主催公演

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【曲目解説】サントリーホールのクリスマス 2023

アンダーソン:『クリスマス・フェスティバル』

今年のクリスマス・コンサートは、アメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(1908~75)の作品で幕開けです。アンダーソンは、当時盛んに使われていたタイプライターの音や、紙やすりをこする音を主役にするなど、遊び心満載の親しみやすい作風で知られ、現在でもCM曲などで耳にする機会があります。
そんな彼が、クリスマスの定番曲をぎゅっと集めてメドレー仕立てにしたのが、この『クリスマス・フェスティバル』です。「もろびとこぞりて」「ひいらぎ飾ろう」「ゴッド・レスト・イー・メリー、ジェントルメン」「ウェンセスラスはよい王様」「天には栄え」「きよしこの夜」「ジングル・ベル」「神の御子は今宵しも」といった、よく知られるクリスマス・ソングが次々に登場する様は、まさにフェスティバル!一気にクリスマス・ムードが高まります。

N. Ikegami
昨年の公演より

メンデルスゾーン:付随音楽『真夏の夜の夢』序曲

フェリックス・メンデルスゾーン(1809~47)は19世紀、情緒的で豊かな表現を特徴とするロマン派と呼ばれる時代の代表的な作曲家の一人であり、ドイツ・ハンブルクの裕福な銀行家の名門家庭に生まれました。恵まれた環境で早くから才能を開花させ、9歳で神童ピアニストとしてデビュー、10歳頃から作曲を始め、15歳のときには最初の交響曲を完成させてしまうという天才ぶりでした。
その後26歳で、世界最古の歴史あるオーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者に就任。年20回の定期演奏会の曲目を決めたり、指揮棒を使って指揮をするスタイルを初めて取り入れたりなど、今、世界中のオーケストラが行っている活動の原型を作るという功績も残しています。残念ながらわずか38歳で急逝してしまうのですが、短い生涯で数々の名作を遺しています。
『真夏の夜の夢』は、シェイクスピアの同名戯曲をもとに、17歳の時に作曲されました(このときは序曲のみが作曲され、それから17年後、プロイセン国王の依頼に伴い、『結婚行進曲』(日本でも結婚式でお馴染み!)を含む劇中音楽12曲も追加で作られました)。
物語の舞台は、夏至のアテネ近郊の森。幻想的な妖精の世界へ誘う管楽器の静かな和音から、妖精たちが囁き舞うような弦楽器の密やかな動きに導かれるうち、気づけば眼前に広がる満天の夜空を思わせる鮮やかな響きに包まれます。その後も、劇中の愛のメロディーや舞曲のモチーフなどが次々登場し、序曲として劇の始まりを告げるにふさわしい高揚感が最後まで続きます。

N. Ikegami
昨年の公演より

チャイコフスキー:バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a

いよいよ次は、ロマン派の時代を生きたロシアの作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)によるクリスマスのクラシック音楽の定番、『くるみ割り人形』です。バレエの舞台はクリスマス・イヴ。少女クララはくるみ割り人形をプレゼントされますが、その夜、クララが眠りにつくと、夢の中で人形は邪悪なねずみの王様に攻撃され、戦いを繰り広げます。戦いが終わると、人形は王子に変身!王子はクララをお菓子の国へと連れていき、二人は妖精たちの踊りで歓迎され、夢のようなひとときを過ごす…という物語が描かれます。
今回のコンサートでは、チャイコフスキーが、バレエなしの音楽だけでも楽しめるように印象的な曲を組み合わせた「組曲」をお届けします。軽快な序曲に始まり、クリスマス・パーティーでのこどもたちの楽しげな様子を描く行進曲と続いた後は、お菓子の国に舞台を移します。チェレスタという鍵盤楽器の繊細な響きが魅力の「金平糖の精の踊り」、目まぐるしい速さのロシアの踊り「トレパーク」、妖艶な「アラビアの踊り」、お茶の妖精が可愛らしく舞う「中国の踊り」、フルートが愛らしい旋律を奏でる「葦笛の踊り」と続き、最後は「花のワルツ」で華やかに締めくくられます。
チャイコフスキーといえば、『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』が「三大バレエ」と呼ばれてよく知られていますが、『くるみ割り人形』が素敵だなと思ったら、ネクストステップとしておすすめなのが、交響曲です。特に第4~6番の交響曲は、オーケストラの演奏会で取り上げられる機会も多く、人気があります。奏者全員から湯気が出るかのような迫力の熱量から、息ができないほどの切なさまで、実に展開がドラマティックなので、聴き終わった後は、まるで1本の映画を観たかのような気持ちになるかもしれません。

