アーティスト・インタビュー

日本フィル&サントリーホール 
にじクラ~トークと笑顔と、音楽と 第2回

出演者インタビュー 成田達輝(ヴァイオリン)&萩原麻未(ピアノ)

萩原麻未(ピアノ)、成田達輝(ヴァイオリン)

日本フィルとサントリーホールが贈る、平日2時のクラシックコンサート『にじクラ』。
「トークと笑顔と、音楽と」をテーマにしたトーク付き名曲コンサート新シリーズの第2回は、ヴァイオリニスト成田達輝さんとピアニスト萩原麻未さんご夫妻が登場。互いにソリストとして活躍し、デュオや小編成の室内楽で共演を重ねていますが、二人揃ってオーケストラと共演するのは今回が初めて。演奏作品に込める想いからプライベートのお話まで、伺いました。

萩原麻未(ピアノ)、成田達輝(ヴァイオリン)

――今回お二人で演奏していただくのは、メンデルスゾーン『ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調』第3楽章です。

萩原: なかなか演奏する機会のない作品ですし、夫婦一緒に協奏曲のソロをつとめさせていただくなんて、とても貴重な場で、嬉しく思っています。
成田: 同じステージで、同じ瞬間に、オーケストラとトリオのように演奏できる醍醐味。私たちにとっても記憶に残る演奏会になると思います。
萩原: コンチェルト(協奏曲)はたいてい、1人のソリストとオーケストラ、そして指揮者という形ですが、その関係性は室内楽の拡大版だと思っています。今回は、ソリスト2人の関係性もうまく成り立っていないと、オーケストラと有機的な関係になれないと思うので、まずは私たちの間で練習を重ねながら作り上げていき、指揮の広上淳一さん、日本フィルの方々と共有させていただけたらと思っています。
成田: どこまで室内楽的に密に会話ができるか、ということをいつも意識しています。奏者一人一人が自発的に演奏し、それぞれが活きる響きをつくれるよう、チアアップできたらと。ピアノとヴァイオリンというとてもポピュラーな組み合わせでソリストが2人の協奏曲は、本当に特殊ですが、オーケストラは弦楽器のみの編成で重すぎず、ソロも引き立って、会話もしやすく、みんなで空気を共有しやすい自由な空間ができるのではないかな。
萩原: 2人で丁々発止のやり取りをする部分もあって。
成田: なにより、メンデルスゾーンが14才の時に書いた作品というのが衝撃的!どれだけ早熟な作曲家だったかを感じていただけると思いますし、すごく面白い演奏会になると思います。

――成田さんは、指揮の広上淳一さんとは初共演ですね?

成田: 実は子どもの頃、地元札幌のジュニア・オーケストラに入っていた時に、広上さんが振りに来てくださって、マーラーの交響曲「巨人」を演奏したことがあるんです。とにかく楽しいリハーサルで。「はい、ここでヒーロー登場!」みたいに、みんなが同じイメージを共有できて、僕たちを飽きさせない配慮を常にしてくださって。本番も最後まですごく集中した空気だったことを、よく覚えています。小学校4年生だったかな。その時の愉快な印象がずっとあって。今回初めて広上さんと正式に共演させていただくので、とても楽しみです。
萩原: 私は大人になってから(笑)、数年前に共演させていただき、とても的確なアドバイスをいただきました。リハーサルの時にピアニカを持ってこられて、それで各パートを弾きながら説明されていくのですが、やはりとても楽しい雰囲気でしたね。

広上淳一
26歳でコンドラシン国際青年指揮者コンクールに優勝。以来、欧米各国のオーケストラに客演、数々のポストも歴任。現在、オーケストラ・アンサンブル金沢アーティスティック・リーダー、日本フィルハーモニー交響楽団フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)、札幌交響楽団友情指揮者、京都市交響楽団広上淳一。東京音楽大学指揮科教授。

――日本フィルとの共演はお二人とも何度もあるかと思いますが、どのような印象をお持ちですか?

