アーティスト・インタビュー

チェンバーミュージック・ガーデン
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『Hibiki』Vol.14 2021年4月1日発行

特集: 相性を聴く音楽祭 チェンバーミュージック・ガーデン (CMG)
小山実稚恵、小菅 優&吉田 誠、ヘーデンボルク・トリオ インタビュー

心地よい風が吹き、草花が芽生えて、今年もサントリーホールに
『チェンバーミュージック・ガーデン(室内楽の庭)』の季節がやってきます! 
音楽は、大きな明るいエネルギーで人と人とをつないでくれます。
なかでも室内楽(チェンバーミュージック)は
親密なコミュニケーションを音楽で体感できる場。
奏者の間ではどんな想いが行き交っているのでしょうか?
その人間関係は?
今号では、室内楽における〝相性〟という視点で、演奏家にお話を伺います。

♪ 多彩な組み合わせ
作曲家がある想いを込めて創りだした楽曲を、演奏家が楽器を使って表現し、今生まれた響きを、聴き手も奏者も同じ空間で受け取ることができる。それがコンサートの楽しみです。人がライブで生みだす音だからこそ、演奏は毎回違うし、毎回新しい発見があります。
そんな刺激的な場が連日28公演、総勢80名余りの音楽家に出会えるのが、『サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)2021』。今年は10周年、6月6日から22日間にわたる祝祭となります。
 「室内楽の魅力を、いろいろな花がいろいろな色、形で咲く〝ガーデン〟と捉えた、世界でも類のない新しい試みとして始まったCMG。この10年間、大勢の皆様に育まれ、大きく成長してきました。このことこそ、室内楽の醍醐味であり、魔術だと思っています」
とサントリーホール館長で世界的チェリストの堤剛は、喜びを表します。
国内外から個性豊かな音楽家、伸びゆく若き俊英が、続々と日替わりで登場。王道の弦楽四重奏、親密な二重奏、ピアノ三重奏や四重奏、管楽器やハープが入った五重奏や八重奏もあり、200年以上前の古楽器の響きもあれば、20世紀以降の現代音楽作品も楽しめます。
 「楽器の組み合わせ、奏者の組み合わせ、編成人数……様々な形態が際限なくあり、多彩な響きを楽しめる室内楽の魅力を、そのままお届けしたい」
と、サントリーホールのプログラミング・ディレクターは2年以上前から動き始めます。それぞれの演奏家が今取り組みたい作品、共演したいと願う組み合わせをできる限り実現し、「ブルーローズ(小ホール)」で最高のパフォーマンスをしてもらうためです。

♪ アンサンブルの距離感
CMGの出演者は、長年共に演奏活動を続けている室内楽団や、同じオーケストラのメンバー同士という円熟のアンサンブルもあれば、ソリスト同士の初顔合わせ、サントリーホール室内楽アカデミー・フェロー(受講生)とソリストや室内楽団との共演など、CMGならではの組み合わせも数多くあります。
幕開けは毎年恒例、堤剛プロデュースによるオープニング公演です。様々な演奏家と様々なアンサンブルを紡いできた堤の、記念すべきCMG10周年のパートナーはピアニスト小山実稚恵。それぞれソリストとして世界の第一線で活躍しながら共演を重ねてきた、まさに至極のデュオです。チェロとピアノを介してどのような想いを重ねているのでしょうか。
チャレンジの場であり、想いを響き合わせる場で、個性あふれる演奏家たちはどのように寄り添い、刺激し合って、アンサンブルを創り上げるのか。音楽に向き合う過程で対立するようなこともあるのでしょうか?
まずは小山実稚恵さん、次に小菅優(ピアノ)さんと吉田誠(クラリネット)さん、そしてヘーデンボルク・トリオにお話を伺います。

CMG2017より 堤 剛(チェロ)、小山実稚恵(ピアノ)、竹澤恭子(ヴァイオリン)
CMG2017より リチャード・ストルツマン(クラリネット)、小菅 優(ピアノ)、磯村和英(ヴィオラ)
CMG2016より 吉野直子(ハープ)、ラデク・バボラーク(ホルン)
CMG2018より キュッヒル・クァルテット(弦楽四重奏)と吉田 誠(クラリネット)

