そんな中、1705年に開場したばかりの女王劇場(Queen’s Theatre)からの依頼で書き上げたのがオペラ『リナルド』。過去の成功作から15曲のアリアを転用してわずか2週間で作曲したという。
 NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」の挿入歌としても使われたアルミレーナの歌う「私を泣かせてください」のメロディも、1705年ヘンデルが19歳の時に書いたオペラ『アルミーラ』の第3幕にサラバンドとして使われ、その後1707年のオラトリオ『時と悟りの勝利』の第2部のピアチェーレのアリアとしても、再度、転用されていた。
 つまり、イタリア語がよく分からないイギリスの観客の前で、イタリア語で上演されたイタリアオペラが人気を博すために、まずは美しいメロディが必須だったのだ。ヘンデルがイタリア時代に書いた過去の作品からの転用も含めて名曲を並べたことが功を奏して、『リナルド』は大評判となる。
 そして、もうひとつ、舞台の仕掛けを多用したスペクタクルな舞台……「魔法オペラ」だ。魔法使いの登場、美女を島に誘拐する、英雄を恋と魔法で落とす、その挙句とんでもない相手と恋に落ちる、異国情緒が溢れる派手な場面展開、魔法にかけられた美しい庭、小鳥がさえずり飛び交う並木道、恐ろしい山と洞窟、火を噴くドラゴン、空から降りてくる黒い雲。これらが「魔法オペラ」の定番だ。
 1711年、初演のロンドン、女王劇場では舞台上の様々なスペクタクルな仕掛けで観客を魅了し、劇場の中で実際に花火を多用して、上演中は常に消防隊が劇場のそばに待機せねばならなかったという。……ちなみに、この劇場は20世紀には『オペラ座の怪人』を世界初演している。よっぽど仕掛けやスペクタクルがついてまわる劇場なのだろう。

 う~ん、さてさて……。「美しいメロディ」は濱田さんとアントネッロ、歌い手に任せるとして、どうやら演出家の仕事は、この「魔法オペラ」をどう魅せ、観客の心を捕らえるかということになるようだ。消防車をサントリーホールに横付けというわけにはいかないが……。照明、映像、最新技術で、当時の花火以上のインパクトある舞台を用意しよう。

 濱田氏にご一緒させて頂いた最初が2019年の「ダ・ヴィンチがプロデュースした幻のオペラ『オルフェオ物語』」で、それ以来、僕は濱田氏のバロック・オペラの「魔法」に掛かってしまった。今回、濱田氏の第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサートでこちらから「魔法」を届けられればと思っている。

中村敬一(演出)                                 ©Keiichi Kimura
濱田芳通(指揮)
レオナルド・ダ・ヴィンチがプロデュースしたオペラ『オルフェオ物語』」(2019年)

■ 管弦楽:アントネッロ
濱田芳通主宰にて1994年結成。以来、「作品が生まれた時のスピリット」を大切に、躍動感、生命力が備わった、音楽の持つ根源的な魅力を追求している。国内外にてCD録音多数。古楽の解釈と演奏において第一線で活躍するグループとして、常にメディアから高い評価を得ている。
──彼らの演奏法は今後流行<モード>となるだろう 仏レペルトワール誌
──日本から発信される新しい古楽の潮流 仏ディアパソン誌
クラシック音楽の既成概念の枠を超えて純粋に「音楽性」を求めるその企画、作品は、クラシック音楽ファン以外からも注目と共感を集めている。
オフィシャル・ウェブサイト
オーボエ:小花恭佳/小野智子
ファゴット:長谷川太郎
リコーダー:大塚照道
トランペット:斎藤秀範/大西敏幸/村上信吾/金子美保
ヴァイオリン:天野寿彦/阪永珠水/高岸卓人/山本佳輝/廣海史帆/大光嘉理人/堀内麻貴/遠藤結子
ヴィオラ:多井千洋/佐々木梨花/本田梨紗
チェロ:武澤秀平/永瀬拓輝
ヴィオローネ:布施砂丘彦
リュート:高本一郎
ハープ:伊藤美恵
チェンバロ&リコーダー:上羽剛史
オルガン&グロッケン:谷本喜基
ティンパニ&パーカッション:和田啓

■ 演出:中村敬一
武蔵野音楽大学、同大学院で声楽を専攻、のち舞台監督集団「ザ・スタッフ」に所属してオペラスタッフとして活躍。以後、鈴木敬介、栗山昌良、三谷礼二、西澤敬一のもと演出の研鑚を積む。1989年より文化庁派遣在外研修員としてウィーン国立歌劇場にてオペラ演出を研修。帰国後リメイク版『フィガロの結婚』で高い評価を得、二期会公演『三部作』、東京室内歌劇場公演『ヒロシマのオルフェ』、日生劇場公演『笠地蔵』『北風と太陽』で演出力が絶賛され、95年第23回ジロー・オペラ新人賞を受賞。2000年3月には新国立劇場デビューとなった『沈黙』が高く評価され、01年ザ・カレッジ・オペラハウス公演『ヒロシマのオルフェ』では大阪舞台芸術奨励賞を受賞。オペラの台本も手がけ、松井和彦作曲『笠地蔵』『走れメロス』、新倉健作曲『ポラーノの広場』『窓(ウィンドウズ)』、前田佳世子作曲『どんぐりと山猫』などがある。バロック・オペラの演出も数多く手掛けており、「濱田芳通&アントネッロ」とのタッグは本作で4度目となる。国立音楽大学招聘教授、洗足学園音楽大学客員教授、大阪音楽大学客員教授、大阪教育大学講師、沖縄県立芸術大学講師、常葉大学短期大学部音楽科客員教授。

  • ©池上直哉
    第53回サントリー音楽賞 贈賞式より(2022年7月)

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