【曲目解説】サントリーホールのクリスマス 2022
コレッリ:合奏協奏曲 ト短調 作品6-8「クリスマス・コンチェルト」より 第1・2楽章
アルカンジェロ・コレッリ(1653~1713)は、バッハやヘンデルの少し先輩の世代にあたり、作曲家およびヴァイオリンの名手として広く活躍し、ヨーロッパ全土に大きな影響を与えたイタリアの音楽家です。
「合奏」協奏曲というジャンルは、クラシック好きの方にとっても、少し珍しいかもしれません。協奏曲というと通例、一人のソリストがオーケストラの前で演奏しますが、合奏協奏曲では、ソリストが複数いる小さなグループと、オーケストラによる大きなグループが次々に入れ替わりながら演奏します。
「クリスマス・コンチェルト」は、コレッリの合奏協奏曲の中でも特に有名な作品です。コレッリ自身が、「キリスト降誕の夜のために作曲した」と書き残したことから、このタイトルで広く知られています。今回演奏する第1・2楽章は、ほの暗い繊細な響きで、聖夜の静粛な夜の雰囲気を醸し出します。厳かでしっとりとした、大人なクリスマスの幕開けです。
シベリウス:交響詩『フィンランディア』作品26
続いての曲は、フィンランドを代表する巨匠ジャン・シベリウス(1865~1957)の代表作です。シベリウスは、北欧神話やフィンランドの民族芸能、そして森と湖に囲まれた故郷の豊かな自然を愛し、それらをモチーフに独自の発想で作曲を行いました。シベリウスのもう一つの代表作、交響曲第2番でも随所で聴かれる、澄み渡る清涼な空気、どこまでも雄大な自然が眼前に広がるような響きは、まさに彼の音楽にしか出せない唯一無二の魅力でしょう。
『フィンランディア』とはその名の通り、フィンランドという国をテーマにした作品。19世紀当時、帝政ロシアの圧政に苦しんでいたフィンランドの人々を励ますため、祖国が平和を勝ち取るまでの道のりをストーリー仕立てで描いています。冒頭は金管楽器を中心に、重苦しい雰囲気で、国や民衆が直面している苦難を表現します。しかし、そこから次第に力強さを増し、悲嘆にくれる民衆を鼓舞するような、決然とした凛々しい曲調へと移ります。そして、曲の中間部分では、心を震わせるような美しく壮大なメロディーが登場。この部分は「フィンランディア賛歌」として歌詞付きでも歌われ、フィンランドでは「第2の国歌」としても親しまれています。
困難に直面したとき、それに立ち向かう勇気をくれるこの作品は、明日への活力をもらえる素晴らしい名作として、オーケストラのレパートリーの中でも、よく演奏される作品の一つです。
チャイコフスキー:バレエ組曲『くるみ割り人形』作品71a
いよいよ次は、クリスマスのクラシック音楽の定番、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840~93)作曲の『くるみ割り人形』です。バレエの舞台はクリスマスイヴ。少女クララはくるみ割り人形をプレゼントされますが、その人形が夜になると王子に変身!王子はクララをお菓子の国へと連れていき、二人は妖精たちの踊りで歓迎され、夢のようなひとときを過ごす…という物語が描かれます。
今回のコンサートでは、チャイコフスキーが、バレエなしの音楽だけでも楽しめるように印象的な曲を組み合わせた「組曲」をお届けします。軽快な序曲に始まり、クリスマス・パーティーでのこどもたちの楽しげな様子を描く行進曲と続いた後は、お菓子の国に舞台を移します。チェレスタという鍵盤楽器の繊細な響きが魅力の「金平糖の精の踊り」、目まぐるしい速さのロシアの踊り「トレパーク」、妖艶な「アラビアの踊り」、お茶の妖精が可愛らしく舞う「中国の踊り」、フルートが愛らしい旋律を奏でる「葦笛の踊り」と続き、最後は「花のワルツ」で華やかに締めくくられます。
チャイコフスキーといえば、『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』が「三大バレエ」と呼ばれて有名ですが、『くるみ割り人形』が素敵だなと思ったら、ネクストステップとしておすすめなのが、交響曲です!特に第4~6番の交響曲は、オーケストラの演奏会で取り上げられる機会も多く、人気があります。奏者全員から湯気が出るかのような迫力の熱量から、息をするのもはばかられるような切なさまで、実に展開がドラマティックなので、聴き終わった後は、まるで1本の映画を観たかのような気持ちになるかもしれません。
ムソルグスキー(ラヴェル 編曲):組曲『展覧会の絵』
コンサートの最後を飾るのは、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキー(1839~81)作曲の組曲『展覧会の絵』。彼には、39歳という若さでこの世を去った画家のガルトマンという友人がいました。ガルトマンを追悼するための絵画展に出かけたムソルグスキーは、そこで絵を鑑賞することで得たインスピレーションをもとに、この曲を作りました。全部で10曲の作品は、それぞれが1枚1枚の絵を表現しており、曲間にたびたび出てくる「プロムナード(=散歩)」は、絵と絵との間を渡り歩く様子を描いています。これから見る絵への期待に胸を高鳴らせているような曲調のときもあれば、前に見た絵の印象を引きずるような悲し気な曲調のときも。「この曲のモチーフはこんな絵だったのかな」「このときはどういう気持ちで歩いていたのだろう」と、こちらの想像力を掻き立てます。
1曲目の「グノーム」とは、ロシアの伝説に出てくる地下に住む小人のことで、3曲目の「チュイルリーの庭」は、パリの公園で遊び、けんかをする子どもたち。4曲目の「ビドロ」はポーランド語で牛車、6曲目はお金持ちと貧乏なユダヤ人の会話を描いています。8曲目の「カタコンベ」は古代ローマの地下墓地で、9曲目の「バーバヤガー」はロシアの子どもたちにはおなじみの、おどろおどろしい妖婆。10曲目、「キエフ(キーウ)の大きな門」は、「黄金の門」と呼ばれる11世紀に建てられた門を表現し、壮大に最後を締めくくります。
なお『展覧会の絵』は、元々はピアノ曲として作曲されており、ムソルグスキーの没後すぐに出版されたものの、ほとんど日の目を見ていませんでした。それを一転、世界的に知られる傑作として世に知らしめたのが、「オーケストラの魔術師」モーリス・ラヴェルです。彼の手により、オーケストラの様々な楽器の音色で彩られたことで、1曲1曲の持つ個性がさらに強調して引き出され、この作品の持つ魅力が広く伝わるきっかけとなりました。オーケストラならではの多彩な音色や表現が最大限に生かされていますので、ぜひ味わってみてください!