アーティスト・インタビュー

日本フィル&サントリーホール
とっておき アフタヌーン Vol. 14

ハンサム四兄弟 インタビュー <後編>

ハンサム四兄弟

日本フィルとサントリーホールが贈る、エレガントな平日の午後『とっておきアフタヌーン』。気鋭の指揮者と注目のソリストによる「今こそ聴きたい」演奏をお届けする2020~21シーズン。10月公演に登場するのは、華やかで賑やか、麗しいバリトン歌手グループ、その名も「ハンサム四兄弟」です。国内外のオペラやコンサートなどでそれぞれ活躍されている宮本益光さん、与那城 敬さん、近藤 圭さん、加耒 徹さん。
前編では、「ハンサム」というグループ名の由来や「とっておき アフタヌーン」で歌う曲目について語っていただきました。後編では、今年コロナ禍で多くのコンサートが中止となり、お客様の前で歌うことができない時期が続いた「ハンサム四兄弟」の皆さんが、あらためて自粛期間中に考えたことや、それぞれの「とっておき」の時間について教えてくださいました。

ハンサム四兄弟

――この「とっておき アフタヌーン Vol. 14」の指揮者、齋藤友香理さんは、ドイツのドレスデン在住で、この春にコンサートのために日本に帰国されたのですが、コンサートは中止になり、そのままドイツにもしばらく戻れない状態でいらっしゃるそうです。
皆さんも、いくつものコンサートが中止になり、コンサートのない日々を何カ月も過ごされてきたと思います。この期間に、「歌う」という職業について、あらためて感じられたことなどありましたら教えてください。

宮本: 不要不急という言葉のもとに演奏活動が制限されたことで、自分の存在意義を自問自答する時間でもありました。心が苦しくなる瞬間があって。でも今回のようにコンサートを企画してくださる人がいて、お客様が求めてくださっているとすれば、その場で、これまで自分が芸の道で歩んできたものを披露することで立っていけるんだという確信をもらえます。音楽家としてすごくありがたいことですし、それが間接的にお客様を勇気付けることになるとすれば、それもまた自分たちの存在意義なのかなと。これから、どう自分として立っていくのか、演奏会ひとつひとつが試金石になっていくんだなと思っています。とにかくいろいろと心が揺れました。たぶんみんなもそうでしょ? 何してたの? 
与那城: 僕は、こんなにゆっくり時間を使えることもめったにないので、いろいろ……
宮本: おおらかで、いいね〜。
加耒: 私も、宮本さんが送ってくださった美味しいお肉をいただきながら……
近藤: そうなんです、宮本さんがいいお肉をみんなに贈ってくれたんですよ。なめらかな、もも肉! すっごい美味しかった。
宮本: それならよかった。いつもメールの返事遅いのに、すぐ住所教えてくれたよね(笑)。俺はとくに3月あたりしんどかったので、みんなにも、せめて肉でも食べて元気つけてもらえたらと思って。
加耒: 先が見えないから不安はありましたよね。でも、今までずっとがむしゃらに、目先の仕事にむけてひたすら勉強する日々でしたが、あらためて時間ができたことによって、マニアックな曲などを、本番のためにではなく練習できたりしたのはよかったです。
宮本: なるほど。若さだね〜。俺なんかは、棚に置いてある楽譜を眺めながら、これらの楽譜は一生かけてももう歌い切れないと感じて、涙がポロポロ出ちゃって。
近藤: すごいですねえ。
与那城: いいなあ。そういう感性は素晴らしいです。僕も歌の練習は続けていましたけれど、でも狭い部屋で一人で歌っていても、違うんですよね。歌うというのは、お客さんがいて、空間があって初めて成立するので、歌として浄化されないというか、そういうフラストレーションはありました。僕はこの「とっておき〜」が6カ月ぶりのステージになるので、とても楽しみです。しかもそれがサントリーホールという贅沢な舞台なので、最高のプレゼントです。
近藤: 僕も、コンサートがどんどんなくなっていって、いけるかなと思ったらこれもなくなったという感じが続いて、落ち込みましたけれど。確かに、今まで考えたことのないようなことを考えましたね。だから、将来的に、このコロナという時期があったからこそ今こういう風に歌えているんだ、こうできているんだという風に、プラスの方向に持っていけたらいいなと思っています。

