「こども定期演奏会」は、年4回シリーズで開催している“こどものための”オーケストラ定期演奏会。
指揮者・原田慶太楼さんは、20周年を迎えたこども定期演奏会2021年シーズンの最終回、12月12日(日)に登場します。
「こども定期演奏会」の面白さ、そして、今回新しく始まる「新曲チャレンジ・プロジェクト」についてお話を伺いました。
「こども定期演奏会」には今回で3度目のご登場です。この春には東京交響楽団正指揮者に就任され、これからも長く関わっていかれると思いますが、「こども定期演奏会」はどのような場だと感じていらっしゃいますか?
本当に素晴らしいと思っています。子どものためにある定期演奏会というコンセプトの素晴らしさと、日本のクラシック音楽界では今まであまりやってこなかったことに挑戦し、20年間続けてきたこと。
僕は10数年アメリカで活動をしてきて、子どものためのコンサートもたくさんやってきました。そして5年前ぐらいから日本でも指揮するようになり、最初は学校の音楽鑑賞教室のような場が多かったのですが、もっと楽しくすることができるな、と感じて。素直に音楽を楽しんでもらうために、僕なりのアイディア、やり方でいろいろ始めた頃に、この「こども定期演奏会」と出会ったんです。
子どもが心から楽しめる場、それでいて本物。オーケストラがステージの上で勝負をしている状況を、子どもたちに伝える。そして一人でもいいから、家に帰って「わー、お母さん、今日コンサートすごく楽しかった! 楽器を始めてみたい!」なんて言ってくれたら、僕はそれだけでハッピー。音楽がきっかけで誰かの人生が変わったら、そんな素晴らしいことはないですよね。そのために、最高のプログラミングとシナリオとプレゼンテーションで、「うわあ、すごい、かっこいい!」と思ってもらえる時間にしたいと思っています。
演奏会での日本の子どもたちの印象は?
お行儀いいですよね。子どもに限らず、日本のお客さんは、じっとしている。でも、僕の「こども定期演奏会」は、じっとさせません(笑) 皆でボディ・パーカッションをしたり、(コロナ禍前は)一緒に歌ったり踊ったり。体で音楽を感じてもらいたいんです。コンサートに行って、ノリのいい曲だったら客席でノリノリになっていいんだよ、好きに聴きなよって、小さい頃から教えておいてあげたい。DNAにちょっとでもインプットしてもらえたらと思っています。音を楽しむと書いて音楽なのだから、この「楽しむ」というところを忘れないで、って思います。
20年の歴史の中で、かつて小学生の時に“こども奏者”として東京交響楽団と一緒に演奏した男の子が、なんとこの9月から、東京交響楽団のコンサートマスターに就任されたとのこと。
小林壱成くんですね。そんなことが起きるとは、この定期演奏会を始めた時は誰も予想しなかっただろうけど、20年の歴史の結果として現れてきたわけです。
この定期演奏会を作っている制作チームが、いいですよね。司会の坪井直樹さん、プログラムや台本作りに関わっている飯田有抄さんも含め、サントリーホール、東響のスタッフみんなが、「子どもたちのためにこうしたら面白いよね」と、子どものような感覚もキープしながら、一生懸命考えて制作している。そこに僕のような若い世代の指揮者が入ったりして、考え方もいろいろ変えながらね。
原田さんのアイディアで今回から始まるという「新曲チャレンジ・プロジェクト」について、お聞かせください。
東京交響楽団の正指揮者になったことによって、なにか新しいことを始めていきたいと考えました。僕が今ライフワークにしていることは、日本人の作曲家の作品を世界に広めること。僕は海外をメインに活動しているので、なおさら、海外の人たちに日本人の作曲家を知らしめたい。
作曲家って演奏家や指揮者とタッグを組んで有名になっていくパターンが多いんです。アメリカのコープランドという作曲家は、バーンスタインが積極的に演奏することによって有名になっていったし、日本の武満徹さんは、小澤征爾さんがアメリカをはじめ世界各地で作品を紹介したことによって知られるようになっていった。そういうことを今の指揮者たちもやらないといけない、日本人指揮者である僕にはその責任があると思うんです。
「新曲チャレンジ・プロジェクト」は、毎年良い作曲家、良い作品を発見して、やがて世界に紹介し広めていくための企画。それも「こども定期演奏会」の中でやるわけですから、子どもを軸にして、子どもたちが書いたメロディーを基に作品を作ってもらう。応募する作曲家たちも、自分のメロディーではなく、すでにあるメロディーをどういう風に上手く使って自分の作品にしていくか、そのプロセスにはかなりのクリエイティビティが求められます。
まず、子どもたちから1〜8小節のメロディーを募集し、そして若手作曲家たちがそのメロディーの中から2つ以上をモチーフとして使い、オーケストラ作品にしていきます。
2021年のテーマは「踊り」。応募者が提出した5分以内の作品の譜面と音源すべてに原田さん自ら目を通し、東響とサントリーホールと共に審査をします。
今年は全国の小・中学生が応募してくれた中から、6人(5人と1組)が作ったメロディーを採用させてもらいました。
プラスアルファ、今の時代、作曲家は音楽の質だけでなく、自分で宣伝する能力を持っていなければ通用しません。ですので、応募する際には作品と一緒に、自身のPRビデオを作成することも条件にしました。自分で自分のことをアピールできるということがどれだけ大切か、知ってもらいたいのです。いくら作った曲がよくても、みんながフォローをしてくれるような人間でないと、現実的には誰も聞いてくれないしやっていけない、シビアな世界ですから。今回の応募では、曲とPRビデオ、ほとんど半々で重要視しました。子どもたちも喜んでくれるようなお兄さんお姉さん的存在であり、才能があって、曲が素晴らしくて……。
選んだ作品は、子どもたちの6つのメロディーすべてを使ってオーケストラ曲を作った、小田実結子さんの『La danse des enfants 子供たちの踊り』です。7月に決定してから、毎週のように彼女とはコミュニケーションをとっています。
その作品が、12月12日の第80回こども定期演奏会で、原田さんと東京交響楽団により、サントリーホール大ホールで世界初演されるわけですね。壮大な計画です!