小山実稚恵(ピアノ) インタビュー

CMGでの演奏は初回から連続10回。今年も堤剛とデュオを繰り広げます。
 「CMGは、ひとことで言って幸せな時間です。そして、共演するその日だけでなく、共演できるとわかった瞬間から幸せを感じます」
と小山さんは言います。その感覚をわかりやすく旅にたとえてくださいました。
 「旅に行った先での時間がいちばん楽しいにしても、旅に行くと決まったときから、どんな旅にしようかといろいろ調べたり空想したりという時間も楽しいですよね。それと似ているかもしれません。この幸せは、共演を10回重ねても変わりません。なぜなら、決して同じことはなく、演奏のたびに無限の変化が生まれるからです。その変化に出会うために毎年同じ曲を共演してみたいぐらいです」

♪ 音楽のなかで本音を語り合う
異なる楽器同士の相性とはいかなるものでしょうか?
 「ピアノは素晴らしい楽器ですが、悲しいかな、ハンマーで弦を叩いて音を出すので、音が減衰してしまうんですね。弦楽器は、いつ始まったかわからないように発音する素晴らしい技があり、また、音を出してからでもクレッシェンドができるので、物理的に消えゆくピアノの音を弦楽器が次の音で迎えてくれる。室内楽で弦楽器とともに演奏すると、ピアノだけではできない音楽を創れていることを感じます」
では、共演する相手との〝相性〟とは?
 「もちろん、そもそも共通するものをもつ演奏者同士の共鳴はとても素晴らしいと思いますが、一方で、対峙することがあっても、そこから〝違うものの調和〟が生まれることがあります。
音楽のなかで本音を語り合えれば、うわべの波風は関係ないと思うんです。本音を受け止めたり、自分も渡したりというのが音楽です。その観点からみれば、個性とかタイプとかということは、別次元のことだと思いますね」

小山実稚恵
チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクールの二大コンクールに入賞以来、今日に至るまで、コンチェルト、リサイタル、室内楽と、常に第一線で活躍し続けている。2019年春からは、自らの企画による『ベートーヴェン、そして・・・』リサイタルシリーズを行う。著書に『点と魂と ―スイートスポットを探して』。
CMG2019 「プレシャス 1pm」での共演風景。

♪ 人間の可能性への希望
 「堤さんのチェロの演奏を側でお聴きすると、まさに『ああ、人間には限りなく可能性があるのだ』という希望を感じるのです。ほんとうに音楽に愛をもって、情熱を込めて弾いていると結果そうなってくるという境地です。共演しながら感動し、幸せを味わっています」
室内楽で共演するお互いには、言葉を超えた親密さが存在するとも。
 「本番で演奏しているとき、どういう感じで次に弾かれるか、なぜかわかるんです。音楽の流れからなのか、視野にある弓の動きや体の動きからなのかわからないんですけれど、『次はこのようになりそう』というのが伝わってくるんですね。言葉では逆に伝わらないことかも」
大ホールで演奏されることも多い小山さん。ブルーローズという空間との相性はどうなのでしょうか。
 「演奏する私もですが、たぶん、聴きに来られた方がいちばん喜んでいらっしゃるのでは。演奏者の息遣いまでわかりますし、見る楽しみもあるんじゃないでしょうか。指の使い方とか、弓の持ち方とか、楽器をやっている方ならとくに関心あるでしょう。私自身もコンサートで演奏する姿を見るのが好きなんです。ブルーローズのような親密な空間で見るのがいちばんの贅沢だと思います」
今年のCMGでは、昨年演奏できなかった(※)ブラームスのチェロ・ソナタ2曲に加えてヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」の編曲版を演奏する予定。ブルーローズでデュオの「幸せな時間」に浸ってみてはどうでしょうか。(※)CMG2020は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため通常公演の開催を見送りましたが、CMGオンライン(無観客有料ライブ配信)として7公演を開催しました。

CMG2018より 曲間のふたりのMCでも相性の良さがうかがえる。

【小山実稚恵さんとデュオを奏でる堤剛(チェロ)からメッセージ】
小山さんとのデュオのコンサートでアンコールにサン=サーンスの「白鳥」を演奏したことがあります。数え切れないくらい演奏してきた曲ですが、小山さんの弾きはじめのアルペジオ(和音をひとつずつ奏でる演奏方法)がぞくっとするほどに美しく、大変感動したことがありました。小山さんは曲の素晴らしさを素直に表現できる稀有なピアニスト。何度共演しても、新たな発見や感動があるのです。これも素晴らしい相性の証左といえるのではないでしょうか。
今回のブラームスのプログラムでは、ヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」の編曲版も演奏します。もとはヴァイオリンとピアノのための曲で、クレンゲルがチェロのために編曲したもの。原曲とは調性も違うので、印象が違い、新たな世界をお届けできるのではと思います。私にとってもわくわくするようなチャレンジです。

