サントリーホール室内楽アカデミー第6期 開催レポート
カルテット・リ・ナーダ インタビュー
サントリーホール室内楽アカデミーには、アカデミー受講前から室内楽に取り組み、アカデミーでアンサンブルを深めたいと思って参加したフェローたちと、普段はソロ中心の活動を行い、アカデミーで室内楽を学びたいと思って参加したフェローたちとがいる。
カルテット・リ・ナーダは、サントリーホール室内楽アカデミー第6期に参加するために結成された。第1ヴァイオリンの前田妃奈は、2019年の日本音楽コンクールで第2位、2020年の東京音楽コンクールで第1位に、第2ヴァイオリンの福田麻子は、2018年の日本音楽コンクールで第3位、2021年の東京音楽コンクールで第1位に、それぞれ入賞するなど、ソリストとしても活躍している。チェロの菅井瑛斗は、2017年の全日本学生音楽コンクール全国大会高校の部で第1位に入賞するなど、早くからその才能が注目されてきた。ヴィオラの有賀 叶は、今年4月にこのカルテットに加わった新メンバー。
──まず、カルテット・リ・ナーダ結成の経緯について教えてください。
菅井: 外村理紗さんと福田麻子さんと太田滉平君とでボヌール・クァルテットというグループを組んでいたのですが、外村さんが留学することになりました。そこで、前田妃奈さんが入ってくれて、名前も新しくして、2020年4月にカルテット・リ・ナーダとしてスタートし、サントリーホール室内楽アカデミー第6期に応募しました。
前田: 私は、原田幸一郎先生から「サントリーホール室内楽アカデミーを受けてみたら」といわれていて、一緒にできる人を探していたのですが、ちょうど原田先生から「外村さんが留学するから(そのカルテットに)入れば」と言われて、参加しました。コロナ禍の緊急事態宣言が出ていて、母の実家の高知にいて、移動も難しかったのですが、アカデミーの審査の2週間前から加わることができました。
福田: 私は2020年頃に留学も考えていたのですが、コロナ禍で留学が難しい状況になり、原田先生からのお話しもあり、せっかくだからアカデミーに参加しようと思いました。
有賀: 2022年4月から、ヴィオラの太田さんが就職するということで、菅井君が声をかけてくれたので、「リ・ナーダ」に加わりました。
──どうして「カルテット・リ・ナーダ」という名前を付けたのですか?
前田: 小栗まち絵先生が、昔、原田先生たちとNADAをやっていたという話をしてくださって、CDを貸していただきました。CDのブックレットにNADAの由来が書いてあって、サンスクリット語で「宇宙の中のすべての音」という意味だと知り、素敵だと思いました。それで、その意思を受け継ぐグループがあってもいいのではと思って、私が「Re」を付けて「リ・ナーダ」を提案しました。
福田: 壮大な意味で、先生方の素晴らしいグループの名前なのでプレッシャーは感じましたが、彼女が明確な理由をもってちゃんと考えてきてくれたのでそれがいいと思いました。
菅井: 僕は「ストロベリー・クァルテット」が、ポップだし、一発で覚えてもらえて良いと思ったのですが、すぐに却下されました(笑)。
──4人で組んでみていかがでしたか?
