アーティスト・インタビュー

チェンバーミュージック・ガーデン
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024
カルテット with... Ⅲ

エルサレム弦楽四重奏団 インタビュー

エルサレム弦楽四重奏団         ©Felix Broede

ワールドワイドな活動を展開するカルテットの猛者たちがCMGに集結し、名曲や近現代の秘作、そして日本人奏者との共演でプログラムを構成する「カルテットwith...」。6月14日公演にはエルサレム弦楽四重奏団とピアノの小菅優が登場します。
エルサレム弦楽四重奏団は、コロナ禍のCMG2021に待望の来日を果たし、圧倒的なベートーヴェン・サイクルが大きな反響を呼びました。再びCMGに出演するにあたり、記憶に残る出来事となった2021年の来日やグループのこと、今回の聴きどころなどを聞きました。

エルサレム弦楽四重奏団         ©Felix Broede

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2021では、1週間にも満たない短い期間で計5公演のベートーヴェン・サイクルを完遂されました。
2021年の公演はエルサレム弦楽四重奏団にとってどのような経験となりましたか?

サントリーホールでのベートーヴェン・サイクル公演は、最も思い出深く、そしてハードな経験でもありました。私たちは、この偉大なベートーヴェン・サイクルを、弦楽四重奏曲を演奏する上でのバイブルだと捉えています。ベートーヴェンは、わずか25年という弦楽四重奏曲の作曲人生で、100年分に値する目覚ましい音楽上の進化を成し遂げました。これをたどることは演奏者側だけでなく聴衆の皆様にとっても、特別な経験となります。一方で、6日間でベートーヴェン・サイクルの全曲を演奏するのは、肉体的にも精神的にも大変な負担がかかります。
新型コロナウイルスが流行していたため、最後の最後まで移動面での不安が尽きませんでした。東京オリンピックの開催を控え、日本ではまだ入国が規制されていたので、ビザが取れるのか、イスラエルから東京まで航空便はあるのか、そしてもちろん、メンバーは全員同じ国に居住しているわけではないので、公演前に一緒に練習できるかどうかなど、頭の痛くなる問題ばかりでした。しかし私たちはやり遂げました。無事に東京に到着し、私たちを温かく熱狂的に迎えてくれた素晴らしい聴衆の前で、ベートーヴェン・サイクルを演奏できました。手厚く支え、もてなしてくださったサントリーホールの皆様に、改めて感謝の気持ちをお伝えします。本当に忘れられない経験となりました。

CMG2021より
エルサレム弦楽四重奏団
1993年に結成、96年にデビューしたイスラエル出身の弦楽四重奏団。世界中のコンサートホールで公演を行い、アメリカでは、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、フィラデルフィア、ワシントン、クリーヴランドなど、ヨーロッパでは、ロンドン、チューリヒ、ミュンヘン、パリで定期公演を開催。また、ザルツブルク、ヴェルビエをはじめ、多くの音楽祭においても特別公演を行う。イッサーリス、レオンスカヤ、メルニコフ、シフ、バレンボイム、内田光子といった名だたるアーティストと数多く共演。CMGには21年のベートーヴェン・サイクルに続き2回目の出演。

会場となったブルーローズ(小ホール)のご感想は?

ブルーローズでの演奏は、とても楽しいものでした。弦楽四重奏曲の演奏には最適な音響と広さです。聴衆の熱気を肌で感じながら、ベートーヴェンの天才的な曲作りとハーモニーに没頭し、思いのままに演奏できました。

サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

1993年のエルサレム弦楽四重奏団結成当時、メンバーはまだ10代だったそうですね。結成当時のことや今日の国際的な活躍に至った経緯などお話ください。

私たちの出会いはエルサレム音楽舞踏アカデミー在学中のことでした。出会ってすぐに弦楽四重奏団を結成する話が出たのはまさに奇跡です。幸運にも、非常に優れた教師で熱心なアヴィ・アブラモヴィッチ先生に師事することになり、数回レッスンを受けただけで、4人は特別な絆を感じました。一緒に音作りをしていくプロセスがとても楽しかったのです。その後数年の間に、エルサレム音楽センターから強力なサポートを得て、地元エルサレムや海外の素晴らしい音楽家たちと出会い、弦楽四重奏という芸術に対する情熱やビジョンを学びました。1997年、オーストリアのグラーツで開催された「フランツ・シューベルトと現代音楽」国際コンクールで第1位を獲得しました。また、毎年ロンドンで行われるアマデウス弦楽四重奏団のサマーコースにもほぼ毎回参加し、1998年にはウィグモアホールでアマデウス弦楽四重奏団50周年記念ガラ・コンサートに出演しました。当時ウィグモアホールのディレクターだったウィリアム・ライン氏がそのときの演奏を聴いて翌シーズンのイブニング・コンサートに私たちを招聘してくれました。このコンサートは大成功を収め、その直後に著名なマネジメント会社と契約を結ぶに至り、それを機に世界進出を果たしました。