オープニング 堤 剛プロデュース 2021
*6月6日(日)13:00開演 公演詳細・チケット購入はこちら

©鍋島徳恭
堤 剛
名実ともに日本を代表するチェリスト。桐朋学園で齋藤秀雄に師事。1961年インディアナ大学(アメリカ)に留学、ヤーノシュ・シュタルケルに師事。63年ミュンヘン国際音楽コンクール第2位、カザルス国際コンクール第1位入賞。2009年秋の紫綬褒章を受章。13年文化功労者に選出、17年毎日芸術賞受賞。1988年より2006年までインディアナ大学の教授を、04年より13年まで桐朋学園大学学長を務めた。07年9月サントリーホール館長に就任。日本芸術院会員。

小菅 優(ピアノ) & 吉田 誠(クラリネット) インタビュー

「まことくん」「ゆうちゃん」と呼び合うふたりの音楽家の間に、絶大な信頼感があることは、言葉の端々から感じられます。
 「ひとりで弾いているときは自分のやりたいことをやるのみですが、人と一緒に同じ作品に向き合うと、自分の考えとはまったく違う意見が急に降ってきたりして、とても新鮮です。音楽は言葉と同じ、キャッチボールのように、こちらから投げかけると向こうから返ってくる。それが室内楽の楽しみのひとつです。私は幼い頃から室内楽が大好きなんです」
と小菅優さん。9歳でリサイタルデビュー、10歳でドイツに渡り、以来、世界各地で演奏活動を行い、常に注目されるピアニストです。
一方、吉田誠さんは15歳でクラリネットに出会い、東京藝術大学入学後に渡仏。パリ・東京を拠点に、リサイタルや室内楽公演など意欲的なプログラムを発信し続けている、気鋭のクラリネット奏者。
 「音を通して互いの想像力をぶつけ合ったり共有したりできる人と出会えたときは、天上の喜びです。小菅さんと一緒に音を出すと、自分の想像を超える会話が成立する。音楽を創るときにこんなコミュニケーションの仕方もあるんだ、こんなことが可能なんだ、と共演するたびに感動があります」

♪ 出会いはブラームス
互いに「素晴らしい演奏家がいる」と認識しながら、実際に出会ったのは6年前。
 「まことくんが私の演奏会を聴きに来てくれて。サロンのような会場だったので、終演後に、遊びで一緒に弾いてみたんです」(小菅)
 「たまたまそこにブラームスの、クラリネット奏者にとってはとても大切な作品の楽譜があって。1楽章だけやってみよう、と。それが音楽を通じての最初のコミュニケーションでしたね」(吉田)
2017年、小菅さんが取り組むベートーヴェンのピアノ付き作品全曲演奏プロジェクト「ベートーヴェン詣」に、五重奏の一員として吉田さんが参加。次は吉田さんの発案で、ブラームスとシューマンの作品でデュオ・リサイタル。ヨーロッパ公演でフランス、スイス、ドイツ、オーストリアと巡る間、食事を共にし(ふたりとも食べることが大好き!)、同じ風景を眺め、ときには小菅さんの運転で移動中に車がパンクするなど、ハプニングも共有したそうです。

©Marco Borggreve
小菅 優
幼少時から国内外で演奏活動を行い、2005年にカーネギーホール、06年にザルツブルク音楽祭でリサイタル・デビュー。17年第48回サントリー音楽賞受賞。CMGデビューは17年、クラリネットの巨匠リチャード・ストルツマン、ヴィオラ磯村和英との三重奏。昨年はオンライン配信で堤剛とデュオを披露。
©Aurélien Tranchet
吉田 誠
5歳からピアノ、15歳からクラリネット、22歳から小澤征爾、湯浅勇治らに指揮を学ぶ。2016年にCMG登場、今回とは異なる4人で武満徹作品やメシアン『世の終わりのための四重奏曲』など演奏、CMGアンサンブルを指揮。18年にはキュッヒル・クァルテットとブラームス『クラリネット五重奏曲』を演奏。

