サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)
プレシャス 1 pm Vol. 2 東欧エモーショナル
クァルテット・インテグラ インタビュー
クァルテット・インテグラは、2021年のバルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門で第1位、2022年のARDミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門で第2位および聴衆賞に入賞したのち、現在は、ロサンジェルスのコルバーン・スクールで、元東京クヮルテットのマーティン・ビーヴァー、クライヴ・グリーンスミスに師事し、研鑽を積んでいる。サントリーホール室内楽アカデミーの第5、6期(2018~22)フェロー(受講生)であった彼らが、サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2024の「プレシャス1pm Vol. 2 東欧エモーショナル」に出演するために、6月6日、ブルーローズ(小ホール)に帰ってくる。クァルテット・インテグラは、今年3月に新たなチェリストとしてパク・イェウンを迎え、新体制がスタートした。今回は、ロサンジェルスにいる三澤響果、菊野凜太郎(以上ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)の3人にオンラインでインタビューを行ったほか、パク・イェウンからのコメントもあわせてご紹介したい。
※パク・イェウン(チェロ) インタビューはこちら
まずは、コルバーン・スクールでの近況を教えていただけますか?
菊野:コルバーン・スクールでは1週間に2回レッスンを受けています。つまり、毎週、マーティン・ビーヴァー先生(ヴァイオリン)とクライヴ・グリーンスミス先生(チェロ)、それぞれ1回ずつレッスンがあります。そして、ほぼ毎日4時間はリハーサルをしています。そのほか各々ソロのレッスンもあります。
三澤:先週はフランクフルトでコンサートがありました。日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパでコンサートが増えて、結構忙しい感じです。コルバーン・スクールでは週1回の学内コンサートがあり、それにもたくさん出ました。そのほか、学校に来るアーティストのマスタークラスを受けたり、コラボレーションしたりもします。ピアニストのジャン=イヴ・ティボーデさんがコルバーンに来たときには2、3回聴いていただきました。元東京クヮルテットのピーター・ウンジャンさん(ヴァイオリン)にはマスタークラスでレッスンをしていただきました。彼は学生オーケストラの指揮にも来ていたので、私たちもオーケストラに参加しました。一応、学生ですけど、ほとんどリハーサルとコンサートでスケジュールが埋まっていて、プロの入り口に立っている気持ちで活動しています。
山本:レッスンでは、だいたいコンサートで演奏する曲を見てもらっています。コルバーンには、学校で選ばれたコルバーン・アーティストが何人かいて、そのアーティスト・マネージャーもいます。僕らもコルバーン・アーティストなので、マネージャーがブッキングして、アメリカ内での演奏機会を作ってくれたりしています。
コルバーン・スクールに来て学んだこと、変わったことにはどんなことがありますか?
菊野:いろいろな国から生徒が来ていて、彼らの演奏を聴く機会が週1回はあり、あれもできるし、これもできるという具体例が示されて、以前より自分の可能性や引き出しが増えたように思います。
山本:その逆に、自分たちの演奏が客観的にどういう感じで聴かれているのか、自覚できるようにもなりました。
三澤:日本ではクァルテットの一つの音を作るために自分のパートをどう弾くかに気を付けていました。こちらに来て、それが自分たちの強みであるとはっきりした部分もありますが、私に足りなかった、もっとオープンにもっと自由に弾く意味が今、わかりそうな感じがしています。ここは、そのポイントをより広げてくれる環境かなと思います。
先ほど、三澤さんが「プロの入り口」と言われましたが、演奏会が増えてプロ意識のようなものは高まりましたか?
三澤:同じプログラムの演奏会が続いても、ルーティン化してしまわないで、毎回、心を入れ替えて、毎回、ちゃんと緊張して、集中して、別物として取り組まないといけないなと、改めて思うようになりました。
菊野:僕は音楽への向き合い方は変わっていないですね。
山本:まず、前よりは体調に気を付けています。いろいろ考えなくてはいけないことも増えましたが、音楽だけは純粋に取り組むことを意識しています。それが活動を続けていくための命綱だと思っています。
コンサートのプログラムは山本さんが中心に考えていると聞きましたが、どういうことに心掛けていますか?
山本:いわゆる古典から新しい曲まで、お客さまに隔たりなく一つのラインの上で聴こえるようになってほしいというのが基本的なポリシーです。そして、この曲をこういう順番で聴くとそれぞれの曲の魅力が違った意味で引き出されるというような、常設で弦楽四重奏を続けていないとできないプログラムを組みたいと思っています。
今年3月に韓国出身のチェリスト、パク・イェウンさんを迎えたことが発表されましたが、パクさんについて教えていただけますか?
