アーティスト・インタビュー

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サントリーホールでオルガンZANMAI!
オルガンネクスト

塩澤真輝(ポジティフオルガン) メッセージ

塩澤真輝(ポジティフオルガン)

サントリーホールでオルガンZANMAI!の「オルガンネクスト」は小さなオルガン、ポジティフオルガンにフォーカスした公演です。
演奏するのは将来を嘱望される若手オルガニスト塩澤真輝さん。公演に向けてメッセージと作品紹介を頂きました。ポジティフオルガンの特性を存分に活かしたエネルギッシュな演奏にご期待ください。

塩澤真輝(ポジティフオルガン)

ポジティフオルガンとは?

こんにちは。オルガニストの塩澤真輝です。この度は「オルガンネクスト」に出演させていただけることをとても楽しみにしております。

私がこの演奏会で弾かせていただく「ポジティフオルガン」とは可動式のオルガンのことです。他の楽器や歌手の方と一緒に演奏することを念頭において作られた楽器であるため、ポジティフオルガンの音だけをお聴きいただく機会はそう多くはないかもしれません。しかし、ソロの楽器としても非常に魅力的です。

サントリーホールのポジティフオルガン

バロック音楽を通してお届けするポジティフオルガンの魅力

プログラムの最初の4曲では、バロック音楽を通してポジティフオルガンの魅力をお届けします。

ヘンデルの『オルガン協奏曲 ニ長調』は、もとは弦楽合奏のために書かれた作品をヘンデル自身がオルガンで一人で弾けるようにしたものです。実はオルガン作品の歴史は編曲から始まったのですが、他の楽器なら複数の奏者が必要なところを一人でできるのがオルガンの特色です。流行歌をピアノなどで弾く現代の感覚と通ずるところがあるのかもしれません。

パッヘルベルの『シャコンヌ ヘ短調』は、バス声部で常に「ファ・ミ♭・レ・ド」という音型が繰り返し使われる作品です。この音型はファからドまで順番に下がっていることから「ラメント(=嘆き)・バス」とも呼ばれています。単純な音型ですが、パッヘルベルはこの音型を通していとも見事にドラマチックな展開を作り出しています。

バス声部が繰り返される『シャコンヌ』の次に演奏するベームの『イエス・キリストよ、賛美をうけたまえ』は、ソプラノに決まった旋律が置かれている作品です。同じタイトルの讃美歌の旋律が、最初は教会に集まった人が一緒に歌うような「コラール」の形で提示されます。その後はその旋律を使って5回、違った特徴を持つ「変奏」が行われます。

バッハの『前奏曲とフーガ 変ロ短調』は、平均律クラヴィーア曲集第1巻に収録されている作品で、この曲集は24のすべての長調・短調にもとづく作品から成ります。これは当時にとってはかなり画期的な取り組みでした。なぜなら当時の鍵盤楽器の調律は現代とは違い、ナチュラルが多ければ澄んだ響きに、フラットやシャープが多ければ濁った響きになるため、例えばこのフラットを5つ使う変ロ短調は従来の調律法では使い物にならないほど濁った響きがするはずだったからです。バッハは調による響きの違いを平均化した新しい調律法を使うことによってこの曲集を作ることが可能になりました。実際にどんな調律法だったかはわかっていないものの、依然として変ロ短調は決して明るい響きではなく緊張度の高いものだったと推測できます。バッハがこの響きにどんな思いを寄せていたのか、想像しながらお楽しみください。

塩澤真輝
リハーサル(2024年7月より)

新たな響きの探究

演奏会の最後には即興演奏をさせていただきます。即興演奏には色々なやり方がありますが、私が即興演奏をするときに自分に課しているテーマの一つに「新たな響きの探究」があります。「響き」という言葉の中には音色や和音など無数の要素が含まれるのですが、実は大きなオルガンではそういったことを繊細に表現するのは容易ではなく、逆にポジティフオルガンは小回りが効くために大きな可能性を秘めていると感じています。今回の即興演奏では『5→4→3→2→1→』というタイトル(制約?)をつけて、それまでの4曲では全く耳にしなかったような音楽の世界を表現できればと思います。

ぜひ今年の夏はポジティフオルガンで演奏する個性溢れるバロック音楽と新たな響きの即興演奏を聴きにサントリーホールへおいでください。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

リハーサル(2024年7月)より

塩澤真輝(ポジティフオルガン) プロフィール

2002年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。幼少から通う教会の電子オルガンに魅了され、9歳からオルガンを始める。平和学園オルガン講座を経て、オルガンを今井奈緒子、廣江理枝、チェンバロを廣澤麻美、ピアノを八十島成子、山中歩夢、通奏低音を椎名雄一郎、即興演奏を近藤岳、平野公崇に師事。22年度青山音楽財団奨学生。宮田亮平奨学金受賞。これまでに武蔵野市民文化会館、水戸芸術館、住友生命いずみホール、LICはびきの、神奈川県民ホールでコンサートや劇伴音楽など幅広く演奏を手掛けるほか、通奏低音奏者としても活動。現在、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程1年に在籍。茅ヶ崎聖契キリスト教会、筑波学園教会オルガニスト。日本オルガニスト協会学生会員。

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