アーティスト・インタビュー

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サントリーホールでオルガンZANMAI! 「珠玉のオルガンコンサート」

三浦はつみ(オルガン) インタビュー

飯田有抄 (クラシック音楽ファシリテーター)

三浦はつみ ©平舘平

サントリーホールでオルガンZANMAI! 「珠玉のオルガンコンサート」は、三浦はつみさんが演奏するオルガン曲の「王道」をお楽しみいただきます。
J. S. バッハや今年生誕200周年を迎えるフランクなど、このコンサートを聴けば有名なオルガン作曲家の音楽を網羅できる!という内容です。三浦さんに公演の聴きどころを伺いました。

三浦はつみ ©平舘平

オルガンの王道的な作品! 裏テーマは「コラール」

この「珠玉のオルガンコンサート」では、オルガン作品の王道的な曲を選びました。オルガンは、長く持続する音、幅広い音域、そしてカラフルな音色を持ち、豊かなハーモニーやポリフォニック(多声的)な音楽を奏でることのできる楽器です。そうしたオルガンの魅力を伝える作品こそが、珠玉のオルガン曲であり王道作品なのだと思います。
このコンサートでは、オルガンの大家であるJ. S. バッハから、今年が生誕200年のメモリアル・イヤーにあたるフランクの作品までを通じ、オルガンの魅力をたっぷりとお届けします。裏テーマとしては、それぞれの作曲家が書いた「コラール」をプログラミングしました。コラールは、もともとはプロテスタントの教会で歌われる讃美歌ですが、オルガン作品への取り入れ方が作曲家によって大きく異なります。

2017年のサントリーホール公演より

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1685~1750)

まずはドイツ・バロックの大家J. S. バッハの3曲です。前奏曲とフーガ ニ短調 BWV 539の「フーガ」は、実はヴァイオリンの作品が原曲となっています。無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番 ト短調のフーガを、バッハ自身が調性を変えてオルガン用に編曲したものです。2曲目はコラール「身を飾れ、おお愛する魂よ」BWV 654です。バッハは教会のカントール(音楽監督)として人生をまっとうした作曲家ですから、フーガやトッカータのような「自由作品」と呼ばれるオルガン作品とともに、礼拝で演奏されるカンタータやコラール作品を数多く残しています。「身を飾れ、おお愛する魂よ」は「装飾コラール」と呼ばれる形式で作られており、もとの明るく優しい讃美歌のメロディーが長く引き伸ばされ、さまざまな装飾をともなって続いていきます。フーガ ト短調 BWV 578「小フーガ」はとてもよく知られた作品です。冒頭に登場する印象的なテーマは破格に長く、それがドラマティックに展開していきます。名曲をあらためてじっくりとお聴きください。

オルガン:三浦はつみ

ジャン・アラン (1911~40)

フランスのオルガニスト・作曲家のアランは第二次世界大戦で若くしてこの世を去りましたが、音楽、詩、絵など多様なジャンルで才能に恵まれた人でした。独特のセンスを持っていた彼は、古代ギリシャや東洋の音楽への関心も抱き、ユダヤ教の礼拝堂であるシナゴーグでもオルガン演奏を行うなど、キリスト教会のオルガン文化の枠組みを超え、“人間讃歌”的なオルガン音楽を生み出しました。アリアはオルガン作品でありながら、アランの内側から発せられた歌心を感じさます。組曲 より 第3曲「コラール」は既存の讃美歌ではなく、自作のメロディーを題材としています。コラールといえばドイツの伝統がイメージされますが、フランス人アランの不思議な響きの魅力をご堪能ください。

オルガンZANMAI! リハーサルより

ヨハネス・ブラームス (1833~1897)

11のコラール前奏曲 作品122は、ブラームスが生涯の最後に残した作曲です。作品は全部で11曲ありますが、どの曲も5分前後という短さです。生涯に交響曲を4作も残したドイツ・ロマン派の大家が、なぜ最後にこうした、やや地味なオルガン作品を書いて終わろうとしたのか、そこには謎めいたものも感じられます。しかし、短い中にもオーケストラ作品に匹敵する壮大かつ緻密な世界観があり、ハーモニーもポリフォニーも奏者の気を引き締める構成感を持っています。死と再生をテーマとしており、やはりそれだけの魅力がある素晴らしい作品です。今回はこの中から「心からあこがれ望む」「心から我が魂は喜びに満ち」の2曲を選びました。前者は、バッハがマタイ受難曲でも繰り返し使用したコラール「おお、血と涙にまみれた御頭よ」を題材にしています。

セザール・フランク (1822~1890)

フランクの3つのコラールも、作曲家の最晩年に書かれた作品です。ベルギー出身、フランスで活躍したフランクは「バッハとは違う方法でコラールを書く」と明言していたこともあり、本作もアランの作品と同様に、やはり既存のコラールではなく自作のメロディーを主題としています。フランクは教会のみならず宮殿でのコンサートなどでも演奏活動をしていました。おそらく本作も自分で演奏することを想定していたのでしょう。あまり具体的な指示書きは楽譜にありません。ですが、残念ながら交通事故をきっかけに体調を崩していた彼は、この曲を演奏することなくこの世を去りました。今回は第3番 イ短調を選びましたが、フランクの頭の中で鳴り響いていたであろう音楽に近づきたいという思いで、演奏に臨みたいと思います。

三浦はつみ(オルガン) プロフィール

東京藝術大学音楽学部器楽学科オルガン専攻卒業。ボストンのニューイングランド音楽院にてアーティストディプロマ取得。オルガンを秋元道雄、廣野嗣雄、島田麗子、菊池みち子、G. ボヴェ、林佑子に師事した。現在、フェリス女学院大学非常勤講師、日本聖公会横浜聖アンデレ教会オルガニスト。横浜みなとみらいホールでは1998年開館以来、23年にわたりホールオルガニストを務め、オルガン・1ドルコンサート、こどものためのワークショップなどの企画、ホールオルガニスト・インターンシップなど育成プログラムに携わった。平成19年度横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞、令和3年度横浜文化賞受賞。

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