成田: 僕にとって日本フィルさんは、人生でいちばん最初に協奏曲を演奏させてもらったオーケストラなんです。15歳の時、東京音楽コンクールの本選、プロコフィエフの協奏曲を。ステージで弾きながら、こういう響きがするんだ〜と、もう衝撃でした。あっという間に終わってしまったという印象と、ものすごく色々な感情とエネルギーが渦巻いていったな〜と感じて。これは楽しい!これはすごい!知らないことがまだいっぱいある!と、本当に幸せな時間でした。今思い出しても涙が出るぐらい。日本フィルの皆さんがずっとニコニコしながら、この子をサポートしようと全員で演奏してくれている感じも温かくて、嬉しかったなあ。
萩原: 私は数年前に九州ツアーで5公演ご一緒させていただいて、本当に皆さん温かくて、もちろんサウンドも素晴らしくて。ちょっとしたハプニングも共有したりして。楽しかったです。

日本フィル&サントリーホールとっておき アフタヌーン Vol. 9より(2019年2月)。日本フィルハーモニー交響楽団と共演する成田達輝。

――ますます共演が楽しみになってきました。プログラムは、お二人それぞれのソロの演奏で始まります。まず、成田さんのヴァイオリンで、サン=サーンス「ワルツ形式の練習曲によるカプリース」。超絶技巧を堪能させていただける作品ですね。

成田: 僕のパリの師匠ジャン=ジャック・カントロフの十八番(おはこ)で、僕も学生の頃から彼に教わって、コンクールなどでも弾き、いつかオーケストラとやってみたかった曲です。この作品は、前回日本でオーケストラと誰が弾いたか?というぐらいコンサートで演奏されるのは稀だと思います。ピアニスティックなパッセージをヴァイオリンが奏でるイザイの編曲、その響きを味わっていただければ。
萩原: 私はあえてアップテンポではない、ゆっくり楽しんでいただける曲を選びました。モーツァルトのピアノ協奏曲第21番、第2楽章。ご存知の方もたくさんいらっしゃると思いますし、あまりにも美しい曲なので。映画のテーマ曲にも使われているんですね(『みじかくも美しく燃え』1967年スウェーデンの映画)

――そして今回のプログラムは、ご夫妻の共演ということもあり、「愛」がテーマとのこと。

成田: 実は選曲の際にそれはあまり考えていなかったのですが(笑)。でも、僕たちは、とにかく、音楽にあふれる愛を伝えたい、作品を通じて、生きているって素晴らしいな、面白いな、と感じる瞬間、そういった愛情を伝えるために演奏家でいるのかな、なんて、きのうも二人で話していたんです。
萩原: 音楽をするのに仲の良さがどれくらい必要なのかは、いまだにわからないですし、夫婦だからうまくいくということでもないと思うのですが、私たちに関しては、一緒に練習して意見を出し合い、歩み寄る時間が多くとれるので、それはプラスになっているかな。
成田: 夫婦だからこそ妥協を絶対にしたくない、というのはあります。お互い、他の共演者との演奏会で刺激をもらって、家に帰って「こんな感じだったよ」と報告しあって、学んできたことをフィードバックしています。最初の頃は2人で共演しても、お互いに何を考えているのか探り合っている感じで、ガチャガチャしていましたけれど、時間をかけて徐々に。
萩原: もともと共演したことで知り合って、先に音楽で繋がっていたわけですし、初めて一緒に弾いた時から「なにか面白いものができそう」という直感はありましたね。
成田: なにか温かみを感じるような、私たち演奏家の愛が残るようなものをお届けできたらと思います。

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン オープニング:堤 剛プロデュースより(2018年6月)。サントリーホール館長の堤剛とともにブルーローズにて演奏。

――お昼のコンサートながら、華やかで内容の濃い演奏会になりそうですが、マチネと夜の演奏会では、演奏する側として何か違いはありますか?

成田・萩原: ぜんぜん違いますね。
萩原: 14時に始まるコンサートは、食事の時間とのバランスがとりやすいですよね。お客様も、ランチをしてから聴きに来ていただける。そして夕方16時過ぎには終わるので、子育て中の皆さんも早く家に帰れて、私たちの場合は子どもの保育園のお迎えにも間に合いますし(笑)、普段の時間に家族で晩ごはんを楽しめる。日常の中に溶け込みやすい時間帯なのが、いいなと思います。
成田: 夜の演奏会のお客様は、わりと落ち着いた雰囲気で、一日の仕事を終えて、音楽で心を浄化されに来るというか、そういうことを求められている感じがします。マチネの場合はもっと……例えれば、朝からビール飲みたい!とか、もう一品食べたい!みたいな(笑)、ワクワクする雰囲気を感じます。
 私たち演奏家は、常にお客様とバランスをとりあって、お客様から出てくる空気やオーラや感情を飲み込み、それを音楽として出し、循環させているのではないかと、最近気づきました。お客様と交流しながら響きをつくっている。だからこそ、プログラムが華やかでオープンな雰囲気のマチネに、切り込んだ緊張感ある演奏ができたら、より面白くなるかな、なんてことも考えています。

――サントリーホールという場の雰囲気はいかがですか?

