おすすめコラム

『Hibiki』Vol.21 2023年7月1日発行 

【特集】 「開かれた広場で」


サントリーホールは、さまざまな感性をもつ人々が集い、
音楽の悦びを共有する“広場”のようなもの。
今年のサマーフェスティバルでは、ブルーローズ(小ホール)が、今までにない“広場”になりそうです。
そしてサントリーホールがあるアークヒルズもまた、音楽や出会いが詰まった広場。
心が開く体験が待っています。

サントリーホール ARKクラシックスの楽しみ、アーク・カラヤン広場でのライブ・ビューイング。

♪ ガムランが聴こえてくるインドネシアの村が出現

8月25日から27日までの3日間、サントリーホールにインドネシアの伝統音楽、ガムランの音色が響くという前代未聞のプロジェクト型コンサートが開催されます。この「ありえるかもしれない、ガムラン」をプロデュースするのは、今年のサントリーホール サマーフェスティバルのプロデューサーで作曲家の三輪眞弘さん。
「ガムランは宮廷だけでなく人々が生活する空間で営まれる共同体の音楽です。インドネシアでは、屋根だけがある開かれた建物に奏者の人々が集まってきて、演奏が自然に始まります。その感じのままに、『ひらかれた家』がブルーローズにも登場します。音楽が鳴ると行商や屋台とともにその村の顔ぶれが集まる。そんな雰囲気も味わえる空間が出現します」
人々が集い、自由にガムランの世界を体感するジャワの村「En-gawa」。なんと屋台まで登場する予定。そして、この3日間ブルーローズ開館中は、何時間いても自由。小さなコンサートやガムラン体験コーナー、座談会など、ガムラン音楽を多角的に味わうことができる、またとない機会となります。
「ガムランは、西洋音楽とあり方がまったく違う音楽です。また、楽器、音律、演奏形態などきわめて精緻で、確固たる宇宙観があり、現代の音楽や人間世界を見つめ直す鍵になるのではないでしょうか。一方で、演奏のある空間には、ゆるさや心地よさがあり、どんな人でも楽しめると思います。日常を離れた時間に浸りたいなあ、とか、旅先で聴いたガムランを久しぶりに聞きたいな、といった気分で来るのも大歓迎」
と三輪さん。
三輪さん自身も“村人”として、会場でパフォーマンスに参加する予定で、三輪さんファンにとっても貴重な機会になりそうです。ライブ感あふれるプロジェクト型コンサート、ぜひjalan-jalan(インドネシア語でぶらぶらするの意)してみませんか。

プロデューサー:三輪眞弘
アルゴリズミック・コンポジションなど、変幻自在な活動を続ける作曲家 三輪眞弘がアートコレクティブ KITAとガムラングループのマルガサリを迎え、「ガムランのコスモロジー」を表現します。
En-gawa イメージ図 イラスト:KITA
ブルーローズ(小ホール)に出現する「ひらかれた家」。

♪ 音楽が彩るアークヒルズの街で

爽やかな秋風が吹く頃、サントリーホール、アーク・カラヤン広場、近隣のオフィスビルやホテル、美術館や大使館……街のあちらこちらを上質な音楽が彩る“まちの音楽祭”、ARK Hills Music Weekが始まります。そのオープニングを飾るのは、「サントリーホール ARKクラシックス」。世界が注目するピアニスト辻󠄀井伸行さんとヴァイオリニスト三浦文彰さんがアーティスティック・リーダーを務め、世界中から音楽仲間が集結。トップレベルの演奏を親密な雰囲気で身近に味わえる贅沢な5日間。ご自身も毎年とても楽しみにしているという辻󠄀井伸行さんに、想いを伺いました。

「国内外で活躍しているアーティストをたくさん呼んで、クラシック音楽の幅広い魅力を多くの人に伝えられるようなフェスティバルを、自分たちでつくれたらいいね、と三浦くんとの話からARKクラシックスは生まれました。コンサートホールの中でも外でも、お客様も演奏家も、皆で音楽を楽しめる場にできたらと」
十代の頃から活躍してきた同世代のお二人。協奏曲のソリストとしてオーケストラ・ツアーを一緒にする機会があり、すぐに意気投合。アンコールでデュオの小品を演奏したことをきっかけに、「今度はもっと大きな作品で共演しよう!」と話が進んだそうです。

©Yuji Hori
ピアニスト:辻󠄀井伸行
2009年「ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」において日本人として初優勝。以来、欧米の一流オーケストラ、世界的指揮者から高い評価を受けている。2018年、ヴァイオリニスト・三浦文彰と共にアーティスティック・リーダーとして「サントリーホール ARKクラシックス」を立ち上げた。

「僕はそれまで室内楽をする機会があまりなかったのですが、三浦くんと出会って、本格的に取り組むようになりました。ARKクラシックスでは、二重奏や五重奏など、普段できない貴重な経験もできます。サントリーホールのブルーローズ(小ホール)は、お客様との距離も近くて、緊張もしますが、とても楽しく演奏できる場です」
さらに、二人には新たな望みが。「自分たちのオーケストラをつくってみたい!」と、2019年には「ARKシンフォニエッタ」を結成。
「若手からベテランまで、ソリストとしても活躍する素晴らしい音楽家たちが集まってくれて、エネルギーがあって若さあふれる、夢のオーケストラがつくれました」

このARKクラシックスに辻󠄀井さんはほぼ毎日出演、1日2公演の日も。
「室内楽も、協奏曲もあって、ピアノ・ソロもあり、クラシック以外のジャンルの曲も演奏するので、本当に楽しいんです。今年は、坂本龍一さんや久石譲さんの曲も初めて披露します」
もうひとつ、辻井さんたちが実現したのが、屋外でのライブ・ビューイングです。アーク・カラヤン広場で心地よい風に吹かれながら、最高峰の音楽を、巨大スクリーンで高品質な音響で楽しめる、スペシャルな場です。広場に音楽が満ちあふれ、ホールの中も外も、演奏者も聴衆も一体になる感覚。
「僕たち演奏する側も、めったに会えない人たちと久しぶりに会って、共に音楽をやり、盛り上がります。演奏の合間に、カラヤン広場に集って語り合ったり、ライブ・ビューイングで他の方の演奏を楽しんだり、時にはゲリラ・ライブなんてことも起こります。本当にたくさんの音楽家たちが集まって、いろいろな企画がありますので、ぜひ、皆さんもお祭り気分で楽しんでください。これから10年、20年と続けていきたいです!」

©堀田力丸
音楽への情熱あふれるARKシンフォニエッタ。アーティスティック・リーダー三浦文彰さんの指揮姿も、このフェスティバルならでは。
©堀田力丸
昨年初めて共演した世界最高のトランペット奏者セルゲイ・ナカリャコフ。今年も二人の共演が実現。