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チェンバーミュージック・ガーデン
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サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2022
クァルテット・インテグラ リサイタル/ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会

クァルテット・インテグラ インタビュー
<バルトーク国際コンクール優勝記念>

中原佑介 (ブダペスト・バルトーク・アーカイヴ/音楽学者)

バルトーク国際コンクールで優勝したクァルテット・インテグラ(2021年10月)  ©LISZT ACADEMY/LÁSZLÓ MUDRA

 サントリーホール室内楽アカデミー第6期を代表する弦楽四重奏団、クァルテット・インテグラは2021年10月に開催されたバルトーク国際コンクールの弦楽四重奏部門で見事1位を受賞した。
 バルトーク国際コンクールは彼の生誕135周年を記念する2016年に創設された新しいコンクールで、器楽部門(ヴァイオリン、ピアノ、弦楽四重奏)と、器楽部門のための課題曲を募集する作曲部門が交互に行われるユニークなコンクールだ(このコンクールは6年を1つの周期としており、次の弦楽四重奏部門が開催されるのは2027年である)。
 筆者はこのコンクールの予選およびセミファイナルを時間の許す限りネット配信で視聴し、ファイナルおよびガラ・コンサートは会場であるリスト音楽院のショルティ・ホールで観覧した。他のバルトークの研究者と会った際にはコンクールの話題に花が咲き、全体的にレベルの高いコンクールであったということ、特に上位入賞団体については演奏解釈が成熟していたということで意見が一致した。上位団体の中でもインテグラが際立っていたのは演奏の完成度であり、一緒に観覧していたアメリカの作曲科の教授が「超人的」とコメントしていたのは印象的だった。
 もしかするとこの「超人的」という賛辞はアンサンブルの正確さや緻密さといった、どちらかと言えば技術的な側面に向けられていたのかもしれない。しかしここで強調しておきたいのは、インテグラの正確さはそれのみを目的としたものではなく、個々のメンバーのお互いに対する理解と信頼によるものであること、またあくまでも追及する音楽表現の一部であることだろう。
 ここで少し表現の話をすると、バルトークは弦楽四重奏曲第5番においてさまざまな(特殊)奏法を指定しているのだが、インテグラはそうした指定に義務的に従うのではなく、音楽的に何が求められているのかを読み解き、色彩豊かな演奏を実現していた点が印象的だった。
 本記事では、受賞の興奮冷めやらぬ2021年11月初旬にZoomを介して日本語で行われたインタビューの原文を紹介する。このインタビューは後日ハンガリー語に翻訳されハンガリーのウェブサイトにも掲載される予定である。

バルトーク国際コンクールで優勝したクァルテット・インテグラ(2021年10月)  ©LISZT ACADEMY/LÁSZLÓ MUDRA
ブダペストにあるリスト音楽院のショルティ・ホールがコンクール会場となる。

ハンガリーにいらしたのは初めてということですが、いかがでしたか?

菊野 人々があたたかく、ご飯もおいしく、存分にリハーサルできる環境まであって、とても快適で楽しい一週間でした!

築地 私は言語と音楽はとても密接に関係していると思うので、初めて実際にハンガリーに来てその街の空気を感じ、ハンガリー語で話す人々の声を聞き、独特なアクセントや抑揚を聞けたのはバルトークを演奏する上でとても大きな収穫でした。

リスト音楽院 ショルティ・ホール前

どうしてバルトーク国際コンクールに参加しようと思ったのか教えてください。

三澤 以前ヴァイオリン部門で高木凛々子さんが2位を受賞したので、バルトーク国際コンクール自体については知っていたんですが、カルテット部門というのがあるのは知らなかったんです。2021年3月、ちょうど大阪のコンクールが中止になってがっかりしている時に、審査員の尾池さんが告知していたのをTwitterで見て、今年国際コンクールがあるなら受けちゃおうよってなったんです。希望の光でした。

©LISZT ACADEMY/ DÉNES ERDŐS

コンクールに向けてどのように準備されたのか教えてください。

三澤 私たちは桐朋学園大学を卒業したあと、現在はサントリーホールの室内楽アカデミーの第5~6期生として、毎月レッスンを受けています。あとクァルテット結成時からお世話になっている、桐朋学園大学の山崎伸子先生と、元東京クヮルテットの磯村和英先生にも個人的にレッスンを受けて、今回のコンクールに向けてちゃんと準備できたかなと思っています。

山本 ただ先生が僕たちの音楽をガラッと変えようとするということはないですね。どの先生方も基本的には自分たちのことを信頼してくれていて、自分たちがやろうとしていることを聴いてすぐ理解してくれます。その上で、客観的にアドバイスしていただいているのですが、それをもとに自分たちで主体的に考えてやっていくって感じです。

