クァルテット・インテグラは、チェンバーミュージック・ガーデンの「フィナーレ 2021」での演奏にも選ばれるなど、第6期のフェロー(アカデミー生)を代表する弦楽四重奏団である。結成の経緯や過去の歩みについては、2年前のインタビューを参照していただきたい。
> 2019年のインタビューはこちら
2019年、第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位を獲得し、2020年の大阪国際室内楽コンクール&フェスタにも参加する予定だった。しかし、コロナ禍によって、大阪室内楽コンクール&フェスタは1年延期したあと、中止が発表された。インテグラは、2020年のミュンヘン国際音楽コンクールの弦楽四重奏部門にも申し込んでいた。ミュンヘンの弦楽四重奏部門は2022年に開催となり、再びの挑戦を考えている。
クァルテット・インテグラ インタビュー
――第5期から継続して第6期にも参加していますね。
山本 「室内楽アカデミーは、インテグラがクァルテットを続ける上での拠点みたいな意味があります。レッスンが受けられて、リハーサル会場も提供していただき、本番(演奏会)もありますから」
菊野 「学校を卒業すると勉強できる場があまりないので、アカデミーを続けることに全然迷いはありませんでした」
――第6期になって、インテグラは何か変化がありましたか?
三澤 「室内楽アカデミーに参加した最初の頃は、講師の先生方が巨匠過ぎて、良い意味でも、悪い意味でも、いつも先生のスタイルに近づこうとしていました。でも、今は、自分のスタイルにそれを入れるという形にしていこうと思っています。そして、先生方が私たちのスタイルを大事にしてほしいと思っていることもわかりました」
築地 「第6期のフェローは、年齢が下がり、私たちより上は京トリオだけです。だから、第5期のときより、シャキッとした気持ちで取り組んでいるかもしれません」
――参加が決まっていた昨年の大阪国際室内楽コンクールの延期及び中止は残念でしたね。
三澤 「3年以上前から、受けようと決めていて、目標にありました。それがパタッと消えて・・・。すごいチャンスだったのになあ」
山本 「コンクールが中止になった時は非常に残念でしたが、ずっと“コンクール前”という状況に慣れて、もう恐れなくなっています」
三澤 「去年もミュンヘン国際音楽コンクール(の弦楽四重奏部門)には申し込んでいました。2020年は中止になり、2022年に延期されました」
――コンクール用の弾き方とか、あるのですか?
山本 「コンクールでもコンサートでも、それ用の演奏というものはなくて、いつでも自分達の演奏をしなければいけないと思う。いかに自分の演奏をするか。持てるものを出し惜しみせず、すべて出すか」
三澤 「勝ちに行くだけの演奏はしない。もちろん勝ちに行くけど、勝ちのみを目指すのではない」
――室内楽アカデミーで習ったことと自分たちのスタイルで異なることもあるでしょう。
菊野 「アカデミーで習っていることは、演奏をする上での選択肢の一つと思っています。第5期のときは、過度に気にしましたが、第6期ではそういう風にとらえています。」
山本 「(先生方のアドバイスは)巨匠の言葉なので(笑)。それを踏まえて自分たちはどうするかを考えています」
三澤 「先生方はいいスパイスですね」
築地 「先生方の経験を教えていただいて、自分たちの引き出しを多くしてもらっています」
――第5期から第6期になって、この室内楽アカデミーで変わったことはありますか?
三澤 「第6期生は、コロナ禍のため他のグループのレッスンの聴講ができないのが残念ですね。第5期が始まった頃、表現しようとしていることが他のグループとこんなにも異なることに気づきました。他のグループを聴くのはとても重要なことですし、面白い。それをみんなに知ってほしい。他のグループのレッスンの聴講が早く再開されることを強く願っています」
築地 「(フェローは他のグループのレッスンを)動画で見られるとはいえ、今回、生で他のフェローたちと会ったのは富山のフェスティバルが初めてでした」
菊野 「僕は他人に見られている感が必要。第5期のときは緊張しました」
――第6期で特に印象に残っているできごとは何ですか?