やがては、メロディーを応募してくれたこどもたちが成長して、若手作曲家としてオーケストラ作品を応募してくれる可能性もあるわけですね。そして世界へ羽ばたいていく……
毎年一人の作曲家にチャンスを与える場となり、作品を世に出していくのはすごく嬉しいですし、「こども定期演奏会」20周年に始まる企画として、とてもふさわしいと思っています。
今回、作曲家の小田さんには、メロディーを作ってくれた子どもたちそれぞれに、「あなたのメロディーを聴いた時にこういう印象を受け、作品の中でこういう風に使いましたよ、このメロディーを作ってくれてありがとう」というメッセージビデオを作って送ってもらいました。
※こども定期演奏会2022年シーズン 新曲チャレンジ・プロジェクト 子どもたちのメロディー募集はすでに始まっています。締め切りは2022年1月10日(月)です。
作曲家から直接メッセージが届くなんて、子どもたちも大感激ですね。自分の作ったメロディーがどんな風に作品に活かされてオーケストラに演奏されるのか、本当に楽しみにしていることでしょう。
その他にも「こども定期演奏会」では毎シーズン、テーマ曲を子どもたちから募集していますね。採用された曲は、オーケストラ用にプロが編曲して、毎回オープニングに演奏されます。そして毎年シーズンの最終回には、オーディションで選ばれたこども奏者たちがオーケストラと一緒に演奏するのも聴きどころです。
来シーズンのテーマ曲は年明けから募集を始めますが、編曲は小田実結子さんにしてもらうことが決まっています。
※こども定期演奏会2022年シーズンのテーマ曲の応募期間は、2022年1月5日(水)~2月1日(火)です。
夏にオーディションを行って選ばれたこども奏者たちは、すでにオーケストラのメンバーの指導のもと、パート練習をしています。これからオーケストラと一緒にリハーサルをして、12月12日、大舞台に立ちます。僕はこども奏者との演奏は今回初めてですので、とても楽しみ、期待しています。一緒に演奏するのは、ロシアの作曲家ハチャトゥリヤンのワルツです(組曲『仮面舞踏会』より第1曲「ワルツ」)。
今シーズンは、オーケストラ・タイムマシーンⅡ(西洋音楽史)がテーマです。
最終回となる第80回は【近現代】。
20世紀、21世紀の作曲家たちの作品を取り上げます。今も生きて活躍している作曲家もいますし(コープランド、マルケス、小田実結子)、踊りにちなんだ楽しい曲ばかりです。ロシアのワルツもあるし、アメリカのホーダウンという踊りはテンションが高くてスピーディーな踊り(コープランド:バレエ組曲『ロデオ―4つのダンス・エピソード』より 第4曲「ホーダウン」)。メキシコの作曲家マルケスの『ダンソン 第2番』は、とてもロマンチックで、物語性があります。男の子と女の子が恋に落ちて、物語が展開していく様子が、音楽ですごくよくわかり、とてもエキサイティング。そして、ホルストの『惑星』(組曲『惑星』より「木星」)で全部をまとめる感じ。宇宙を回っている惑星は、踊っているようでもあり。いいフィナーレになると思います。
最後に、なにか子どもたちへのメッセージを。
僕はもともと物語が好きで、物語があって音楽があるミュージカルの世界に惹かれたのが、音楽家を目指すきっかけでした。
音楽そのものにも物語があります。例えば交響曲は、作曲した人の長大な物語。作曲家がどれだけ語っているか、どういう人生を歩んだのかが、すべてのハーモニーに埋め込まれています。
僕たち演奏家は作曲家に成り切って、いわば役者になって再現しているのです。そこが楽しい。皆さんも、その繋がりを感じながら聴いてほしいです。
今回はそれがとてもわかりやすいプログラムになっているので、より楽しめると思います。待ってるよ!