サントリーホール室内楽アカデミー第7期 開催レポート
ほのカルテット(弦楽四重奏) インタビュー
「大阪国際室内楽コンクール2023第2位記念」 リサイタルが決定!
ほのカルテットは、2018年に結成され、その年の宗次ホール弦楽四重奏コンクール、19年の秋吉台音楽コンクールと続けて入賞し、若手弦楽四重奏団のなかで一際注目される存在の一つとなっていた。そして20年の大阪国際室内楽コンクールを受ける予定であったが、コロナ禍のためにコンクール自体が中止となった。
そのような状況のなかで岸本萌乃加(ヴァイオリン)は読売日本交響楽団に、長田健志(ヴィオラ)は反田恭平が創設したジャパン・ナショナル・オーケストラに、蟹江慶行(チェロ)は東京交響楽団に入団し、林周雅(ヴァイオリン)は2020年の題名のない音楽会プロジェクト「題名プロ塾」に合格してプロデビューした。つまり、四者四様の音楽人生を歩み出した。
そんな彼らがサントリーホール室内楽アカデミーで学び始めたのは2022年の秋。彼らの目の前の目標は23年5月の大阪国際室内楽コンクール2023であった。彼らは、アカデミーに来た頃から既に“プロ”の演奏をしているように感じられた。しかし、国際コンクールで入賞することは、並大抵のことではない。この1年間、室内楽アカデミーの室内楽の達人たちの細やかな指導とアドバイスによって、彼らはアンサンブルとして成長を遂げ、もう一段高いところに上がることができた。結果は初めての国際コンクールで第2位に入賞。いきなりその実力が国際レベルであることが世界に示された。
ほのカルテットのメンバーにこれまでの活動や今後について、また室内楽アカデミーでの学びや室内楽への思いなどを聞いた。
4人中3人が、佐渡裕さんが芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターのスーパーキッズ・オーケストラ出身とききました。子供の頃のアンサンブルの経験を話していただけますか?
岸本:私は、ヴァイオリンをススキ・メソッドで始めたのですが、耳で聞いて覚えていたので楽譜が読めませんでした。小学生になって、地元の倉敷ジュニア・フィルハーモニーオーケストラに入って、オーケストラでみんな一緒になって弾く経験をし、楽譜も読めるようになりました。オーケストラって楽しいなと思って、小学校4年生のときに、佐渡裕さんと一緒に弾けるということで、スーパーキッズ・オーケストラに入り、西宮まで通いました。
長田:最初はヴァイオリンを弾いていました。高校に入る春までは漠然とやっていたのですが、親がスーパーキッズ・オーケストラの審査に書類を送って、受けに行ってみて、ヴィオラでなら入団可能といわれました。始めはヴィオラが嫌で夏でやめようと思っていたのですが、楽しそうに弾く先輩がいて、結局、13年間、ヴィオラを続けています。
林:スーパーキッズ・オーケストラは、母のママ友のすすめで、親が申し込んだので、小学校3年生のときにオーディションを受けました。みんなと弾くのが楽しいなと思いました。
蟹江:チェロを10歳で始めて、11歳の頃から、いとこがピアノを弾いて、姉がヴァイオリンを弾いて、ピアノ・トリオをやっていました。合宿みたいにやって、楽しくて。名古屋の菊里高校の音楽科にすすみ、そこで弦楽四重奏などを勉強しました。
ほのカルテットの結成の経緯を教えてください。
林:僕が東京藝術大学で2年のとき弦楽四重奏の古典派の単位を落として、履修し直さなければならなくなりましたが、同級生はロマン派に進んでしまい、上の学年だった、スーパーキッズから親しかった健志やほかの二人に組んでもらったのが始まりです。
岸本:結成半年で宗次ホール弦楽四重奏コンクールに出て、何か名前を付けなければならなくなり、後で変えればいいやと思い、自分の名前(ほのか)を付け、今に至っています。
林:宗次のコンクールでは第3位でした。
蟹江:そのあと、秋吉台、大阪国際を受けようということになりました。
長田:でも、大阪国際はコロナ禍で2020年が延期になり、21年が中止になり、23年になってようやく開催されました。大阪国際には前回20年にも出場予定でしたが、結果的に中止になってしまいましたので、今年また出場できることが決まった時はカルテット皆とても嬉しく思いました。
サントリーホール室内楽アカデミーに参加しようと思ったきっかけは何でしたか?