三澤響果(ヴァイオリン) ©LISZT ACADEMY/ LÁSZLÓ MUDRA

今回コンクールで演奏した曲について、何かエピソードがあれば教えてください。

菊野 今回演奏した「日の出」では、とても快活でどこか土臭い3楽章の後にやや穏やかなスタートを切る4楽章が始まります。ここが私たちにとっては非常にハイドンらしい、一瞬おっ?と思わせるようなお茶目なポイントで、お気に入りの部分でした。

山本 セミファイナルについては、僕たちが弾ける曲っていう選択肢は色々あったんです。最終的にベートーヴェンのOp. 132とドヴォルザークのOp. 105とどちらにしようか迷ってたんですが、磯村先生に僕たちのベートーヴェンが良いって誉めていただいたので、先生が言うならそうしようってことでベートーヴェンに決めました。

築地 セミファイナルの新曲演奏では二つの課題曲の候補がありました。コンクールでは世界中から様々な弦楽四重奏団が集まることを考えて、日本人だからこそ表現出来るものを表現しようということで岡本伸介さんの曲を選びました。審査員の方からは、私たちの演奏がすごく綺麗だったって言われて、日本らしさと言うのを出せたのかな?と思って、それは嬉しかったですね。

菊野 シューベルトの「断章」がすごく良かったと言われて、個人的に嬉しかったです。僕らはこの曲のことをまだ完璧にわかりきったと言う訳ではなかったんですけど、確かに本番が終わってみると、今までで一番良い「断章」が弾けたんじゃないかって感じだったので、それが審査員の方にも聴こえていたんだなって嬉しかったです。

菊野凜太郎(ヴァイオリン)©LISZT ACADEMY/ LÁSZLÓ MUDRA
山本一輝(ヴィオラ) ©LISZT ACADEMY/LÁSZLÓ MUDRA

バルトークについては、6曲の弦楽四重奏曲から1曲を選ばないといけなかったのですが、どうして5番を選択されたのですか?

三澤 まず音の数が多くてびっくりして、何が起こっているのか聴いただけではまったくわからなくて、頭が混乱するくらい凄い曲だなって思って、それが「かっこいい」って気持ちがありまして、だからこそ弾いてみたいなって。本当マジックみたいだなって。スコアを読む限りでは普通のカノンとかフガートとかが出てくるのに、テンポのせいで全然普通じゃないという感じになって。個人的には演奏するのにスリルがあって、本番もスリルがありました。

菊野 個人的には、全部の楽章それぞれの個性がわりと際立っていて、キャッチーな気がして、ビビっと来たと言うか。特に3楽章が好きなんですけど、「1-2-3-4, 1-2, 1-2-3」という、この・・・ちょっと民俗舞踊みたいな、ああいうのがバルトークらしいというか、バルトーク以外はあの時代にあんな変則的なものを使わないんじゃないかと思ったりして。

山本 5番が一番面白いかなって。2楽章と4楽章が本当に魅力的で、2つも魅力的な楽章があるっていうのが弾いていてすごくよかったです。磯村先生は、バルトークの中でも5番が大変な方だって言っていて、大変なのが好きなので。

築地 全部を聴いてみて、5番聴いた時の第一印象で「推し」を決めました。特に溢れ出てくるエネルギーみたいなものが感じられたのが印象的でした。あとは、例えば2楽章冒頭のチェロとか、民俗的なうたの要素がいろんなところが出て来て、そういうのが魅力的だと私は思いますね。まさか3楽章が、弾くまでこんなに難しいとは思わなかったんですけど。

築地杏里(チェロ) ©LISZT ACADEMY/ LÁSZLÓ MUDRA
©DÉNES ERDŐS

3楽章は楽章を通して独特な変拍子が使われていますが、中間部では極めて速いテンポで微妙なリズムの変化を表現しなくてはいけません。みなさんにとって、演奏するのはどのくらい大変でしたか?

三澤 私は8分音符がずっと並んでいて、それを普通にずっと弾いている感じなので特に混乱はしなかったですけど。

菊野 「3-2-2-3」で正確に弾くにはちょっとテンポが早くて、ファーストが8分音符を絶え間なく弾いている中で一応嵌めるという形にするのは大変でした。

築地 チェロは「3-2-2-3」と「2-3-3-2」の2種類のリズムがあるんですが、できる限り正確に弾こうと思って弾いていました。

山本 みんな正確にシンメトリーなリズムを弾いているつもりだと思うんですけど、他の方々の録音ではそう聴こえないからなんでかなって思って。だから、僕は頭使って本当っぽく弾こうって思って。ただ、弾いている側からしてはそうなっているかどうかは全然わからないので、なるべくそう聴こえるように・・・。

