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チェンバーミュージック・ガーデン
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2024

ようこそ、チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)へ

「室内楽の庭」で、親密なアンサンブルを聴く歓びを

     堤 剛(チェロ)       ©Naruyasu Nabeshima
     サントリーホール館長

2011年に開園したチェンバーミュージック・ガーデン(CMG)は、演奏者と客席がお互いに響きあうブルーローズを舞台に、多彩な室内楽を気軽に楽しめるフェスティバルとして育まれてきました。今年は、国内外で精力的に活躍する弦楽四重奏団(カルテット)が計5団体出演するので、各々個性的なカルテットを存分に味わえます。特にベートーヴェン・サイクルに登場するウェールズ弦楽四重奏団は、今後の室内楽界を力強く牽引していくことでしょう。ベートーヴェンの全曲をご一緒する小山実稚恵さん、小菅優さんのプロデュースが光る『月に憑かれたピエロ』、葵トリオをはじめとするシリーズ公演など、充実した数々のアンサンブルにご期待ください。親密な「音楽の庭」にご来場されるお客様の歓びを後押しすることができれば、嬉しく存じます。

     堤 剛(チェロ)       ©Naruyasu Nabeshima
     サントリーホール館長
過去のCMG公演より

CMG2024の楽しみ方と聴きどころ​

片桐卓也(音楽ライター)


◆ チェンバーミュージック(室内楽)の特別な時間
クラシック音楽と聞くと、大きなコンサートホールでのオーケストラ・コンサートを想像する方が多いかもしれませんが、実際にはヴァイオリンとピアノなどのデュオ(二重奏)のコンサートも多く、トリオ(三重奏)、カルテット(弦楽四重奏)などに加え、もう少し編成の大きな室内オーケストラによるコンサートも盛んです。
オーケストラの演奏会は19世紀以降に盛んになりましたが、それ以前は圧倒的に「室内楽」、つまり少人数で演奏する音楽が多く、王侯貴族のサロンでは室内楽が欠かせませんでした。その伝統は19世紀に一般の音楽愛好家の世界にも入り込み、たくさんの傑作が書かれることとなりました。このチェンバーミュージック・ガーデン(CMG)では幅広い時代の室内楽を味わうことができます。

過去のCMG公演より
同上

◆ 「ブルーローズ(小ホール)」で体験する親密な世界
サントリーホールには優れた音響を誇る大ホールと、少し小さめのホールである「ブルーローズ」があります。ここでも開館以来、たくさんの名演が繰り広げられて来ました。
チェンバーミュージック・ガーデンでは、長方形のホールであるブルーローズを横長に使い、ホールの中央部にステージが設定されます。客席はそれを囲むように置かれます。それだけに、演奏家から客席までの距離が近く、演奏家の息づかいや視線のやり取りまで感じることができます。室内楽の作り出す親密な世界、そしてそれを感じることができる空間で味わう音楽は、大きなホールで得られる感動とは違った種類の感動が胸に響きます。自分のお気に入りの場所を見つけることもできるでしょう。

サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

◆ 世界的アーティストも登場
参加するアーティストが多彩なこともチェンバーミュージック・ガーデンの特徴です。2024年の公演では、海外からやって来る3つの気鋭の弦楽四重奏団(ヴォーチェ/ダネル/エルサレム)が花を咲かせ、サントリー音楽賞を受賞した渡邉順生(チェンバロ)、小菅優(ピアノ)、そしてサントリーホール館長でもある堤剛(チェロ)らが参加します。サイトウ・キネン・オーケストラでも活躍するベルリン・フィル首席奏者のセバスチャン・ジャコー(フルート)と日本を代表するハーピストである吉野直子の共演もあり、ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した葵トリオ(ピアノ三重奏)をはじめ、日本の若手演奏家も多く参加します。
毎年恒例のベートーヴェン・サイクルには、2008年のミュンヘン国際音楽コンクールで東京クヮルテット以来38年ぶりに日本人の団体として入賞(第3位)を獲得したウェールズ弦楽四重奏団が登場することも楽しみです。

(上) ヴォーチェ弦楽四重奏団、ダネル弦楽四重奏団
(中) エルサレム弦楽四重奏団、小菅 優、渡邉順生
(下) ウェールズ弦楽四重奏団、吉野直子、セバスチャン・ジャコー

◆ 室内楽アカデミーに集う若者たちの活躍
サントリーホールにはふたつのアカデミーがありますが、そのひとつである「室内楽アカデミー」には若い演奏家たちが集まり、研鑽を積んでいます。チェンバーミュージック・ガーデンはその若者たちの成果発表の場でもあります。また、その室内楽アカデミーから巣立ったクァルテット・インテグラもアイディアを凝らした選曲で、2024年の公演を盛り上げてくれます。
若手と言えば「廣津留すみれの室内楽ラボ」に参加するヴァイオリンの廣津留すみれも注目の演奏家。ハーバード大学とジュリアード音楽院を卒業し、音楽界だけでなく幅広く活躍する彼女がどんなコンサートを作り出してくれるかにも注目です。