三澤 「とやま室内楽フェスティバルでの成果発表会で、めったに立たない原田(幸一郎)先生がスタンディングオベーションされたんですよ。原田先生がとても喜んでくださって、本当にうれしかった。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番を弾きました」
山本 「僕も一番印象に残っているのは富山。あれ以来、先生方にある種認めていただけるようになったことを感じるので、ちゃんとしなければいけない」
築地 「私も富山の本番はすごく印象的でした」
菊野 「僕は、大阪のコンクールがなくなってから、どんな本番でも全開で弾き続けてきています」
――とやま室内楽フェスティバルでの交流や、他のグループについても教えてください。
菊野 「富山でも、いつもならみんなでご飯食べたりするんですが、今年はなるべく(他のグループと)交流しないように言われていて、まだあまり仲良くなれていません。今期は、みんな、個性が違った方向に尖っているように思います」
三澤 「第6期はカルテットで参加するグループが多く、あと1年、他のグループから刺激を受けることが多くありそうです」
山本 「第5期で入ってきたときに比べて、全体の室内楽熱があがっている。もしかしたら、コロナ禍と関係あるかもしれませんが。僕らの学生時代は真面目に室内楽やっているグループが少なかったけど、今は以前よりもちゃんと室内楽をやろうとしている人が増えている。日本でクァルテットが盛り上がってきているのかな」
――インテグラのレパートリーはどのように決めているのですか?
菊野 「まんべんなく、時代が偏らないように取り組んでいます。古典、ロマン派、近代と」
山本 「第6期になってから、ゴリゴリの現代音楽を始めました。クセナキス、武満徹、リゲティなど」
――プログラミングについてはいかがですか?
山本 「僕は常に作戦を練っています。コンサートでは何かを打ち出そうと思っています。クセナキスのあとにハイドンとか。今までのコンサートとは違うもの」
――インテグラの今後について教えていただけますか?
三澤 「インテグラで早く世界に進出したいなあ。早く様々なところに行って、もっといろいろ吸収したい。インテグラとして強いスタイルを確立するだけです」
菊野 「僕は飽き性な方なのですが、高校に入って、クァルテットに思ったよりのめり込みました。僕は今が一番楽しいし、これが続けばいいと思っています」
山本 「ずっとクァルテットを続けていくという前提で話すと、慣れでは絶対に音楽をやりたくないです。ただ続けていても意味がない。年を取っても丸くならないで、常に鋭い感覚・観点を磨いて、年を取ったときに一番鋭くなっているような音楽ができればいいな。インテグラってこうだよね、というのをずっとやるのではなく、ずっと進化して、もっと尖っていきたい。それができれば、ずっと続けられるのかなと思います」
築地 「クァルテットをやっていて、みんなの音楽の土台が一致して、その上で4人の個性が面白く聴けるような感じっていいなと思っています。長く続けていくうちに、4人それぞれは変わっていくと思いますよ。そのなかで、レパートリーは増えていくでしょう。何回も弾く曲も多いと思いますが、毎回新鮮に取り組んでいきたいと思っています」
********************
2年ぶりにクァルテット・インテグラの4人にインタビューをして、彼らのグループとしての、また、人間としての成長を強く感じた。この2年間は、クァルテット・インテグラが学生の団体からプロの団体へと変貌を遂げようとしていた時期であった。
2019年に国内コンクールで第1位を獲得し、2020年は、国際コンクールに挑戦して、飛躍の年とするはずであった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、彼らは目の前の大きな目標を失った。彼らはモチベーションを保っているのだろうかと私は心配になった。ところが、彼らと話をして、演奏活動が自由にできないこの時期に彼らはむしろ弦楽四重奏団としての個性を深めたように思われた。そして志の高さ。ブレーク前夜に違いない彼らに話が聞けてよかった。