アーティスト・インタビュー

チェンバーミュージック・ガーデン
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)
プレシャス 1 pm Vol. 3 響き合うフルート&ハープ

吉野直子(ハープ) インタビュー

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)は14回目を迎えましたが、第1回から毎年ご出演いただいているのが、日本を代表するハーピスト吉野直子さんです。世界の多彩な演奏家・楽器と共に、様々な編成の室内楽を披露してきてくださいました。今年は、6月14日「プレシャス1pm」でフルート奏者セバスチャン・ジャコーさんとのデュオを、同16日「フィナーレ」ではラヴェルの華やかな七重奏を演奏していただきます。ジャコーさんとのエピソードやプログラムの内容について、また、多くの音楽家たちとの交流について伺いました。

CMGでセバスチャン・ジャコーさんと共演されるのは、2021年に続き2度目ですね。

はい。2020年の公演がコロナ禍で開催できず、でもお互い本当に実現したいプログラムだったので、翌21年もまだ入国後2週間の隔離が必要だったのですが、セバスチャンが「日本に行くよ!」と言ってくれて。彼には大変な思いをさせたと思いますが、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ハープの五重奏を中心に、ひとつの空間で一緒になって音楽で対話する喜びを、あらためて感じた公演でした。

CMG2021より
セバスチャン・ジャコー(フルート)、白井圭(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、佐藤晴真(チェロ)、吉野直子(ハープ)

お二人でのデュオ・コンサートは、今回が初めてとなりますか?

そうなんです、実は! 今まで何度か共演してきましたし、21年のCMGでピアソラなどを数曲、二人で演奏したのが初めてのデュオでしたが、コンサートとしてプログラムを組んで演奏するのは、今回が初めてです。
そもそもセバスチャンと出会ったのは、サイトウ・キネン・オーケストラの楽団員同士としてなんです。首席フルート奏者が、私も何度も共演させていただいているジャック・ズーンさんで、彼のお弟子さんだったセバスチャンが、スイス・ジュネーヴ音楽院を卒業したばかりだったのかな、2番フルート奏者として連れてこられて。2番と言いながら、本当にすばらしいフルートで。水戸室内管弦楽団でも共に演奏し、その後、サイトウ・キネン(セイジ・オザワ松本フェスティバル)の一環で、武満徹の三重奏(フルートとヴィオラとハープ)作品を演奏する機会がありました。オーケストラでも素晴らしかったけれども、室内楽でも、彼のフルートは本当に繊細でドラマチックで自由自在で。このトリオがすごく楽しかったので、機会があればデュオをやりたいね、とお互いにずっと言っていたんです。

CMG2021より セバスチャン・ジャコー、吉野直子

では、念願が叶う場ですね。

そうですね。彼はその後、数々の国際コンクールですべて優勝し、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席フルート奏者となり、現在はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者として活躍していますが、いつも自然体で飾らない、温かな人柄で、昔から全然変わらない雰囲気です。

今回のデュオのプログラムは、シューマン:『子供の情景』より抜粋、シューマン:3つのロマンス 作品94、武満徹:『海へⅢ』、ドビュッシー:『小組曲』より第1曲「小舟にて」、オルウィン:幻想曲ソナタ『水の妖精』 という構成です。作品名からも、全体を通して水のイメージが浮かぶ気がします。

フルートとハープって、やわらかい響きが混ざり合うというか、もちろんそれだけではないのですが、流れるような、いろいろな色の移り変わりを思い起こさせますよね。シューマンは、ハープのための作品が無いので、ハーピストとしてはちょっと遠い存在なのですが、セバスチャンから提案されたのが「3つのロマンス」。オリジナルはオーボエとピアノの曲です。自分が普段はやらない曲でもありますし、彼のフルートと演奏するのはとても楽しみです。シューマン繋がりで、「子供の情景」より数曲、可愛らしい曲ですし、ご存知の方も多いと思います。中盤は少しじっくり、武満徹さんのすばらしい世界、「海へⅢ」。アルト・フルートとハープで演奏します。そして、武満さんがすごく影響されたとおっしゃっている、ドビュッシー『小組曲』より第1曲「小舟にて」。さらに、オルウィンのハープとフルートのための作品『水の妖精』を。フランスっぽい、色彩感豊かな曲です。オルウィンはイギリス人ですけれどね。

   セバスチャン・ジャコー
   吉野直子

昨年のCMGでは宮田まゆみさんの笙とのデュオで、果てしない宇宙のような、時空を超えた世界を体験させていただきましたが、今年はフルートとハープでどのような世界へ?

もう少し人間の世界寄りで(笑)、でも妖精の世界みたいな感じもするかな。武満さんの「海へ」は、時に静かな、とても深い世界。セバスチャンのフルートの幅広い表現力で、多様なイメージを楽しんでいただけると思います。彼の演奏は、いろいろな枠を飛び越えて自由自在。私もそこに乗って、一緒にその世界に入れるのが楽しみで、ワクワクしています。すべての曲が、彼と初めて演奏するものなので。

©N. Ikegami
CMG2023より 吉野直子(ハープ)、宮田まゆみ(笙)

吉野さんは、毎年様々な異なる楽器と共演されて、常にハープの幅広い可能性を聴かせてくださいます。
それは、ハープという楽器に包容力があって、どんな楽器とも合わせられるということなのでしょうか?

