サントリーホール室内楽アカデミー
新たなフェロー(受講生)を迎え、第6期がスタート
今年9月、10年目を迎えたサントリーホール室内楽アカデミー。新たなフェロー(受講生)が参加し、第6期がスタートした。
近年は、室内楽アカデミーのフェロー(受講生)や修了生の活躍が著しい。2018年には、アカデミー修了生から構成されている葵トリオが第67回ミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得した。昨年は、第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門で、第5期フェローであるクァルテット・インテグラが第1位に、同じく第5期フェローのチェルカトーレ弦楽四重奏団が第3位に入賞している。
9月16日、17日、第6期の初めてのワークショップ(レッスン)がサントリーホールのリハーサル室でひらかれた。今年は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、開講式はなく、フェローたちの聴講もない。ただし、フェローたちには、オンラインでの聴講が可能となった。第6期のフェローは、弦楽四重奏団が6団体、ピアノ三重奏団が1団体からなり、個人参加はない。9月16日は、堤剛アカデミー・ディレクターのほか、原田幸一郎、池田菊衛、花田和加子(以上ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)ら、全ファカルティ(講師)が出席した。
午前10時からのワークショップの一番手は、「カルテット・リ・ナーダ」。第6期のフェローのなかでは、平均年齢が最も低い団体であるが、駿才揃い。
ヴァイオリンの前田妃奈と福田麻子は、今年8月の東京音楽コンクール弦楽器部門でともに入賞したばかり(前田が第1位、福田が第3位)。それだけでなく、東京音楽大学付属高校3年の前田は昨年の日本音楽コンクールで第2位に、東京音楽大学大学院生の福田は一昨年の同コンクールで第3位に入賞している。ヴィオラの太田滉平とチェロの菅井瑛斗はともに桐朋学園大学の3年生。師匠である原田幸一郎や数住岸子が組んでいたアンサンブル「NADA」の精神を受け継ぎたいとの思いから「Re NADA」の名前を冠したところに志の高さが感じられる。この日はハイドンの弦楽四重奏曲第77番「皇帝」の第1楽章を演奏。ファカルティから様々なアドバイスを受けた。
「クァルテット・インテグラ」は、第5期に続いての参加。2015年に当時の桐朋学園の大学生と高校生によって結成。前述の秋吉台音楽コンクールでの第1位のように、今や彼らの世代を代表する弦楽四重奏団の一つとなり、今後、国際コンクールでの活躍も期待されている。
第1ヴァイオリン:三澤響果、第2ヴァイオリン:菊野凛太郎、ヴィオラ:山本一輝、チェロ:築地杏里。
この日はハイドンの弦楽四重奏曲第79番の第1、2楽章を演奏。
「ポローニア・クァルテット」は、桐朋学園大学の学生および大学院生で構成されている。
第1ヴァイオリンの東 亮汰は、昨年の日本音楽コンクールで第1位を獲得するなど、ソリストとしても活躍。この日はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第10番「ハープ」の第1楽章を弾いた。一聴して、東が中心のクァルテットであることがわかる。ファカルティから東に、自分のことよりも他の3人にもっと意識が行くようにというアドバイスがあった。アンサンブルとしての意識が高まれば、大きく進歩する可能性を持つクァルテットである。第2ヴァイオリン:岸 菜月、ヴィオラ:堀内優里、チェロ:小林未歩。
「京トリオ」は、第6期で唯一のピアノ三重奏団。
ピアノの有島 京はポーランド国立ビドゴシチ音楽院で修士課程を修了。ソロ・アルバムもリリースするなど、ソリストとしても活躍している。ヴァイオリンの山縣郁音はアルネア・カルテットのメンバーとして室内楽アカデミー第4期を修了。2年ぶりのアカデミー参加である。チェロの秋津瑞貴もアカデミーの第4期修了生(個人参加)。
この日はシューベルトのピアノ三重奏曲第1番第1楽章を演奏した。第6期では最も平均年齢の高い団体。経験豊かな3人がどうアンサンブルを深めていくのか、楽しみである。
「ルポレム・クァルテット」は、第1ヴァイオリンの吉田みのり、ヴィオラの古市沙羅、チェロの中山遥歌の3人が桐朋学園大学2年に在学している若い団体。
第2ヴァイオリンの深津悠乃は慶應義塾大学環境情報学部でヴァイオリン演奏における身体科学についての研究を行う。メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番第4楽章では、吉田の活躍が際立っていた。
フレッシュなクァルテットがどのような成長を遂げるのか注目である。
「ドヌムーザ弦楽四重奏団」は、桐朋学園大学を経て、マンハッタン音楽院修士課程を修了した入江真歩が第1ヴァイオリンを務める。入江は、第3期フェローであり、4年ぶりの室内楽アカデミー参加となる。
チェロの山梨浩子は第5期のクァルテット・ポワリエから引き続いての室内楽アカデミー受講。第2ヴァイオリンの木ノ村茉衣は東京藝術大学大学院生。ヴィオラの森野 開は桐朋学園大学卒業。
この日のラヴェルの弦楽四重奏曲第1楽章は安定感のある演奏だった。
「レグルス・クァルテット」は、第1ヴァイオリンの吉江美桜が2015年の日本音楽コンクール第3位、第2ヴァイオリンの東條太河が2019年の同コンクール入選、チェロの矢部優典が2017年の同コンクール第2位という俊英揃いの団体。ヴィオラは、第4期と第5期にアミクス弦楽四重奏団のメンバーとして室内楽アカデミーに参加した山本 周が務める。
今回ワークショップで弾いたメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番第2、4楽章は、既に完成度が高かった。
第6期は、コンクール入賞歴を持ち、ソリストとしても活躍する20歳前後の実力者たちが数多く参加しているのが特徴の一つとしてあげられる。可能性に満ちた若き名手たちがどのようにアンサンブル力を高め、成長していくのか注目である。また、今期は、第5期のようにプロのオーケストラに所属しながら研鑽を積むフェローはいないが、再び、あるいは、継続してこのアカデミーに参加して表現力を一層深めようという修了生たちの受講も目立つ。いずれにしても、第6期は非常にレベルが高いように思われる。最高峰のファカルティのもとで大いなる飛躍が期待される。