CMG2021より カルテット・アマービレと共演
CMG2021より

今回は弦楽器の美しさが際立つメンデルスゾーンをはじめ、イスラエルの作曲家ベン゠ハイム、そして小菅優さんとのドヴォルジャーク「ピアノ五重奏曲」を取り上げます。

パウル・ベン゠ハイム(1897~1984)は、イスラエルにおける「クラシック音楽の父」と呼ばれています。イスラエル社会が形成される過程で生まれた、さまざまな影響が混ざり合った独自性を音楽に見事に取り入れました。イスラエルの現代音楽はヨーロッパの伝統に深く根ざしていますが、中近東の音階、リズム、メロディーの要素も入っています。現在でもテルアビブの多くの建物に見られる折衷様式のように、ベン゠ハイムの音楽は、伝統的な西洋音楽の形式やレトリックに、イエメンの音楽様式などをミックスし、中近東の雰囲気を色濃く映し出しています。私たちは彼の音楽を日本の皆さんに紹介できることを大変嬉しく思っています。今回は1937年に書かれた「弦楽四重奏曲第1番」を演奏します。きっとご満足いただけるでしょう。
小菅優さんは大切な友人です。2021年に日本で共演する予定でしたが、残念ながらパンデミックで中止となりました。ですから、今回、予定を再調整して共演できるのはとてもありがたいです。私たちが大好きな曲、ドヴォルジャーク「ピアノ五重奏曲」を選びました。プログラムの他の曲と見事に引き立て合うはずです。ドヴォルジャークがこの名曲に込めた美しいメロディーと雰囲気で、聴衆は心地よい気分に浸れるでしょう。

小菅 優                 ©Takehiro Goto
2005年カーネギーホールで、翌06年にはザルツブルク音楽祭でそれぞれリサイタル・デビュー。ドミトリエフ、デュトワ、小澤らの指揮でベルリン響などと共演。10年ザルツブルク音楽祭でポゴレリッチの代役として出演。その後も世界的な活躍を続ける。ベートーヴェンのピアノ付き作品を徐々に取り上げる「ベートーヴェン詣」などに取り組む。14年に第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞(音楽部門)、17年に第48回サントリー音楽賞受賞。23年よりピアノ・ソナタに焦点をあてた新プロジェクト「ソナタ・シリーズ」を始動。

今回の来日は、エルサレム弦楽四重奏団の29シーズン目になりますね。
このように長年アンサンブルを維持し世界の室内楽の第一線で活躍を続けていく、そのモチベーションとは何でしょうか。

これほど長い間続けられて、とてもありがたく、続けて来られたのにはたくさんの理由があります。
とりわけ挙げたいのは世界中の熱心で素敵なファンの存在と、弦楽四重奏のために作曲された数えきれないほど多くの素晴らしいレパートリーのおかげだと思います。

©Felix Broede

エルサレム弦楽四重奏団にとって「弦楽四重奏」とは?

弦楽四重奏という芸術において最も重要なのは、4つの楽器(ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1)の16本の弦をまるでひとつの楽器のように響かせながら、同時に4人の弾き手の個性を際立たせる黄金バランスを見出すことだと考えています。
エルサレム弦楽四重奏団は、深い音色、表現力、柔軟性、即興性が特徴で、ハイドンから現代音楽まで非常に幅広いレパートリーを演奏するところも評価いただいています。

©Felix Broede

エルサレム弦楽四重奏団に影響を与えた演奏家についてお話しいただけますか。

ヴァイオリンのアイザック・スターンのほか、グァルネリ、ラサール、アルバン・ベルク、エマーソンといった弦楽四重奏団など著名な演奏家たちと出会い、共演し、学べたのはとても幸運でした。
また、弦楽四重奏界のレジェンド、アマデウス四重奏団のメンバーたちとも長年友好を温めてきました。特に彼らからは、奏でる一音一音が表情豊かで美しくなければならないこと、どのコンサートでも人生最後のコンサートの気持ちで臨むこと、そして常に200%の力を出さなければならないことを学びました。

©Felix Broede

エルサレム弦楽四重奏団ではどのように音楽をつくり上げていくのですか?

お答えするのが非常に難しいご質問ですが、効率的なやり方を見出すことを大切にしています。
演奏する曲それぞれについて、4人が方向性を共有して音楽を作り上げるように心がけています。そうすれば、各自が自由に、表現力豊かな音作りや柔軟性を発揮する余地を広げても、共有したアイデアや目標が失われることがありません。

CMG2021より

弦楽四重奏団として活動するにあたり、伝統や様式の継承や革新の均衡をどのように図っているのでしょうか。

この質問への答えは、弦楽四重奏団ごとに異なるでしょう。私たちのアプローチは、音楽を「再発明」しようとか、新しい演奏方法を見つけようとかしない、という意味で伝統的なやり方です。作曲家の構想や意図を反映させた演奏を心がけています。名曲は、うまく演奏できれば、作曲された当時と同じように現代にも通用する、というのが私たちの信念です。なぜなら、音楽とは人間の最も基本的な部分に語りかけるものだからです。私たちが演奏する音楽の感情性は、今日でも十分に通用します。人間は現在でも250年前と同じように、愛情、悲しみ、失恋、胸の高鳴りを経験し、そうした感情は年齢や国籍、音楽の知識に関係なく、普遍的なものだと思います。

CMG2021より

最後に、あなた方のチェンバーミュージック・ガーデンへの帰還を待望する日本の音楽ファンにメッセージを。

また東京に行けることに胸が躍っています。パンデミックのさなかにベートーヴェン・サイクルを全曲演奏したことは、私たちの音楽人生で指折りの出来事であり、決して忘れられません。サントリーホールの素晴らしい聴衆の方々と、美しい音楽を分かち合える日を楽しみにしています。

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