岸本:原田幸一郎先生が勧めてくださいました。コンクールの直前も見ていただけて、本当にラッキーなタイミングでした。
蟹江:大学のときは、松原勝也先生、市坪俊彦先生に習っていました。そのあとは山崎伸子先生や、プロジェクトQで原田先生にも習っていました。
昨年9月からの室内楽アカデミーの印象や記憶に残っている出来事を教えていただけますか?
林:たくさんの先生に一度に見ていただけることが面白かったです。セカンド・ヴァイオリンの僕には池田(菊衛)先生が言ってくださって、磯村(和英)先生が健志に言ってくださって、練木(繁夫)先生には客観的に見てもらえて、みんなに見られているというのが素晴らしいですね。
蟹江:同時に見ていただけるのは刺激的です。練木先生のピアノ・トリオのレッスンを聴講しているとき、「ピアノは行間を読まないとだめ」と何回もおっしゃっていたのですが、練木先生が実際にピアノですべてを包含する音を弾いてくださって、ハッとしましたし、これを弦楽四重奏にも活かしたいと思いました。
長田:4人で意見をまとめてこれだと出しても、先生方の受け取った印象が真逆だったり、90度違ったりということもありました。僕らが4人でやっているときとは違う方向からの視点で見ていただけてありがたかったです。リハーサルで僕らが自分たちで否定した表現を、先生の提案で弾いてみて「これもありなんだ」と思うこともありました。5人目の奏者ではないですけど、先生も弾いている感覚で聴いてくださっている。自分たちでは出なかったアイデアをいろんな角度からおっしゃってくださるので、毎回のレッスンは、ブラッシュアップというより、新しい枝分かれができたという感じで、少し混乱することもありましたが、受けていて楽しかったです。
岸本:弦楽四重奏に焦点をあててやってこられた先生方の言葉で一気にカルテットの音が変わるので、そういう方の力はすごいなとずっと思っていました。そして、自分たちのイメージの幅が広がりました。感謝です。
2023年5月開催の大阪国際室内楽コンクールの準備は、課題曲が7曲もありたいへんではなかったですか?
岸本:4月は16回、合わせました。日程が合う時は全部やりました。オーケストラのリハーサルのあとにカルテットの合わせをしたり。自分の時間が取れず、スケジュール的にきつかったです。でも、集まってコミュニケーションを取る時間が必要でした。無理して会ってよかったなと思います。
長田:自分が(4人のなかで一番)時間の融通がきくので、4月はカルテットのためにスケジュールを空けていました。2人(岸本、蟹江)がオーケストラのリハーサルの後で、カルテットの合わせが入るので、自分は疲れた表情をしないように気を付けました。
蟹江:午後5時から9時までの4時間で1曲取り組むことができるかできないかなので、(課題曲の多い)コンクールの準備は本当にたいへんでした。
林:朝8時から2時間、夜8、9時から2時間というのもありました。練習場がなくて、バンド用のスタジオを借りることもありましたが、響かなくて苦労しました。
コンクールでの自分たちの演奏について、話していただけますか?
岸本:一次予選が一番緊張しました。でもラウンドを重ねるごとに緊張しなくなりました。アドレナリンが出すぎで、最後は何回でも弾けるかもという感じでした(笑)。一次、二次は念入りに合わせをして準備をしました。三次は(望月京の)新曲があり緊張しました。ファイナル(ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第12番)は、そこまで手がまわらないギリギリという感じでした。コンサートで弾いたことはあったのですが、コンクールのためには詰めていなかった。そのうえ、三次からファイナルまで1日しか休みがなくて、次のラウンドへの準備が難しかったですね。
林:一次、二次を弾き終わった後は「やることはやった」みたいな感じでしたが、ファイナルを演奏した後は、 僕自身も演奏に納得できませんでした。
蟹江:一次はすごく緊張しました。二次は朝一番の演奏で、1時間以上のプログラムでしたが、カルテットにとって楽しい2曲で、メンデルスゾーンの第5番はほのカルテットに合っているので、テンションの高さで乗り越えました。三次のベートーヴェンの「セリオーソ」は宗次コンクールでも弾いた曲でした。ファイナルのベートーヴェンの第12番は、新曲を除いて、これまでの本番の演奏回数が最も少ない曲だったので、たいへんでした。
長田:一番印象に残っているのは、二次ですね。一次が一番最後で、翌日の二次が朝一番で、体力勝負で、みんなアドレナリンが凄かったです。
蟹江:コンクールの入賞で、2024年12月にヘンシェル・クァルテットのモニカ・ヘンシェルさんのドイツでの弦楽四重奏中心の音楽祭(メンシュ-クラング-ラウム・ビエンナーレ)に招待していただけることになりました。
ほのカルテットとして、今後はどのように進んでいきたいと思っていますか?
