サントリーホール室内楽アカデミー 第6期から第7期へ
クァルテット・インテグラ(第5・6期修了)がミュンヘン国際音楽コンクール第2位&聴衆賞受賞
「クァルテット・インテグラ リサイタル」 2023年1月に開催決定
「室内楽アカデミー第7期」 が9月にスタート
サントリーホール室内楽アカデミーの第5期及び第6期(2018年9月から2022年6月まで)で研鑽を積んでいたクァルテット・インテグラ 【三澤響果(ヴァイオリン)、菊野凜太郎(ヴァイオリン)、山本一輝(ヴィオラ)、築地杏里(チェロ)】 は、2020年のミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門へエントリーしようとしていたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によりコンクール自体が延期されてしまった。そして2022年、漸く、念願のミュンヘン国際音楽コンクールに参加することができた。結果は、第2位と聴衆賞を獲得。伝統あるミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門での第2位は、1970年の東京クヮルテットの第1位以来の快挙といえる(2008年にウェールズ弦楽四重奏団、2016年にはカルテット・アマービレが第3位に入賞)。また、ヨーロッパの人々の前で弾いた演奏への聴衆賞は本当に価値のあるものである。
クァルテット・インテグラは、第1次予選では、ハイドンの弦楽四重奏曲第44番、デュティユーの「夜はかくの如し」、第2次予選では、シューマンの弦楽四重奏曲第1番、リゲティの弦楽四重奏曲第2番、セミファイナルでは、モーツァルトの弦楽四重奏曲第15番、ウェーベルンの5つの断章、ドブリンカ・タバコヴァの「弦楽四重奏のための《The Ear of Grain》」(委嘱新作)、そして、9月10日のファイナルでは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番とバルトークの第6番を演奏。
ミュンヘン国際音楽コンクールでの第2位は、彼らにとって世界の音楽界へのパスポートになるだろう。コンクールとは別に、クァルテット・インテグラは、今秋から米国ロサンゼルスのコルバーン・スクールのレジデント・アーティストになることが決まっていた。彼らの世界への扉はまさに開かれた。これからのクァルテット・インテグラの国際的な活躍がとても楽しみである。
クァルテット・インテグラは、この年末年始に帰国し、新年早々の1月6日にブルーローズ(小ホール)での「サントリーホール室内楽アカデミー特別公演 ミュンヘン国際音楽コンクール第2位&聴衆賞記念」のリサイタルに出演する。プログラムのメインは、バルトークの弦楽四重奏曲第6番。2021年のバルトーク国際音楽コンクールの優勝者でもある彼らが、ミュンヘン国際音楽コンクールのファイナルで弾き、耳の肥えたミュンヘンの聴衆をうならせた1曲。ハイドンは彼らがずっと取り上げ続けている大切なレパートリー。そのなかから第74番「騎士」を弾く。また、彼らは、ドビュッシーやデュティユーなどフランス音楽も得意とし、ラヴェルでも色彩豊かな演奏を聴かせてくれるに違いない。
サントリーホール室内楽アカデミー第7期が2022年9月にスタート
室内楽アカデミー第7期は、弦楽四重奏団が5団体、ピアノ三重奏団が2団体。6期からの引き続いての受講者はいるが、継続で受講するグループはない。全員が大学生という若いグループ、既にプロフェッショナルとして活躍している音楽家が組んでいるグループなど、多彩である。第7期の最初のワークショップは、クァルテット・インテグラのミュンヘン国際音楽コンクール入賞のニュースで話題が持ち切りとなっていた9月12日、13日にサントリ-ホールリハーサル室ほかで行われた。
初日には、堤剛アカデミーディレクターをはじめ、原田幸一郎(ヴァイオリン)、池田菊衛(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)、花田和加子(ヴァイオリン)のファカルティ全員が参加。この2年間、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、他のグループの聴講ができなくなっていた(代わりに記録録画を残して聴講)が、今期から同じ部屋での聴講が可能になり、お互いが交流し刺激を受ける環境が戻って来た。
ポルテュス トリオ 【菊野惇之介(ピアノ)、吉村美智子(ヴァイオリン)、木村藍圭(チェロ)】 の3人は、桐朋学園大学または同大学院に在籍している。ピアノの菊野は、クァルテット・インテグラの第2ヴァイオリン奏者菊野凜太郎の弟で、兄からこのアカデミーの存在を知ったらしい。