(上) 葵トリオ  (下) クァルテット・インテグラ

♪ 自分の感性で選ぶ多彩なコンサート

2024年は6月1日から16日までの期間で開催されるチェンバーミュージック・ガーデン(CMG)。
多様で幅広いその世界に足を踏み入れたいと思っていらっしゃる方々に、それぞれのライフスタイルや好奇心に合わせたコンサートの選び方を考えてみました。

◆ 1) とにかく「傑作」を知りたい方は…
【堤剛プロデュース、ベートーヴェン・サイクル】

チェンバーミュージック・ガーデンは毎年「堤剛プロデュース」で始まります。今年はピアノに小山実稚恵を迎え、ベートーヴェンのチェロ・ソナタの第1〜3番を披露。そして午後1時開演の「プレシャス 1 pm Vol. 1 ベートーヴェン:チェロ作品選」でも堤、小山の組み合わせでベートーヴェンのチェロ・ソナタ第4、5番を取り上げますので、この2日間のコンサートでベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲を聴くことができます。
室内楽の王様と言えばやはりベートーヴェンの「弦楽四重奏曲」。彼が人生の最後まで取り組んだのが弦楽四重奏の世界でした。その全曲演奏「ベートーヴェン・サイクル」に今年取り組むのは、2008年のミュンヘン国際音楽コンクール入賞以来、日本の室内楽の世界に活力を与え続けているウェールズ弦楽四重奏団。それぞれがオーケストラの主要なポジションを務めながら、先輩カルテットとして若手の育成にも力を注ぐなど、積極的に活動しています。全6回のサイクルでは、調性のバランスや作曲年代のヴァラエティも考慮された構成となっています。毎年人気の集中するコンサートですので、ご検討はお早めに。

堤 剛、小山実稚恵                                          ©N. Ikegami
ウェールズ弦楽四重奏団           ©堀田力丸

◆ 2) 海外アーティストのフレッシュな魅力を知りたい方は…
【カルテットwith...】

2024年のチェンバーミュージック・ガーデンで最も気になる企画がこの「カルテットwith...」です。世界で活躍する実績十分の弦楽四重奏団がブルーローズに集まります。フランスから「ヴォーチェ弦楽四重奏団」、ベルギーから「ダネル弦楽四重奏団」、そして2021年にベートーヴェン・サイクルに登場した「エルサレム弦楽四重奏団」の3つの団体です。
ヴォーチェ弦楽四重奏団はドビュッシー、ラヴェルの名作に加え、イヴ・バルメールの「抒情的散文」を日本初演。そこではルネサンスやバロックの歌曲、オペラなどで素晴らしい歌唱を聞かせてくれる波多野睦美が共演します。ダネル弦楽四重奏団はプロコフィエフなどのロシア物を中心にし、ピアノの外山啓介を招いてショスタコーヴィチの「ピアノ五重奏曲」を披露します。エルサレム弦楽四重奏団はメンデルスゾーン、イスラエルの作曲家ベン゠ハイムに加え、やはりピアノの小菅優を迎えてドヴォルジャークの「ピアノ五重奏曲第2番」を演奏します。カルテットそれぞれの個性に加え、歌い手やピアニストが加わることでどんなケミストリーが起きるのか、注目の3つのコンサートとなります。

(上) ヴォーチェ弦楽四重奏団、波多野睦美
(中) ダネル弦楽四重奏団、外山啓介
(下) エルサレム弦楽四重奏団、小菅 優

◆ 3) このガーデン(室内楽の庭)でしか聴けないスペシャルな企画を味わいたい方は…
【小菅優プロデュース、葵トリオ ピアノ三重奏の世界】

チェンバーミュージック・ガーデンでは毎年発見があります。新しい作品に出会うこと、あるいはこのガーデンのために企画されたコンサートなどです。2024年は「CMGプレミアム」として小菅優プロデュースによる『月に憑かれたピエロ』が演奏されます。
生誕150周年を迎える作曲家シェーンベルクの代表作『月に憑かれたピエロ』は20世紀初頭を飾る室内楽の傑作のひとつで、もともと女優アルベルティーネ・ツェーメのために書かれた作品でした。歌と語りの中間のような「声」を中心に、ピアノ、フルート、ヴァイオリン、クラリネット、チェロがアンサンブルを作ります。ウィーン国立歌劇場などで活躍するミヒャエラ・ゼリンガー(メゾ・ソプラノ)は小菅とも共演経験の深いアーティスト。金川真弓(ヴァイオリン&ヴィオラ)、吉田誠(クラリネット&バス・クラリネット)、クラウディオ・ボルケス(チェロ)、ジョスラン・オブラン(フルート&ピッコロ)ら実力派ばかりが結集し、これを聴き逃す訳にはいかないでしょう。
躍進を続ける葵トリオ(ピアノ三重奏)はこのガーデンでの7年プロジェクトの第4年目を迎えます。「葵トリオ ピアノ三重奏の世界」でのベートーヴェン、フォーレ、スメタナという組み合わせの中では、あまり演奏機会のないスメタナ(生誕200年)のピアノ三重奏曲が楽しみとなります。

