『Hibiki』Vol.17 2022年4月1日発行
【特集】 音楽を未来へ
200年前の人々が熱狂して聴いたであろうベートーヴェンの最新作は、今もクラシック音楽として日々演奏され、私たちの耳に届きます。
2022年の今ここで響いた音楽は、数世紀後の人々の心も潤すかもしれません。音楽には、時代や世代を超えて繋がっていく楽しさがあります。
目の前で演奏している奏者は、20年後にはどんな音色を奏でているでしょう。これからの自分は、どんな音楽を聴いて何を感じていくのでしょう。
サントリーホールで、未来へ向かう音楽のエネルギーを体感してみませんか?
♪ はじめての出会い
「音楽はごく自然に身近にあるもの。そして全世代、誰もが分け隔てなく受け取れる人類共通の宝物です。サントリーホールにいらした体験を通じて、音楽で繋がる輪の中にスッと入ってきていただけたら、こんな嬉しいことはありません」
とサントリーホール館長の堤剛。50年余にわたり国際的に演奏活動を続けているチェリストで、共に音楽を奏でるよろこび、舞台と客席が一体となる高揚感を誰よりも知っている館長のもと、サントリーホールは、良き出会いの場になることを常に願い、力を注いでいます。
今年のゴールデンウィークには、長年構想をあたためてきたスペシャルイベント、『こども音楽フェスティバル』を開催します。ソニー音楽財団とサントリー芸術財団がタッグを組んでプロデュースする〝世界最大級のこどものためのクラシック音楽フェス〟。5月4日から7日までの4日間、大ホールとブルーローズ(小ホール)、アーク・カラヤン広場や周辺施設も含めて、0才から19才まで各年齢層に合わせ趣向を凝らした多彩な企画に、総勢300名以上もの音楽家が参加する、音楽との出会いの場です。
「はじめてのオペラ『ヘンゼルとグレーテル』」「名作アニメ×スクリーン!」(4才〜入場可能)、「ほしぞら音楽会〜プラネタリウム・コンサート〜」(小学生以上)などのプログラムや、ピアノ、弦楽器、金管楽器やサックスのトッププレイヤーが楽器・楽曲の魅力を余すところなく伝える各種コンサート(小学生以上)、「中高生のためのベスト・オブ・吹奏楽」など、多種多彩。0才児から楽しめる「Concert for KIDS」、プレママに贈る「0才まえのコンサート®」は、ソニー音楽財団が長年続けてきた人気シリーズ。5898本のパイプからなる巨大なオルガンの響きを楽しむ「こどものための オルガン プロムナード」や「いろいろドレドレ特別企画」(0才〜)は、サントリーホールが継続してきた主催企画の特別版です。オープニングとクロージングは、オーケストラの華やかな響きが彩ります。「オープニング・ガラ・コンサート」には、本フェスティバルに登場する歌手たちや様々な楽器のソリストが続々登場。フェスティバルの公式アンバサダー、清塚信也さんのピアノ演奏もお楽しみいただけます。
こどもも大人もオープンな心持ちで、音楽と過ごす休日。お子さんやお孫さん、親戚、友人家族とご一緒に、すばらしい体験を! 遠方でいらっしゃれない方々には、公演中継と清塚さんらによる楽しいお話を、無料ライブ配信番組『こども音楽フェスティバルオンライン!』でお届けします。
『こども音楽フェスティバル』公式アンバサダー
『こども音楽フェスティバルオンライン!』配信総合パーソナリティ
清塚信也 メッセージ
世界中を見渡してみても、これだけ大規模なこどものための音楽祭は見たことがありません。「いいものを創ろう」と皆が本気で取り組み、名だたる一流アーティストがそれぞれにアイディアを凝らし、こどもたちに向けてどんな表現をするのか、今からワクワクします。なにより、破格のチケット料金! このフェスティバルは、今後の日本の音楽シーンに大きな影響を与えるでしょう。
僕は、5才ぐらいのときに連れてきてもらったサントリーホールのことを、今もよく覚えています。オーケストラの演奏を聴いて、「これ、テレビのコマーシャルで流れている音楽だよね!」と(それは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲でした)。それ以来、「いつかサントリーホールの舞台に立つために頑張るのよ」と母に背中を押され、音楽家への道を歩み始めたのです。
こどもたちにはとにかく、「音楽は楽しい!」ということを身体に入れてほしいですね。気軽に自然に、音楽の楽しさや不思議さを、物語を読んだり図鑑を眺めるように味わってほしい。そして、「いつも音楽はそばにいるよ」と伝えたいです。
♪ 音楽の輪
開館36年目を迎えたサントリーホールでは、日々様々な物語が生まれ、新しい歴史が刻まれています。
たとえば、東京交響楽団とサントリーホールによる『こども定期演奏会』は、日本初のこどものためのオーケストラ定期演奏会としてはじまり、今年で22年目。はじめてコンサートホールを訪れ、オーケストラの音楽に出会ったこどもたちが、成人して社会に巣立っていくほどの年月を経てきたことになります。お子さんといらしたお父さんお母さんが、やがておじいちゃんおばあちゃんになって、お孫さんと一緒にまたこの定期演奏会に戻ってきてくれるなど、うれしい循環も起こっています。16年前に〝こども奏者〟としてオーケストラの中での初演奏体験をした小学生の男の子が、それを機に本気でプロの音楽家を目指し、ヨーロッパ留学・演奏活動を経て、なんと東京交響楽団コンサートマスター(第1ヴァイオリン首席奏者)に昨秋就任。『こども定期演奏会』20周年にこども奏者と一緒に演奏するという、ミラクルも生まれました。
同じように、小学5年生のときに〝こどもソリスト〟として大ホールのステージで演奏を披露した、ヴァイオリニストの三浦文彰さんは、
「こどもながらに憧れのサントリーホールだったので、楽しすぎて、『あー、もう演奏が終わっちゃった、もっと弾きたいなー』と思ったことを覚えています」
