『サントリーホールでオルガンZANMAI!』は、愛好家の方からはじめての方、そしてお子さままで多くの方にオルガンの音色をお楽しみいただける、年に一度の特別な企画です。今年の公演は全部で5つ。その中から今回は「協奏曲」にスポットを当てた「珠玉のオルガンコンサート」へ出演する中田恵子さん(オルガン)と佐々木新平さん(指揮)に、レスピーギの知られざる傑作、フランクとプーランクの名曲について語っていただきました。
オルガンとオーケストラとが共演する「協奏曲」の魅力
———お二人がご出演される今年の「珠玉のオルガンコンサート」では、オルガン独奏とオーケストラによる「オルガン協奏曲」を特集し、2作品も演奏されるという「オルガンZANMAI!」ならではの企画です。とても貴重な内容のコンサートとなりますね。
中田 オルガンとオーケストラの組み合わせと言いますと、有名なサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」をイメージされる方は多いかと思います。また「ミサ曲」など、合唱付きの宗教曲にオルガンが使われることも多いですね。
「オルガン協奏曲」となると、交響曲や合唱曲で伴奏的に演奏するのとは異なり、やはりオルガンが主役となって活躍する場面があって、楽器の存在感を大きく感じていただけると思います。
佐々木 そうですね。エルガーやホルストのオーケストラ曲でもオルガンは使われていますが、そうした作品ではオーケストラが主軸であり、オルガンは「ここぞ」という場面で、オケの響きを補強したり、さらに厚みを持たせるために鳴らすといった使い方です。「オルガン協奏曲」ではオルガンがメインとなりながら、オーケストラとのバランスによってトータルでどういった音色を作り、ホールに響かせることができるか、それがポイントになりますね。
生演奏で聴く貴重なチャンス! レスピーギとプーランクのオルガン・コンチェルト
———今回演奏されるイタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギ(1879〜1936)の「オルガンと弦楽のための組曲」(1905年)、フランスの作曲家フランシス・プーランク(1899〜1963)の「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲」(1936年)は、お二人にとってどのような魅力をもった作品ですか?
中田 レスピーギの「組曲」が演奏されことは非常に珍しく、私自身もこの企画を通じて初めて知りました。プーランクの作品に比べると、オルガンがソリスト的に活躍するというよりは、オーケストラと対等に響き合う、とても美しい作品ですね。
プーランク作品はまさに「協奏曲」ですので、ソリスティックな部分もありますが、オーケストラの弦楽器を包み込むように鳴り響き、合奏した時の音の厚みが空間全体に広がるのではないかと思います。私自身、人生で一度は演奏してみたいと思っていた作品なので、この公演で夢が叶います!
佐々木 レスピーギもプーランクも色彩感の豊かな作品ですが、それぞれの異なる色合いを感じていただきたいですね。レスピーギの「組曲」は、シンプルな書法でありながら、ヴィオラ奏者でもあったレスピーギらしい弦楽器の扱いが見られます。彼がまだ20代の頃の作品ですが、古い時代を志向したレスピーギ特有のハーモニー進行がすでに見られ、その後の彼の「ローマ三部作」や「教会のステンドグラス」につながる原点とも言える作風が感じられます。
プーランクも基本的な和声を重視し、素朴なコンセプトを持って、独自のスタイルを自然と築き上げた作曲家ですが、この協奏曲ではオルガンに管楽器としての役割を持たせ、新しい響きを生み出そうとしたプーランクの野心が感じられます。私も「オルガン協奏曲」というジャンルを指揮するのが今回初めてで、演奏できるのがとても楽しみです。
オルガンの響きを
———コンサートの冒頭で、中田さんはオルガンの独奏曲も演奏なさいますね。
中田 はい。ベルギー出身でフランスで活躍したセザール・フランク(1822〜1890)の最晩年の作品「コラール 第2番」(1890年)です。彼はカヴァイエ=コルというオルガン製作者の作ったロマンチックでシンフォニックな楽器の音色に触れて、交響曲的なオルガン作品を書くようになりました。コンサートの冒頭では、オルガン1台でオーケストラ的な響きを味わっていただきたいと思います。
———最後に、お客様へのメッセージをひとことお願いします。
中田 オルガン・ファンの方はもちろん、これまでオルガンはあまり聴いてこなかったけれどオーケストラが好きという方にもぜひお越しいただき 、オルガンの魅力を発見していただけたらとても嬉しいです。「オルガンZANMAI!」で一日中お楽しみいただき、ぜひ“オルガン沼”にハマっていただきたいですね。
佐々木 オルガンとは、動かすことのできない楽器です。それぞれのホールや教会に設置されたオルガンは、その空間で育ち、熟成していきます。「オルガンZANMAI!」は、サントリーホールの素晴らしいオルガンが主役として活躍する楽しいコンサートですから、夏休み真っ盛りの素敵な思い出にぜひご来場ください。
中田恵子(オルガン) プロフィール
東京女子大学文理学部社会学科卒業後、東京藝術大学音楽学部器楽科オルガン専攻卒業。同大学院音楽研究科修士課程を卒業時、修士論文では J. S. バッハ:トッカータ ハ長調 BWV 564 をめぐる演奏解釈を論じ、日本オルガニスト協会年報誌 JAPAN ORGANIST 第 38 巻に掲載される。その後渡仏。パリ地方音楽院で研鑽を積み、審査員満場一致の最優秀の成績で演奏家課程を修了。これまでにオルガンを湊恵子、三浦はつみ、廣野嗣雄、廣江理枝、クリストフ・マントゥに師事。チェンバロを大塚直哉、鈴木雅明、ノエル・スピートに師事。フランスのビアリッツにて行われた第 11 回アンドレ・マルシャル国際オルガンコンクールにて優勝。あわせて優れた現代曲解釈として Giuseppe Englert 賞を受賞する。帰国後もヨーロッパ、ロシアで演奏ツアーを行うなど、国内外で幅広い演奏活動を行う。NHK 交響楽団、読売日本交響楽団、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)など、オーケストラとの共演も数多い。
現在、キリスト教音楽院講師、玉川聖学院オルガニスト、日本基督教団鎌倉雪ノ下教会オルガニスト。2021年より神奈川県民ホール オルガン・アドバイザーに就任。キングインターナショナルよりリリースしたデビューCD『Joy of Bach』はフランスの音楽誌 Diapason において音叉5つを獲得するなど、国内外で高い評価を受ける。2 枚目の CD『Pray with Bach』は第 15 回 CD ショップ大賞 2023 のクラシック賞を受賞。
佐々木新平(指揮) プロフィール
秋田県出身。東京学芸大学を経て桐朋学園大学にて指揮を専攻。ヨーロッパ各地の国際指揮マスタークラスに選抜され、J.パヌラら巨匠たちの薫陶を受ける。2013 年よりミュンヘンへ留学しヨーロッパ各地でさらなる研鑽を積んだ。12 年および 17 年フィテルベルク国際指揮者コンクールにおいてディプロマ、15 年ブザンソン国際指揮者コンクールにおいて本選最終の 8 人に選出。これまで国内主要楽団に客演。15~19 年東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団アソシエイト・コンダクター。21〜24年ヤマハ吹奏楽団常任指揮者。現在オーケストラを中心にあらゆるシーンで才能を発揮し、多方面に活動の幅を広げている。しなやかな足取りで、ひたむきに遥かなる高みに向かう若き指揮者。
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