萩原: サントリーホールマジック! ステージで一音出すだけで、なにか……なんでしょう、毎回感動します。響きが素晴らしいのはもちろん、今まで素晴らしい演奏家の方々がここで演奏し、つくり出してくださった歴史。それによってホールも育っているんだと思いますし、特別な何かがありますね。
成田: 音響設計の革新性。それまでのホールは客席に音がまっすぐ届いて、音が行ったきりなのが常識だった。でもサントリーホールは、演奏者もステージ上で自らの響きをよく聴きながら音をつくっていき、お客様はその、ステージに響いている音を聴きながらつくられた音を聴き、さらに一緒につくっていけるような音響設計なんですね。演奏家の耳を変える、画期的なことだったと思います。
 聴く側としては、僕はLC6列6番の席がお気に入り。大理石の壁からの反響もあり、ベストなバランスでオーケストラの音を聴けると思っています。
萩原: 有難いことに、音響設計の豊田泰久さんとご縁があり、私たち夫婦共々親しくさせていただいております。余談ですが、豊田さんと私、誕生日が一緒なんです(笑)
成田: 射手座同士。高橋克典さんも射手座なんですよね。以前ご一緒した時に直接伺いました。僕、プチ占星術マニアなので(笑)

サントリーホール
「世界一美しい響き」を基本コンセプトに掲げ、1986年に誕生。日本では初のヴィンヤード(ぶどう畑)形式である大ホールは、音響的にも視覚的にも演奏者と聴衆が一体となって互いに臨場感あふれる音楽体験を共有することができる形式。

――高橋克典さんとお二人のトークも楽しみです。

萩原: 子育てのこともいろいろ伺いたいですね。子どもが大きくなって悩みを抱えた時などに、どんな風に接していらしたのか、など。
成田: でもあんまりその話題になると、舞台が「すくすく子育て」相談みたいになっちゃうんじゃない?(笑)

――高橋克典さん、今年のベストファーザー賞を受賞されたりもして、イクメン、よきパパとして知られているので、客席の皆様も聞いてみたい話題だと思います。チェロを習われているそうですよ。

成田: そうですか。じゃあ、いつか僕たちとトリオで!

――最後に、「にじクラ」のテーマが、“トークと笑顔と、音楽と”なのですが、思わず笑顔になる瞬間、心にエネルギーをもらえることなど、音楽以外にあれば教えていただけますか?

萩原: 娘がいるので、やはり子どもの笑顔が一番ですね。子育てをしているとたぶん大変なことの方が多くて、とくに産後は眠れなくて体力的にも大変だったんですけれど、それをも上回る、子どもの喜んでいる姿、笑顔。すごい存在ですよね。日々癒されています。
成田: 僕は、朝起きて、一日何も予定がない日が嬉しいですね。
萩原: 朝からビールを開けたい日(笑)。
成田: 開けたいですね、もちろんサントリービール(笑)。それで、ああ今日は演奏会でも聴きに行けるかな、なんでもできるな、みたいな日が必要です。最近ハマっているのは、パンづくり。先週は毎日焼きましたね。
萩原: そうそう、ずっとパン焼いていて、びっくりしました!
成田: コッペパン、豆乳パン、バターロール、食パン、ピザ……。
 楽器をメンテナンスに出していて、休み期間だったので、何か新しいことができないかなと。娘を保育園に送った帰りに、スーパーに入って、ぼーっと棚を見ていたら、「あ、パンをつくってみよう!」と。
萩原: 突然LINEに、「今パンつくってる」って入ってきて、どうしたんだろうと驚きました(笑) でも、香りも良くて、食感もよく、すごくおいしくて。
成田: 1回目から成功したんですよ。それ大事。パンづくり、めっちゃ面白いと思って。普段とまったく違う新しいことをするのは、楽しいですよね。
萩原: それこそ演奏会も、今まで一度もいらしたことがない方々にとっても新しい刺激になるような、そういう窓口になれたらいいなと思っています。今の時代に、音楽だけを聴く、音を集中して聴くというのは、感覚がとても鋭敏になると思うんです。新しい感覚を呼び覚まされるような体験をしていただけたら。しかもこの素晴らしいサントリーホールの響きの中で!

インタビュー中も終始仲睦まじい様子のお二人。
「にじクラ~トークと笑顔と、音楽と 第2回」では、協奏曲で初共演するお二人の演奏にご注目ください。

――お二人の想い、まだまだ伺っていたい気分ですが、続きは「にじクラ」のステージトークで。充実の演奏会、お楽しみに! 開演は2時です。