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『ピアノとガムランのためのコンチェルトno.2』(2023)[世界初演]
プログラム・ノート

藤枝 守

藤枝 守

Piece I

Piece II

Piece III

Piece IV

藤枝 守

ガムランに興味をもつようになったのは、アメリカの作曲家であるルー・ハリソン(1917~2003)からの影響でした。1980年代にハリソンに出会い、あらたな音律の可能性やメロディの重要性を知るようになり、それまでの自分自身の作曲の方向性が一変したのです。ハリソンは、しばしば、音楽や文化が必然的にもつ混合性や複合性について語り、ハリソンが晩年に出会うことになるガムランによって「超民族」的な世界が一気に拓かれていきました。
このようなハリソンの世界を継承しながら、ガムランによる「コンチェルト」という形式でいくつかの作品を発表してきました。そして、昨年には、今回のソリストでもある砂原悟さんを通じて出会ったミニピアノとガムランによる「ピアノ・コンチェルト」が福岡で初演されました。
このミニピアノは、トイピアノと混同しそうですが、全体のサイズが縮小されただけで、本来のピアノのメカニズムがしっかりと施されています。第二次世界大戦後の資材難の状況下で、河合楽器製作所は技術の継承をひとつの目的として「ミニピアノ」を世に出しました。生産台数も限られ、現在では忘れ去られた存在でしたが、数年前に砂原さんがこの希有なピアノを偶然に発見して、蘇らせたのです。
単弦であるミニピアノは、調律もかんたんで、また、ハープやリュートのように響き、ガムランに溶け込むように思えたのです。そして、ガムラン・ドゥグンの様式による「パラグナ・グループ」と砂原悟さんによって演奏された『コンチェルトno.1』では、平均律のミニピアノとガムランとのわずかなピッチの偏差が多様なうなりを発生させていったのです。
今回、マルガサリの演奏による『コンチェルトno.2』では、ジャワ・ガムランの「ペロッグ」旋法の鍵盤だけを使用し、その旋法のピッチに基づくミニピアノの調律を試みます。全体は、四つの楽曲により、それぞれは4小節のユニットからなる8個のフレーズによって構成されています。このような楽曲形式は、『ガムラン曼荼羅』という作品を引き継いだものですが、ステージ中央にミニピアノが置かれ、曼荼羅に見立てた個々のガムランの楽器がミニピアノに向かって円環的に配置されます。じつは、このミニピアノは、ひとつの仮想のガムランを宿したものとして見立てられて、入れ子構造となった二つのガムランが響きの文様を織り込んでいきます。
なお、この作品のすべてのメロディック・パターンの生成には、植物の電位変化のデータを変換する「植物文様」の手法が用いられて、今回は、福岡市・香椎宮の御神木「綾杉」のデータが採用されています。

 

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