林:国際コンクールで世界の弦楽器の好きな人たちや弦楽器のコミュニティの人たちと会えたのが楽しかったですね。コンクールへの挑戦はカルテットとして成長できるので続けたいと思っています。
長田:カルテットとしての自主企画で、定期的に演奏会をやっていきたいですね。各メンバーの地元やいろんな地方でも演奏会をやりたいですね。
蟹江:レパートリーを増やしたいですね。今までは大阪国際室内楽コンクール中心でやってきて、コンクールで弾く曲以外はあまりできなかったので。秋からの2年目の室内楽アカデミーではいろいろな曲をやりたいですね。
岸本:オーケストラをしながらなので、コンクールを受けるにしても、年に1回だと思っています。カルテットとしてのリサイタルでは、これまでベートーヴェンをやってきたので、ブラームスなど、ロマン派に挑戦してみようかなと思っています。
普段の音楽活動とカルテットとの関係、そして忙しいなかでカルテットにかける思いをお話しください。
林:弦楽四重奏で学んだのは音楽のベースとなる作り方。どうすれば素敵な演奏になるのか、具体的に勉強できるのが弦楽四重奏です。それはどのジャンルでも通用すると思います。
カルテットで経験をたくさん積んで、いろんなジャンルに活かしていきたい。同じメンバーで1つの作品に向き合うのはたいへんなことですが、たいへんな分、演奏した時に返ってくる喜びや経験も大きいので、長く続けることができればと思っています。
蟹江:東響はバロックから現代まで演奏する作品が幅広く、今回も東響での経験がカルテットでも活きていると思いました。
本当に弦楽四重奏がずっと大好きなので、こうやって常設のメンバーでカルテットが組めていることはとても幸せだと思います。常設だからこそできる音楽を作りたくて、この4人でしか作れない音楽を模索している途中です。今、この4人での合わせの瞬間は至福のときですね。
長田:ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)は、海外や日本各地で活動している同世代の仲間たちが1年に2、3回集まってやっているので、JNOで一緒に弾くと刺激があり、新鮮に受け止めながら、それをカルテットにどう活かすかを考えたりしています。
たぶん、ヴィオラが一番輝ける、生き生きできるのが弦楽四重奏。自分がやりたいことをもっと明確に表現して、みんなに伝えられたらいいなと思って6年過ぎましたが、今後も続けていって、音でそれがわかるくらいの表現をしたいですね。
岸本:読響は音色の種類の多いオーケストラです。読響のいいところは、それぞれが埋もれずに個性を出し、エネルギーを発散していること。私は常に刺激のシャワーを浴びています。入団後この3年で、その刺激で耳がひらいた実感があります。それを、自分のヴァイオリンに活かせるようになったことを感じます。読響で得たものをカルテットでアイデアとして、自分が音に出して伝える。そういう一つの幅ができました。誰かと表現を共有するときは、言わなきゃ伝わらないということがたくさんあって、自分の言葉で説明できるようにならないといけないと思って、そういう訓練しているうちに、自分がなんでこう弾きたいかが説明できるようになったのがカルテットなのです。それは自分にとって大きな成長だと思います。
オーケストラをやっているからできるカルテットみたいな感じで続けていきたいです。どっちにも活かせる音楽をしたいと思います。4人が同じモチベーションで同じ目標に向かうことはすごく難しいことです。4人が今のところ一致して一緒に進んでいけているのは普通のことではないと思うので、4人のモチベーションが続く間は、長く続けていけたらなと思っています。