山本:彼女とは、コルバーン・スクールで出会いました。14歳からコルバーンで学んでいます。
三澤:彼女はもともと学内でピアノ・トリオをやっていました。今21歳ですが、チェロ・クラスをまとめる役目を担っています。私より4歳下ですけど、とにかくしっかりとしています。演奏もしっかりしていますが、しゃべってみたら(中身も)その通りしっかりしていました。
菊野:演奏はどっしりして、足が地に着いた音が聴こえます。
山本:彼女がピアノ・トリオで弾いているのを見て、クァルテットに向いているような印象を持ちました。頭の回転が速いのと、一緒に何か作るっていう感覚を持っていると思いました。
クァルテット・インテグラの今年1月から2月にかけての日本ツアーで、パクさんと共演していましたね。その感想を聞かせてください。
三澤:去年の11月に一緒にやり始めて、2か月で演奏会でしたが、彼女は1回のリハーサルでの吸収が多くて、その都度わかってくれます。初めての本番でも怖いとかはなく、私も自然に弾けました。相性が良いと思いました。本番で、リハーサルとは関係なく、本能的に行っちゃうことができるのが私たちの強みだと思いますが、彼女はそれを一緒に作れるパートナーという感じがします。
菊野:僕は、彼女の横で弾いていて、音がクリエイティヴに感じられます。彼女の音を聴きながら、演奏中に、今から僕もこんなこともできるんじゃないかと考える余裕が持てて、これって新感覚かなと思います。本番でしっかりリードしてくれるときもあり、余裕が生まれるのです。彼女は、本能的に音楽に向かう人。感情が音に出てくるのに理性的な面も持っています。
山本:11月から始めましたが、12月は僕たち日本にいたので実質1か月の合わせで、1月からの本番でした。彼女は、アジャストするのは抜群にうまくて、最初から問題がなく、僕たちに馴染みました。演奏はかなり安定している方だと思うし、そういう強さを持っています。彼女が加入したことで、自分たちの理想とする4人が対等な関係であるというクァルテット像が実現できる可能性が出てきたように思っています。
6月にCMGでブルーローズに帰ってきますが、ブルーローズで演奏してこれまでに最も印象に残っている演奏会は何ですか?
三澤:クァルテットではないですが、私たち室内楽アカデミー第6期のCMGでの最後の演奏会(「CMGフィナーレ」、2022年6月19日)での堤剛先生とのブルッフの「コル・ニドライ」ですね。その時、私はコンサートマスターをしていましたが、堤先生の演奏が凄すぎて、弾きながら泣いていました。そんなことはそれまでなかったのですが、堤先生の演奏が神々し過ぎました。人生でも一回きりです。
菊野:バルトーク国際コンクール優勝記念でやらせていただいたリサイタル(2022年6月6日、バルトーク:弦楽四重奏曲第5番ほか)ですね。演奏が始まる前から会場の空気がうごめいている感じがして、あのときのコンサートは最初から最後までがすごく短く感じましたし、あのコンサート自体が一つの生き物のような感じがしました。
山本:僕も同じですが、ほかにあげるとすると、去年の1月にミュンヘンのコンクールの入賞記念でやらせていただいたリサイタル(2023年1月6日)ですね。バルトーク・コンクールのあとのリサイタルで演奏したバルトークの第5番と、ミュンヘンのコンクールのあとのバルトークの第6番では自分たちの良さが出たと思います。
室内楽ホールとして、ブルーローズにどのようなイメージを持っていますか?
三澤:ブルーローズは室内楽をする上でちょうど良い空間。CMGでは、舞台の横にもお客さまがいて、オーディエンスに包まれて演奏しているので、嫌な緊張もなく、温かい空間のイメージがあります。クァルテットにとってふさわしい、クァルテットを弾く場所だなと思います。
菊野:ブルーローズでは、弾いているときの音とオーディエンスになったときの音に矛盾がなく、響きに安心感があり、快適です。
山本:4年間、サントリーホール室内楽アカデミーにいたという意味で、気持ち的に、サントリーホールのブルーローズには特別な思いがあります。それがほかのホールとは全然違います。
今回のCMGでの「プレシャス1pm Vol. 2 東欧エモーショナル」の聴きどころを教えていただけますか? エネスクの弦楽八重奏曲第3、4楽章は、サントリーホール室内楽アカデミーの現役生、カルテット・プリマヴェーラとの共演になりますね。
山本:スメタナが今年生誕200周年なので、スメタナの『わが生涯より』を取り上げました。去年の夏に取り組んでいた曲ですが、日本で弾くのは今回が初めてです。
三澤:エネスクの弦楽八重奏曲は全員が初めてです。
菊野:東欧というテーマですが、僕らはバルトークを弾いてきたので、民族色の強い作品は僕らのカラーに合っているように思います。僕たちとアカデミー・フェローのカルテット・プリマヴェーラとどういう演奏ができるのか楽しみです。
山本:『わが生涯より』の初演のヴィオラはドヴォルザークが弾いたという話ですが、スメタナがヴィオラに思いを込めてくれました。それはうれしいことです。
サントリーホール室内楽アカデミーのフェローたちへのメッセージをお願いします。
菊野:一緒に演奏を楽しみましょう! 僕たちは上の世代の人と室内楽を弾いたことはありますが、僕らより若い世代の人とはないので、(エネスクでの共演には)ワクワクしています。
三澤:同年代のクァルテットやトリオを聴くことは、アカデミーでしかできないことです。他のクァルテットのレッスンを見ると勉強になります。そういう環境は貴重だと今でも思います。周りのグループから刺激をもらえるのでそういう機会を大切にしてほしい。エネスクで共演するカルテット・プリマヴェーラには、遠慮しないでバシバシ発言してほしいなと思っています。
山本:伝えたいことは、アカデミーはすごく貴重な場であるということ。これだけのレジェンドの先生が集まっているのは、空間として凄いことです。先生たちの言葉のほとんどは、これからの僕たちの音楽人生に向けて話してくださっていることで、その場で即効性のあることよりも、あとで効いてくることが多いと思います。先生たちの熱意や話す感じが今でも自分のなかに残っています。それは、「音楽にいかに向き合うべきか」ということの一つの答えだと思います。よく準備してレッスンにのぞんでほしい。4年間でもあっという間でしたが、1期の2年間は短いから真摯に取り組んでほしいですね。
クァルテット・インテグラのこれからについて教えていただけますか?
山本:2025年5月まではコルバーン・スクールにいます。出来る限り海外を拠点とできるようにしていきたいと思っています。
三澤:私は、世界中で活動できれば、それが一番だと思っています。そういう機会が増えればいいなと思います。
菊野:僕はアメリカが好きですが、アメリカのほかのところにも住むことができればいいなと思っています。