ハープの特性というよりは、私の興味でしょうか。そして、この楽器と合わせたいというより、この人の音楽がすてき、この人と演奏したいというほうが強いんです。相手の方も、ハープとの響きに興味を持って楽しんでくださる。
ありがたいことに、そういう機会をたくさん頂いてきて、いろんな方から本当にたくさんのことを教えて頂いてきたなあと、あらためて思います。

今までの演奏活動で名だたる奏者との共演歴がおありです。フルートだけでも、20世紀最高峰のフルート奏者ジャン=ピエール・ランパル、オーレル・ニコレ、元ウィーン・フィル首席奏者ヴォルフガング・シュルツ、現ベルリン・フィル首席のエマニュエル・パユやウィーン・フィル首席カール=ハインツ・シュッツ各氏ほか……。

ニコレさんとは、武満さんが彼のために書いた三重奏「そして、それが風であることを知った」の初演で共演させていただいて、レコーディングもしてツアーもして、一緒に弾いてどれほど刺激を受けたことか。ランパルさんは、あんなに伝説的な人が目の前にいる! まさか共演できるなんて、それもモーツァルトで、という驚きのような。若い時に、上の世代の、それこそ自分がレコードを聴いたり客席で聴いたりしていた憧れの、歴史上の音楽家に、会えるどころか一緒に演奏できるという体験は、とても深い感動や刺激がありました。共演することで、自分に無いもの、一人だったら気がつき得ないものをたくさん教えていただき、それをだんだん自分に取り入れて、自分も変わっていく。出会いや機会に恵まれて、それが次に繋がって、その繰り返しで今まで来られた気がしています。
CMGでも何度もご一緒させていただいている堤剛さん(チェリスト/サントリーホール館長)も、私が20歳の頃から共演させていただいていて、年齢を重ねられても常に好奇心をお持ちで、さらなる高みを求め続けられている姿勢が、すばらしいですよね。

©K. Iida
CMGフィナーレ2021にて 堤剛へ80歳を祝う花束贈呈
出演者を代表して吉野直子より

先日お亡くなりになられた小澤征爾さんとのご交流についても伺えますか?

小澤征爾さんのニュースはショックが大きすぎて、まだ自分の気持ちもまとめられないのですが。でも時間が少し経つにつれ、現役で活躍されていた、本当にすごかった小澤さんのいろんなことが蘇ってきました。
私は20歳の頃にベルリン・フィルの演奏会でご一緒させていただいて、小澤さんはたぶん今の私の歳ぐらいで、本当にかっこよかったです。
松本(サイトウ・キネン・フェスティバル松本、現:セイジ・オザワ松本フェスティバル)の最初の頃にも、いろいろなオペラを一緒にやらせていただいて。ものすごいエネルギー、目力、本当に特別な存在でした。
世界中のいろいろな人々に影響を与えられましたし、とても人間的で、飾らないお人柄で、小澤さんとそういう時間を共有した人は、皆がとてもパーソナルなものをもらっていると思います。唯一無二の方でしたね。

サントリーホールでも開館当初より、小澤征爾マエストロに数々の名演をしていただきました。大ホールで最後に指揮されたのは、サイトウ・キネン・オーケストラでした。そしてまた、室内楽をとても大事にされ、後進の育成にも情熱を注がれていましたね。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

さて、CMG「プレシャス1pm」は、楽しいトークありの1時間の枠ですが、どのような場にしたいと思われていますか?

ブルーローズ(小ホール)の雰囲気は、とても親密感があり、それでいて非常にフォーマルでもあり、そのバランスがすばらしいといつも思います。気楽に行けるけれども、すごくちゃんとしたものを聴けた、という満足感を得られる場。そして、「プレシャス1pm」の枠は、初めて室内楽を聴かれる方でも楽しんでいただけるように、ということも意識してプログラムを組んでいます。もちろん、室内楽を聴き込んでいらっしゃる方にも満足していただけるような。
あの空間で、室内楽の編成というのは、本当にお互い音楽を通して会話しているような感じなんです。息遣いを合わせたり、互いに見合ってやるところなど、ちょっとした演奏家同士のやりとりがよく伝わる大きさのホールだと思いますので、そういうことも一緒に楽しんでいただきたいですね。曲の受け止め方は、もう本当にお一人お一人、その日の気分で感じていただければ。

サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

サイドビュー席からは、ハープを横から見られるという貴重な体験もできますね。両手両足を使って、こんな風に弾いているんだ、と。

けっこうバタバタ動いているんです(笑)。

CMGフィナーレ 2024(6月16日)では、ジャコーさん、クラリネットの吉田誠さん、フランスのヴォーチェ弦楽四重奏団と、ラヴェル:序奏とアレグロ を演奏されます。

ラヴェルの「序奏とアレグロ」は、ハーピストにとって、とても大事な曲です。ハープもとっても見せ場がありますし、他の楽器もとても美しく、華やかさがあります。7人の響きを、楽しんでいただければ。
最近はこのように下の世代の方々とご一緒する機会がとても増えて、それも楽しくて、刺激をもらいますし、もしかしたら自分も次の世代に何か残せることができたら嬉しいな、なんて思いながら。音楽は、音を出せば年齢関係ないですし、それが素敵ですね。

ヴォーチェ弦楽四重奏団、吉田誠(クラリネット)

包み込むようなやさしい笑顔、演奏の際のキリリとした表情も素敵な吉野直子さん。
何より、そのハープの音色で世界中の音楽家、聴衆を魅了し続けていらっしゃいます。
今年のCMGでも、さらにハープの世界観を広げてくださることでしょう。ジャコーさんとのデュオ、そしてフィナーレでの七重奏をお楽しみに!

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