世界を舞台に活躍する今でも、その時のよろこびが蘇ってくると言います。そして2018年からはサントリーホールを拠点に、ピアニスト辻󠄀井伸行さんと共にアーティスティック・リーダーとして『サントリーホール ARKクラシックス』を毎秋開催(今年は9月30日から10月4日予定)。若手演奏家たちに呼びかけ、室内楽を存分に楽しむ公演を企画、専属オーケストラ「ARKシンフォニエッタ」も発足し、自ら指揮もするなど、次の時代へと続く音楽の輪を広げています。
さて、今シーズン最初の『こども定期演奏会』(第81回)は5月8日。ソリストに10才のヴァイオリニスト吉村妃鞠さんが登場、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏します(前述の、清塚信也さんが5才の時にはじめてサントリーホールで聴いた曲ですね)。すでに様々な国際コンクールで優勝し、国内外のマエストロやオーケストラに注目される彼女が、どんどんレパートリーを広げ、個性を開花し、世界に輝く演奏家になっていく道のりを、聴衆の私たちも一緒に歩んでいける楽しみのはじまりです。
ヴァイオリニスト
三浦文彰 メッセージ
11才の僕が〝特別〟だと感じたサントリーホールの響き。この素晴らしい響きを最初に知ることができたのは、演奏家として本当にラッキーなことでした。
生の演奏を聴くというのは、テクノロジーが進化し様々なエンタメが溢れる現代においても、特別な体験だと思います。色々な楽器が鳴り響くのを耳で聴き、肌で感じ、その空気感を体感する。しかも世界に誇るサントリーホールで……それを体験しているかしていないかで、人生観も変わってくるほどだと思います。
クラシック音楽は、時代や世代を経て伝えられてきた作品を、音楽家個人個人が独自に解釈し再創造する醍醐味があります。前世代の演奏家を尊敬し、吸収し、次世代に繋げていく。それが僕ら演奏家の使命。そんな音楽の楽しさを、一緒に感じてもらえたら嬉しいです。
ヴァイオリニスト
吉村妃鞠 メッセージ
今回演奏するのは、しなやかで、品があって、人気のヴァイオリン協奏曲です。私も大好きで、6才ぐらいから挑戦しています。オーケストラと私とで成り立つ音楽なので、一緒に良く合わせて、私が引っ張っていけたらと思っています。
サントリーホールは響きがとても良く、赤い客席に囲まれる感じも素敵なので、とても楽しみです。ヴァイオリンは人の声に近い楽器で、表現力が豊か。そこに注目して聴いてほしいです。大きなホールなので、二階席のいちばん奥のお客さまにも届けられるように演奏します!
夢は、世界のいろんな場所で、ウィーン・フィルやベルリン・フィル、すばらしい音楽家たちと共演することです。
♪ 人から人へ繋がる音楽
音楽は、演奏されてはじめて形を表わし、そこに聴き手が立ち会うことで完成します。生まれた瞬間に消えていく音だから、奏者から次世代の奏者へと繋がっていってこそ、新しい聴衆に届くのです。形なきバトンのように伝えられるのは、「音楽を創るよろこび」。
サントリーホールは、若きプロフェッショナルを育む「サントリーホール アカデミー(オペラ・アカデミー/室内楽アカデミー)」を長年開講し、才能溢れる新しい世代の音楽家を輩出しています。
「未知のもの、自らの可能性に挑戦し、よりすばらしいものを創ろうと切磋琢磨する若い音楽家たち。それを実現させようと熱意を持って献身的に教える講師陣。それも、講師と受講生という関係性ではなく、垣根なく音楽を共にする場という想いを込めて『ファカルティ(教授、才能・手腕といった意)』と『フェロー(仲間)』と称しています。音楽家としても人間としても様々な経験を積んだファカルティたちが、ほんの少しサジェスチョンするだけで、ぐんとレベルが上がる。細かい技術のみならず、大きな形で音楽を掴んでいく様子を見ていると、なにか人間社会の将来が明るく豊かになっていくような、うれしく楽しい気持ちになります」
と、アカデミーのディレクターを務める堤館長は目を細めます。学びの成果をブルーローズ(小ホール)で披露できるのも、サントリーホール アカデミーの特長です。室内楽アカデミーのフェローたちは、初夏恒例の室内楽の祭典『チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)』で、世界中から集まる一流の音楽家たち、室内楽のレジェンドであるファカルティたちと共演する貴重な機会もあります。
今年は、アカデミーで2期4年間学び、昨秋バルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門第1位に輝いた「クァルテット・インテグラ」が、CMGでリサイタルを行うという新たな歴史も刻まれます。また、メンバーがアカデミー修了生で、世界的な演奏活動を行っている「葵トリオ」が、7年がかりで臨むピアノ三重奏プロジェクトを披露。『ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会』では、第6期フェロー全員が登場し、研鑽の成果を発表します。
「彼らが演奏家として世界に羽ばたいていく準備の場が、アカデミーであり、お客様と音楽を共にできるCMGの舞台だと思います。ドイツ語で〝ムジツィーレンMusizieren〟という言葉がありますが、音楽する、つまり一緒に音楽を奏でる・歌う、音楽で対話するというような意味が込められています。それはまさに〝響き合う〟こと。サントリーホールが、音楽を通じて人々が出会い、時を共有する場となり、皆さんの人生を豊かなものにするお手伝いができればと常々思っています。そして、お客様と一緒に将来に歴史を刻んでいけたらと願っています」。