前田: 最初はめちゃくちゃもめました。
菅井: 4人の音色が合わな過ぎました。最初、ハイドンの「皇帝」に取り組みましたが、その音色の違いが一番わかりやすい曲でした。
前田: ハイドンは、第1ヴァイオリンのパートがとても難しく、ソロより練習しないと弾けないくらい大変でしたね。
福田: カルテットは終始難しく、同世代のカルテットの上手な人たちの凄さが分かりました。私は、アカデミーに参加していなかったら、弦楽四重奏のコンサートに行かなかったかもしれません。
菅井: このカルテットのメンバーは皆、それぞれやりたいことが明確にあります。2年間、このメンバーだからこそ、学べたことが沢山ありました。
──ワークショップで印象に残っていることや学んだことを教えてください。
前田: ワークショップでは、何人かの先生方で意見が分かれることがあり、私たちの中でも意見が分かれることがあります。いろんな考えや感じ方をする人がいるのでカルテットは面白い。磯村先生と原田先生で意見が割れて、言い合いになったこともありましたね(笑)。2年経ってやっと私も他の人の意見も受け入れられるようになりました(笑)。
アカデミーに入った頃は、カルテットの練習が始まるまでに、(自分のパートを)仕上げていくものだと思っていました。私は楽譜を読み込み過ぎると「これ以外無理です」みたいになるタイプですが、事前に読み込み過ぎていたのかもしれません。ソロは自分の考えを突き詰めてから練習に参加するのが良いのですが、カルテットではそうとは限らないと学びました。読み込み過ぎるよりもまっさらな状態でワークショップに行った方がよいのかもしれません。室内楽での準備の仕方や練習への臨み方がやっとわかったような気がします。
福田: 私も、(自分で)こうあるべきというのが強かったので、1年目は苦しかったです。あまりに自分の考えが強すぎて、自分には理解不能と思う演奏の表現をしたこともありましたが、それをレッスンで「いいね」といわれることもあったので、結局、自分に余白があった上で対応できることが大切だと痛感しました。
先生によって意見が異なるときもあるので、自分たちがどこまで考えてワークショップに出るのかが大切だと思いました。
菅井: 先生方が7人もいるので、偏らないのがよかったです。僕たちの個性や自由を認めた上で、カルテットとしていろいろな角度から教えていただきました。
有賀: カルテットは4人いるけど1つの楽器のようになるのがベストなのかなと思っていましたが、逆に個々に主張があって、ぶつかり合うことによって、混ざって、曲ができあがることがわかって、勉強になりました。
──2020年と21年秋のとやま室内楽フェスティバルの思い出を聞かせてください。
菅井: ブラームスのピアノ四重奏曲第3番を練木繁夫先生と共演しました。
福田: 本番は第3・4楽章だけでしたが、最初から知っておいた方がよいということで、練習でいきなり全楽章を弾いてごらん、と言われて、私たちは第3・4楽章の準備はしてきたのですが、第1・2楽章は初見でした。そのときの練木先生の演奏には圧倒されました。
菅井: あと、毛利伯郎先生とはシューベルトの弦楽五重奏曲を弾きました。僕が毛利先生の前でまさかの第1チェロを弾くことになり、緊張しました。
──この6月にチェンバーミュージック・ガーデンのために来日していたアトリウム弦楽四重奏団に、彼らの祖国の音楽であるボロディンの弦楽四重奏曲第2番のレッスンを受けましたね。
前田: 演奏だけでなく人柄もとても素晴らしい人たちでした。室内楽って、人間的にもすぐれていなければやっていけないと思いました。特に常設のカルテットは。彼らのような人間力のある人って、憧れます。
福田: ワークショップでは「チョコレート好きですか?でも多すぎるといやでしょう」と言われました。全体として素敵に聴こえるように、俯瞰して、ベタベタ弾きすぎない。全体のバランスが大切だと学びました。
菅井: どこを歌って、どこをサラリと弾くのか、メリハリをつける。もっと脱力して、余裕をもって、大人な演奏をする。今後の目標ができました。
有賀: ヴィオラは中音域ですが、第3楽章の最初では、中音域の中での支えとか、そういうことを細かく分けて教えていただきました。
福田: あと、これがロシアの伝統のボウイング(弓の上げ下げ)というのがありました。一般的にはやらないボウイングでしたが、そう言い切れるのはその土地の人たちだからでしょう。
前田: 4人全員がそのボウイングだと言っていたから、そうなんだろうなと思いました。
──カルテット・リ・ナーダとして活動していて、今までで一番思い出に残る曲は何ですか?
前田: ドヴォルザークの「アメリカ」とショスタコーヴィチの第8番ですね。古典派音楽ではそれぞれの意見が分かれましたが、この2曲では全員が全部を出し切れて楽しめました。お互いとことんさらけ出しても弾ける曲だから楽しかった。
菅井: 「アメリカ」とショスタコーヴィチの第8番は、チェロにメロディが一杯あって表現もしやすい。自由にやりたいことができました。
福田: ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番は、正直にいって、それまで聴いたことがなく、私たちにはまだ早かったけど、ベートーヴェン後期のこういう世界があるのだと、新しい世界を見ることができました。そういう意味でいい作品に出会えました。
有賀: 選抜演奏会(ハイドンの「ひばり」とボロディンの第2番)とワークショップの濃い2か月間でした。
── ありがとうございました。今後の活躍に期待しています。