昨年の「オルガンZANMAI!」でミュージカル『オペラ座の怪人』を手がけた台本・演出の田中麻衣子さんと編曲の坂本日菜さん。ゴールデンコンビのお二人が、今年もかの名作『ベルサイユのばら』を1時間のオルガン公演に仕立てます。朗読は七海ひろきさん、オルガン演奏は原田真侑さんと、宝塚およびフランスにゆかりの深いキャストでお送りする本公演。制作にかけた思いを、田中さんと坂本さんに聞きました。
池田理代子さん原作の漫画、宝塚歌劇団の舞台、そしてテレビアニメで人気を博した「ベルサイユのばら」は、現在劇場版制作も進んでいる不朽の名作です。オルガンと朗読による公演制作の依頼を受けたときは、どのようにお感じになりましたか?
田中 「いいの?!」と思いました。こんなチャンスはない、実現できたらそんな素晴らしいことはない、と非常にワクワクしました。ただ、正直に言いますと、私はこの作品についてはあまり詳しくなかったので、一から入門するつもりで原作もアニメもすべて拝見し、当時の歴史についても学ぶことができて、またとない機会となりました。
坂本 私は子どものころから「ベルサイユのばら」が大好きで、漫画は全部持っていましたし、アニメもリアルタイムで見ていたので、お話しをいただいた時はもう前のめり。「ぜひやらせて!」という感じでしたね。もはや依頼された感覚すらなく、まるで自分から提案したかのような気持ちです(笑)。今回はテレビアニメで使われた音楽をオルガン用にアレンジしていますが、歌は全部そらで歌えるものばかりで懐かしく、編曲していて楽しくて仕方がなかったです。
まるで大河ドラマのような大作でもある「ベルサイユのばら」ですが、これを1時間の朗読と音楽の公演に仕立て上げる上では、さまざまな工夫が必要だったのではないでしょうか。
田中 1時間の公演となりますと、音楽と朗読の配分を考えれば、実質的に朗読は20分程度に収まるようにしなければなりません。登場人物は主要な4名に絞り込み、オスカルを中心に考えることにしました。テレビアニメから印象的なセリフや場面をすべて書き出し、同時に七海さんが読まれることを想像しながら削ぎ落としていきました。朗読ですので、地の文にも重きを置いています。端的に、シンプルに、それでいてイメージが浮かぶ言葉を選びました。でも、単なるダイジェストではありません。後半のフランス革命に入る場面や、オスカルの最期を描く場面にはたっぷりと時間をかけて丁寧に描くなど、山場を作るように意識しました。
坂本 音楽はやはりアニメの原曲を壊さない、というのを大前提としました。お客様はコード進行や展開の仕方を変えたものを聴きたいわけではないと思うのです。私自身もそうです。馬飼野康二さんが書かれた原曲は気品があり優れた作品です。なるべく忠実に、それでありながらオルガンの良さを活かし、オルガンでなければできない表現を盛り込もうと考えました。たとえば、ドラムパートの8ビートなどは、そのままオルガンの足鍵盤などでやると、ちょっと品のない感じになってしまいます。原曲を単純になぞるのではなく、新たに音型を加えて効果的に盛り上げるような工夫もしています。オルガンの持つ力を出し切れる高度な奏法を駆使していますので、演奏していただく原田さんは大変だと思います。音楽は朗読とは逆に、アニメでは削ぎ落とされて部分的にしか使われていなかった曲も、この公演ではたっぷり1曲としてお楽しみいただきます。
朗読とオルガン演奏というコラボレーションだからこそ、大事に考えられたポイントはありますか?
田中 オルガン演奏の響きから、どう朗読の言葉に繋げていくか、その連関については大事に考えました。演奏が終わった後に、どんな言葉で入るのが適切か、あるいはどんな言葉から音楽へと受け渡していくか。お客様が過ごされる時間的経過を想像して言葉を紡いでいきました。なんといってもオルガンは、空間を支配するような余韻も見事ですから、つなぎ方は大切ですね。
坂本 基本的にはオルガン演奏と朗読は分かれていますが、部分的にオルガンと声が重なる場面があります。その場合、オルガンがパーンという勢いで鳴ってしまうと、お客様の意識が分散してしまうので、響きと声とがよく馴染む音色を駆使しています。サントリーホールのオルガンは、オーストリアのリーガー社製で、バラエティな音色に富み、フレキシブルな演奏ができる楽器です。その強みを活かしています。
最後にお二人から、お客様へのメッセージをお願いします。
田中 「ベルサイユのばら」やオルガンのコアなファンの方にも、入門者の方にも、それぞれの層に響く内容になっていると思います。ベルばらに詳しい方には「その場面を選んだのね」とおもしろく聴いていただけるかなと思います。
坂本 原作を大切にしていますが、良い意味で皆様の期待を裏切れたら嬉しいです。「思っていたのと、違ったけれどおもしろかった」、そう感じていただける公演になればと思っています。どうぞお楽しみください。