この日のワークショップでは、珍しいレパートリーといえるマルティヌーのピアノ三重奏曲第2番を演奏した。この曲は大阪国際室内楽コンクールの課題曲に入っているから選んだという。難曲ではあるが、よく準備されているように思われた。菊野がパワフルにアンサンブルをリードし、アイコンタクトも取っている。ファカルティ陣から様々なコメント。会場の音響環境に合わせて音を作るようにアドバイスされた。
トリオ・アンダンティーノ 【城野聖良(ヴァイオリン)、高木優帆(チェロ)、渡辺友梨香(ピアノ)】 は、東京藝術大学・同大学院に在籍する3人で構成されている。ヴァイオリンの城野は東京藝術大学大学院で室内楽を専攻している。
この日はフォーレのピアノ三重奏曲の第1、2楽章を演奏。原田氏が「フランス音楽ではもっと自由に演奏してよい」とアドバイス。第2楽章アンダンティーノでは、池田氏が「第2楽章(アンダンティーノ)は君たちの音楽だよ」と励ます。練木氏は「冒頭、ピアノはチェロが入りやすいように作ってあげて」とコメント。
カルテット・インフィニート 【落合真子(ヴァイオリン)、小西健太郎(ヴァイオリン)、菊田萌子(ヴィオラ)、松谷壮一郎(チェロ)】 は、全員が東京藝術大学に在籍している。ヴァイオリンの落合真子は、2021年の日本音楽コンクールで第2位に入賞している。
この日はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第4番第1楽章を弾いた。熱っぽい演奏。落合がリードしているように見える。原田氏が「楽しみなグループ」と感想を述べた。堤氏は「もっと自分たちの音を楽しんでいい」とアドバイス。13小節目からのffを何度も練習する。
第6期に東亮汰(ヴァイオリン)はポローニア・クァルテット、前田妃奈(ヴァイオリン)はカルテット・リ・ナーダ 、古市沙羅(ヴィオラ)はルポレム・クァルテット、山梨浩子(チェロ)はドヌムーザ弦楽四重奏団のメンバーとして参加していた(山梨は第5期にも参加)。 そして、この第7期を受講するにあたって、彼ら第6期のフェローたちによって再編成されたグループがこの「クレアール・クァルテット」である。東は2019年の日本音楽コンクールで第1位に入賞してソリストとして活躍するほか、ジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーとしてオーケストラ活動にも取り組んでいる。前田はこの10月に行われたばかりのヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールで第1位を獲得、また2019年の日本音楽コンクール第2位、2020年の東京音楽コンクール第1位などの入賞歴をもっている。
この日はラヴェルの弦楽四重奏曲を演奏。4人とも技量が高く、第6期での経験もあるので、より室内楽を深めていくに違いない。原田氏は「ダイナミックスがもっと大胆な方がいい」とアドバイス。池田氏は第2楽章で「リズムでもっと遊んでもいい」とすすめる。
ほのカルテット 【岸本萌乃加(ヴァイオリン)、林周雅(ヴァイオリン)、長田健志(ヴィオラ)、蟹江慶行(チェロ)】 は、全員がプロとして音楽活動を行っている。岸本は読売日本交響楽団、長田はジャパン・ナショナル・オーケストラ 、蟹江は東京交響楽団のメンバー。林は、クラシックからポピュラーまでソロ活動に取り組む。ほのカルテットとしては、2018年に宗次ホール弦楽四重奏コンクールで第3位に入賞。2019年には、秋吉台音楽コンクールでクァルテット・インテグラとともに第1位を獲得している。4人全員が東京藝術大学の卒業生であり、蟹江を除く3人がスーパーキッズ・オーケストラの出身という共通のバックグラウンドを持つ。
この日は、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第5番を弾いた。磯村氏と花田氏がスラーや点の意味などかなり細かく指導。第1ヴァイオリンに高度な技巧が求められるが、かなりのレベルで演奏。磯村氏は「とってもいいですよ」と感想を述べる。
カルテット・プリマヴェーラ 【石川未央(ヴァイオリン)、岡祐佳里(ヴァイオリン)、多湖桃子(ヴィオラ)、大江慧(チェロ)】 の4人は、桐朋学園大学または同大学院に在籍。今年はMMCJやプロジェクトQなどにも参加している。
この日は、ハイドンの弦楽四重奏曲第67番「ひばり」の第1、2楽章を演奏。磯村氏が「良かったですよ。でももっとスケールが大きく、ダイナミックに演奏してほしい」とコメント。花田氏も「よく準備してきています。でも真面目に弾き過ぎ。もう少し楽しく」とアドバイス。
クァルテット・フェリーチェ 【五月女恵(ヴァイオリン)、清水耀平(ヴァイオリン)、川邉宗一郎(ヴィオラ)、蕨野真美(チェロ)】は、全員が桐朋学園大学の3年生。ザルツブルク=モーツァルト室内楽コンクール2022 in Tokyoで第2位に入賞している。9月は都合によりワークショップに参加できなかった。
様々な可能性を持った7団体が2年間の研鑽でどのような成長を遂げるのか、注目していきたい。