©LISZT ACADEMY/ DÉNES ERDŐS
クァルテット・インテグラ
2015年結成。バルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門第1位。第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門第1位、ベートーヴェン賞、山口県知事賞(グランプリ)を受賞。キジアーナ音楽院夏期マスタークラスにて、クライヴ・グリーンスミスに師事し、最も優秀な弦楽四重奏団に贈られる“Banca Monte dei Paschi di Siena” Prizeを受賞。第41回霧島国際音楽祭に出演し、堤剛音楽監督賞、霧島国際音楽祭賞を受賞。松尾学術振興財団より助成を受ける。サントリーホール 室内楽アカデミー第5・6期生。
ヴァイオリン:三澤響果/菊野凜太郎、ヴィオラ:山本一輝、チェロ:築地杏里

山本さんは頭を使って弾いているとのことですが、聴く方としてはとても自然に、そして音楽的に弾いているように聴こえたのが面白いです。

山本 僕の中では、あそこは、「誰も踏めないステップを当たり前のように踏んでいる人」という感じだったんです。ただ、最初の2小節くらいで完璧にステップを踏んで見せて、それからは割と自由に弾けばいいのかなって考えていたので、それが聴こえていたのかもしれません。

©DÉNES ERDŐS

ガラ・コンサートが始まる前、参加者のみなさんが審査員の方々と和やかにお話されているのを見かけました。インテグラのみなさんは審査員の方々とどういうお話をしたのか、よければお聞かせください。

山本 僕たちは最初あまり審査員の先生方とお話できなかったんですけど、審査員の尾池(亜美)さんがサポートしてくれて。実際に話してみるとみんなすごく優しくて、一流の方々はみんないい人だなって思いました。

三澤 (審査員長のミハイル・)コペルマンさんからはファーストヴァイオリンを弾くうえでの心構えに関するアドバイスを頂きました。コペルマンさんの理想のバランスからするとファーストヴァイオリンが少し小さいと感じたようで、「too soft」だと言われました。私はピアノをとても大事に、柔らかい音色で弾きがちなので、それは自分でもわかるんですけど。でも、これはコペルマンさん自身の個人的意見なので、自分が一番弾きやすいのが一番だと言われました。そのあと、コペルマンさん自身も身体が小さいこともあり楽器の鳴らし方は難しいよねという話になりました。
あと一次予選でE線が緩むハプニングがあったんですけど、「あれは生演奏でしか見ることができないような、聴衆が喜ぶハプニングだから気にしなくていいよ」って言われました。「誰にでも起こりうることで、審査には影響はないから心配することはないよ」って意味で言葉をかけてくださったんだと思います。ちなみにあの時、私はとても動揺したんですけど、他のメンバーが動揺せずに弾いてくれたので良かったです。

©DÉNES ERDŐS
©DÉNES ERDŐS

それでは最後に、今後の予定についてよろしくお願いします。

築地 海外での活動を広げていく為にもさらに挑戦を続けていこうと思っています。これから先、長く続けていく上で、常に鋭い視点で弦楽四重奏に向き合いずっと進化し続ける、そんなカルテットでいたいと思っています。

山本 僕たちにとってレジェンドで、先生でもある東京クヮルテットの魂を受け継ぎたいと思っています。でも僕たちは東京クヮルテットの演奏を再現したいというのではなく、音楽、特に弦楽四重奏曲に数十年向き合い、情熱を燃やしてきたその思いを受け継いでやっていきたいなと。

築地 今のところはコンサートでバルトークの弦楽四重奏曲の演奏予定は特にありませんが(※)、もちろんこれから先、6曲すべてを深く勉強していくことになると思います。全曲勉強してみると、これまでに勉強した2番、5番についても何か新しい見え方が発見出来ると思うので楽しみです。
※2021年11月インタビュー時。2022年6月6日「クァルテット・インテグラ リサイタル」にてバルトーク:弦楽四重奏曲第5番を演奏予定。
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インタビューではクァルテット・インテグラの音楽へ取り組む真摯な姿勢など、様々な興味深い話を聞くことができた。2022年6月のサントリーホールでの公演、そして今後の更なる研鑽と活躍に期待したい。

©LISZT ACADEMY/LÁSZLÓ MUDRA
©LISZT ACADEMY/LÁSZLÓ MUDRA
  • バルトーク国際コンクール2021 「ガラ・コンサート」より 
    クァルテット・インテグラの紹介およびバルトーク:弦楽四重奏曲第5番の演奏

    ※2時間4分40秒頃よりご覧いただけます

  • ファイナルのステージより  ©DÉNES ERDŐS
  • 表彰式より  ©LISZT ACADEMY/ LÁSZLÓ MUDRA
  • リスト音楽院
  • リスト音楽院 大ホール前
  • 国会議事堂(ブダペスト)
  •       マーチャーシュ教会(ブダペスト)

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