(上) 小菅 優、ミヒャエラ・ゼリンガー
(下) 金川真弓、クラウディオ・ボルケス、ジョスラン・オブラン、吉田 誠

◆ 4) バロック音楽の知的で緻密な世界を知りたい方は…
【バッハが遺したヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのための作品を聴く】

バロック時代にも室内楽はたくさん書かれました。大きな宗教曲で有名なJ.S.バッハもたくさんの室内楽を書いています。チェンバーミュージック・ガーデンの中でもこれまでバッハの作品を紹介してきましたが、今年はチェンバロの渡邉順生とヴィオラ・ダ・ガンバの酒井淳による「J. S. バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの親密」にて、バッハの書いた主要なヴィオラ・ダ・ガンバのための作品をまとめて取り上げます。
ヴィオラ・ダ・ガンバはあまり頻繁に目にすることはないと思いますが、バッハの生きた18世紀にはアンサンブルを支える重要な楽器で、ガンバ(脚)で支えて弾くので、この名前で呼ばれます。チェロとは違い6弦の楽器です。バッハがケーテン宮廷に勤務していた時代(1717〜23)には宮廷の楽団にアーベルという優れたヴィオラ・ダ・ガンバ奏者が在籍していたため、その時代に書かれたのでは、と推定されています。300年ほど前の音楽ですが、21世紀でもそのみずみずしさが感じられると思います。

渡邉順生、酒井 淳(CMG2022 より)

◆ 5) 午前から午後の開放感にひたりたい方は…
【プレシャス1pm、室内楽アカデミー・フェロー演奏会、廣津留すみれの室内楽ラボ】

コンサートはたいてい夜に開かれますが、チェンバーミュージック・ガーデンでは平日の午後や、週末の午前のコンサートも準備されています。
冒頭でも紹介したように、平日午後1時開演の「プレシャス1pm」には3つのコンサートがあります。まず堤剛小山実稚恵によるベートーヴェン、クァルテット・インテグラサントリーホール室内楽アカデミーのメンバーと共演する「Vol. 2 東欧エモーショナル」ではエネスクの「弦楽八重奏曲」という珍しいプログラムも。フルートとハープというクラシック音楽で最も優雅な組み合わせと言える「Vol. 3 響き合うフルート&ハープ」は、セバスチャン・ジャコー吉野直子という名手による共演です。
サントリーホール室内楽アカデミーで研鑽を積んでいる若い演奏家たちにとっても、このチェンバーミュージック・ガーデンは檜舞台。土曜日の午前11時からの「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会 Ⅰ・Ⅱ」で、その若いエネルギーに触れてみるのも楽しい経験となるでしょう。
室内楽にはあまり縁がなくて、とおっしゃる方には「廣津留すみれの室内楽ラボ」を準備しました。ヴァイオリンの廣津留すみれがナビゲートするこのコンサートも日曜日の午前11時開演です。
以上の3つのコンサート企画はいずれもトーク付きで、内容も時間もご友人やご家族とのお出かけにもオススメのコンサートとなります。

セバスチャン・ジャコー、吉野直子(CMG2022 より)
廣津留すみれ
サントリーホール室内楽アカデミーフェロー(受講生)

◆ 6) 作り手にも聴き手にも多様性がある。それが室内楽の世界
【CMGスペシャル、CMGフィナーレ】

チェンバーミュージック・ガーデンはそのスタート当初から多様性=ダイバーシティに取り組んできました。それが「CMGスペシャル」です。<チャレンジド・チルドレンのための室内楽演奏会>と題されています。普段、コンサートホールで生演奏に接する機会の無い子供たちのために、ヴァイオリンの渡辺玲子が中心となって演奏に取り組んでいるコンサートです。(関係者招待のみ)
そして、室内楽の多様さを知るもうひとつのコンサートが「CMGフィナーレ」です。世代を超えて、このガーデンに関わっているアーティストたちが集まり、世界の様々な地域の音楽を奏でます。2024年はラヴェル、マルティヌーなどを中心としたプログラムで、やはりこの庭でしか聴けない演奏となりますので、ご注目を。

CMGスペシャル(CMG2023 より)        ©K.Iida
CMGフィナーレ 2023 より         ©N. Ikegami

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