N. Ikegami
大友直人さん(写真右)と森川智之さん(左)によるお話も

ラヴェル:組曲『マ・メール・ロワ』

続いてお届けするのは、モーリス・ラヴェル(1875~1937)の組曲『マ・メール・ロワ』。ラヴェルはフランスの作曲家で、「オーケストラの魔術師」という異名を持ちます。オーケストラの楽器の特性を知り尽くした彼の傑作といえば『ボレロ』。ひたすらに同じメロディーを繰り返しながらも決して単調にならず、楽器ごとの音色の差で耳を楽しませ、圧巻のクライマックスを築き上げる手腕は誰にも真似ができない唯一無二の芸当です。
そんなラヴェルはピアノの名手でもあり、『水の戯れ』やピアノ協奏曲が良く知られています。『マ・メール・ロワ』も元々はピアノの作品で、童話を題材にした子ども向け連弾曲として書かれました。その後、ラヴェル自らがオーケストラ用に編曲。無限の音色パレットを使いこなす、まさに“魔術的”な手腕で、得も言われぬ魅力が加わり、オーケストラ・コンサートの定番曲の一つとして定着したのです。
作品は全5曲。1曲目の「眠りの森の美女のパヴァーヌ」では、しっとりとした木管楽器の音色がまろやかに溶け合い、2曲目は森を彷徨う親指小僧の不安げな様子を表現。コンサートマスターのソロとフルート&ピッコロによる小鳥の鳴き声の描写にもご注目。3曲目の「パゴダの女王レドゥロネット」の「パゴダ」とは中国の陶器でできた首振り人形を指しており、4曲目の「美女と野獣の対話」では、美女をクラリネットの柔らかな響き、呪いで野獣の姿に変えられてしまった王子をコントラ・ファゴットという楽器の重厚な低音が描きます。終曲である5曲目の「妖精の園」は、コンサートマスターとヴィオラ首席奏者による2本の弦楽器のソロが絶妙に美しく、幻想的な響きに彩られながら壮大に曲を閉じます。

N.Ikegami
サントリーホール内クリスマス装飾(2023)

ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1919年版)より「王女たちのロンド」「魔王カスチェイの凶悪な踊り」「子守歌」「終曲」

コンサートの締め括りは、ロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)の『火の鳥』です。ストラヴィンスキーもチャイコフスキーと同じく、バレエの世界で大きく活躍した作曲家で、彼にも「三大バレエ」と呼ばれる作品があり、『ペトルーシュカ』『春の祭典』、そして『火の鳥』からなります。
『火の鳥』はロシアに伝わる古い民話に基づいており、魔王カスチェイに囚われていた王女たちを、王子が火の鳥の力を借りて救い出し、王女の中の一人と結ばれるというストーリーです。
ストラヴィンスキーは、1909年から10年にかけてバレエ用に作ったこの『火の鳥』の中から、オーケストラのコンサートで演奏できるよう組曲としてまとめているのですが、1911年版、1919年版、1945年版と、3回にわたって3つのバージョンを作っています。そのうち今回は1919年にまとめられたバージョンを取り上げ、そこからさらにいくつかの曲を抜粋してお届けします。囚われの身である王女たちの切なく儚げな踊りを描く「王女たちのロンド」、火の鳥が魔王と手下たちを魔法で激しく踊り狂わせる「魔王カスチェイの凶悪な踊り」、火の鳥が疲れ果てた魔王を眠りへと誘う「子守歌」、そして王子と王女のハッピーエンドを煌びやかに彩る「終曲」まで、息もつかせぬ展開で物語を描き切ります。

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