♪ 共に挑む喜び
そして2021年、CMGでの初共演は小菅優プロデュースで、偉大なる作曲家・武満徹(1930~96年)の作品を中心に、究極の室内楽に挑みます。
 「コロナ禍で不安が募る日々、武満の著書を読み返し、多くの言葉に励まされました。アーティストとしてのこれからにヒントをもらえたのです。人と一緒に何かを創る喜び、争いや苦しみを超越する音の世界を、今だからこそ伝えたい。私が最も信頼する音楽家3人と一緒に取り組みたい、と」(小菅)
 「プロジェクトを共にすることは、作曲家の思想や哲学を追求し、作品の時代・文化背景を共有していくこと。様々な文化に造詣が深く、多くの友人に恵まれた武満徹という人ならではの感覚的なものが、音楽にあります。演奏を通して、そこに詰まっているたくさんのメッセージを引き出したい。僕たちには伝える責任がある。挑戦です。この4人は、音楽の大きな地図を共有できる仲間。自分の想像力を超えた何かが起こせるという、勇気と希望がそこにあります」(吉田)
 「アイデアを語り合い意見を交換するとき、それぞれ受けてきた教育も異なりますから、結構ぶつかることもあるんです。でも音楽の素晴らしさは、最終的にそこに愛がある。作品を一緒に追求していくことが、人間同士の触れ合いにつながる。それが室内楽だと思います」(小菅)

♪ 音楽への愛が満ちる場
異なる文化を背景にリスペクトし合う同世代の音楽家たちが、先達の想いに向き合い、新しい音の世界を生みだします。
 「近くで聴いてくださる皆さんの感情や空気感も自分のなかに入ってきて、インスピレーションを共有できる場。過去にも戻れる空間。今から楽しみでしかありません」
と、おふたりで声を揃えました。

小菅 優プロデュース 武満 徹「愛・希望・祈り」~戦争の歴史を振り返って~
Ⅰ 6月15日(火)19:00開演 公演詳細・チケット購入はこちら
Ⅱ 6月17日(木)19:00開演 公演詳細・チケット購入はこちら

©Ryuya Amao
ブラームス&シューマン作品はCD録音も共にし、東京のライブ・レストラン『コットンクラブ』でデュオ・リサイタルも開催(2020年12月)

ヘーデンボルク・トリオ インタビュー
ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(ヴァイオリン)、
ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク(チェロ)、ユリアン・洋・ヘーデンボルク(ピアノ)

兄弟が生まれ育ったのは、音楽史に輝く数多の音楽家を輩出し、世界的な音楽祭でも知られるオーストリアのザルツブルク。父はヴァイオリニスト、母はピアニスト。ごく自然に、3人それぞれ異なる楽器を手に、音楽家への道を進みました。
 「オーストリアではハウスムジーク(家庭の音楽)が根付いていて、家族はもちろん、誰か遊びに来たり親戚が集まったりすると、皆で演奏を楽しみます。僕たちも小さい頃からずっとそう。サンタクロースが家に来てくれたので、お礼に3人で演奏してあげたこともありますよ」
と長兄の和樹さん。兄弟トリオだからこそ、音の合わせ方以上に〝気分の合わせ方〟がよくわかると言います。
 「今日はふたりとも機嫌良さそうだから自分がやりたい方向を主張してみようとか、今言うと揉めそうだから必要なところだけ音合わせして、残りは明日、とかね」

♪ それぞれのキャラクター
2歳違いの弟・直樹さんは、次男の立場から3人を冷静に分析します。
 「見せかけが通じず本音でしかできないのが、兄弟での演奏の特別なところかな。それぞれのキャラクターがあって、兄は責任感が強く、妥協なしに自分を貫く。ヴァイオリンという役割がぴったりです。次男としては、兄を見習うこともあるし追い抜いてやろうとも思い、でも、ぶつかりたくない。チェロに導いてくれた母に感謝ですし、この低音がとても好き。音楽のベースを支えます。三男の洋とは10歳離れていて赤ちゃんの姿から知っているので、やがて大人の話ができるようになり、音楽を一緒に分かち合える今、とっても嬉しく思っています」
両親や兄を追ってヴァイオリンとピアノを学び、ピアノを選んだ三男・洋さんは、
 「ちょっと欲張りだったのかも。右手がヴァイオリン、左手がチェロの役割、全部できるのがピアノなので。兄たちの音は生まれた時から耳に入っていて、弓の速さや音の盛り上げ方、次にやりたいことが自然とわかります。それぞれ人生の違うところにいて観点も違うし、兄たちの経験と僕の若いエネルギーを交換し合って協力して演奏するのが、楽しいですね」

へーデンボルク・トリオ
長兄・和樹(右)は2001年ウィーン市立音楽大学卒業、ウィーン国立歌劇場管弦楽団入団、04年ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団正団員。次男・直樹(左)は03年ウィーン楽友協会にてソロ・デビュー、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の首席チェロ奏者を経て、11年よりウィーン国立歌劇場管弦楽団およびウィーン・フィル団員。三男・洋(中央)は12歳でウィーン国立音楽大学入学、16歳で一旦クラシック音楽を離れヘヴィメタルやテクノ・ポップなどのバンドでベースギターを。11年よりハイドン音楽大学でピアノを学び、数々の国際コンクールで受賞、ソリストとして活躍中。

♪ オーケストラと室内楽とソロ
和樹さんと直樹さんは、世界最高峰のオーケストラ、ウィーン国立歌劇場管弦楽団およびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の正団員として活動しています。
 「オーケストラは、楽器の多様さで音色が最も豊かです。一方ソリストの活動は、自分の世界をとことん貫いて人間の可能性をどこまで引き伸ばせるか、試練の場。室内楽は、お互いを必要としつつ、ひとりひとりが主張して個として存在できる。一緒に息をして同じ方向を向いて自然に音楽が生まれ、分かち合う。家族のような温かさがあります」(直樹)
 「室内楽は聴き合いながら支え合っている安心感。共存する深さを知ることができます」(洋)

♪ ブルーローズ(小ホール)は特別な場所
兄弟でトリオを組み、日本デビューしたのは、2017年のCMGでした。
 「日本人の母を持つ兄弟として特別な思いがあり、すごい集中力と高揚感がありました」(洋)
 「初めて『ブルーローズ』を体験し、すごく感動しました。観客がとても近い距離で演奏家を囲んで座り、室内楽の臨場感を感じてもらえる。こちらにも皆さんの息遣いや感情が伝わり、一体感、集中力をものすごく感じる場。ウィーンにもこんな場所はありません」(直樹)
 「舞台と観客が分かれずに、包み込まれる親密な雰囲気。音楽での会話ができる。人間の交流の場ですね」(和樹)
ウィーンという街や歴史的音楽家たちと深いつながりを持ちながら、性格も趣味も辿ってきた道も異なる兄弟のトリオ演奏。人生が詰まった濃密な時間です。

ヘーデンボルク・トリオ ベートーヴェン&ブラームス
Ⅰ 6月20日(日)14:00開演 公演詳細・チケット購入はこちら
Ⅱ 6月21日(月)19:00開演 公演詳細・チケット購入はこちら

CMG 2017のステージ。ベートーヴェンとブラームスの 『ピアノ三重奏曲第1番』などを演奏しトリオで日本デビュー。

CMG 2021 こんな相性にも注目(耳)!

サントリーホール企画制作部副部長 プログラミング・ディレクター
中鉢智博


CMGの毎年恒例目玉企画、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲を演奏する「ベートーヴェン ・サイクル」は、精神も体力も充実した熟練の弦楽四重奏団でなければ成し得ないプログラムです。今年登場するのは、イスラエル出身のエルサレム弦楽四重奏団。活動25周年を迎え、感情を込めつつも作曲家の意図を素直に表現する絶妙なバランス感覚が聴きどころです。
歴史的ピアノと演奏家、演奏作品の妙を楽しめるのが「フォルテピアノ・カレイドスコープ」。当ホール所蔵のエラール(1867年フランス製)ほか、ベートーヴェンが作曲した当時のウィーン製フォルテピアノでの演奏や、シューベルトやシューマンの歌曲を当時のフォルテピアノとバス・バリトンの歌声、ヴァイオリンでの共演など、またとない貴重な機会です。
室内楽は、作曲家が本当に自分がやりたいことを表現した作品が多いのも魅力です。そして間近で感じる演奏家同士の目配せや息遣い、音のやりとり、楽器の奏法……視覚的発見も多く、とてもスリリングで楽しいのです。

演奏家を間近に感じられるブルーローズ(小ホール)

チェンバーミュージック・ガーデン
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