――今の時期、お客様も皆さん生の音楽に飢えていると思います。

宮本: 我々こそ飢えています! 先ほどリハーサルで大ホールでちょっと歌わせていただいたのですが、なんか緊張しちゃって。
与那城、近藤、加耒: 緊張しましたよね。
宮本: どうやって声出すんだっけ、みたいな(笑)
近藤: 少しでも舞台を離れてしまうだけで、感覚がなかなか戻らないのに、これだけ長い間離れていたので……
加耒: 学生の時でもこんなに舞台を離れることはなかったですものね。やはり家でいくら練習していても、ホールの響きってホールに行かないとわからないので。先ほど大ホールで、あらためて楽しいし、すごく難しいなと感じました。
宮本: 久しぶりの舞台なので、その分お客様の反応も今まで以上に気になるし期待するし、自分たちのパフォーマンスに対しても、いつも以上に踏み込めるところがあると思います。この時期のコンサート開催については、何が正しいのか誰も答えがわからないなかで手探りで進めている状況だと思いますし、お客様も、覚悟を持ってリスクを背負っていらしてくださるわけです。そうやって、いつもと違う姿勢できてくださることへの感謝の気持ちと、それ以上の喜びを持って帰っていただけたらいいなと願うばかりです。

――サントリーホールについてはどのような印象を持たれていますか?

宮本: 二期会に入って、初めてオーケストラをバックにソリストとして歌ったのが、サントリーホールだったんです。学生の頃から、世界の著名な演奏家のリサイタルやオーケストラ、たくさん聴きにきた場所ですし、憧れのホールで。それまでにP席でコーラスの一員として歌ったことはありましたけれど、ソリストとしてサントリーホールの舞台に立つことがあるなんて考えてもいなかったので、とても緊張しました。その時楽屋に貼ってあった「宮本様」と書かれた紙は、持って帰って今でも家に飾ってあります。それぐらい憧れの場所。今回久しぶりに大ホールで歌わせてもらうので、その時の気持ちを思い出します。
近藤: 僕は長野で育って、家でクラシック番組をほぼすべて録って聴いていたんですが、その舞台は日本公演だと大体サントリーホールで。すごいなあと思っていました。高校生の時に、ケルン放送交響楽団だったかな?来日公演を聴きに来たんです。一人で東京に出てきて。オーケストラの響きと、雰囲気に感動しました。そのサントリーホールの舞台に自分が立った時はやはり、立った瞬間からドキドキとワクワクが止まらなかったです。
宮本: 響きがいいですよね。一体化するというか、ホール全体が楽器のように共鳴して、孤独にならない。
与那城: 僕も学生の頃に、海外の歌手たちがリサイタルをしたりするのを見に来ていました。高校、大学ではピアノ科だったので、まさか自分が歌手になって、この舞台で歌うなんて、何か特別な不思議な感じがします。

――与那城さんは、ピアニスト志望から声楽家に転向されたんですね。きっかけは?

与那城: 単に歌が好きになったんです。歌の伴奏をしたりもしていましたから。
宮本: 彼はね、ピアノすっごくうまいんですよ。でも弾かないの。
与那城: いやいや、もう前世みたいな話ですから(笑)

© Kei Uesugi
与那城 敬

――加耒さんも、ヴァイオリンを弾かれるそうですね。

加耒: いやいや、私は昔ちょっと習っていただけで、全然専門的にはやっていないので。でもやっぱり、歌の自由さというか、言葉を表現するということに惹かれて歌い手になりました。

2019年2月26日開催 とっておき アフタヌーン Vol. 9

――2018~19シーズンの「とっておき アフタヌーン」でも毎回オープニングで歌い、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーとしても多くステージに上がる加耒さんは、様々なシーンでサントリーホールの舞台に立っていらっしゃいますよね?

加耒: そうですね、色々なタイプの演奏会に出演させていただいて。このホールは、もちろん響きも良いし、毎回、自分の声を安心して発散できる空間です。円形のように客席に囲まれて、皆さんに見られているのに、妙な安心感があって、変に力が入ったりしないんですよね。

――ハンサム四兄弟に、客席からはいつも以上に熱い視線が送られると思います。最後に、皆さんそれぞれの「(演奏会以外の)とっておきの時間」を伺えれば。

与那城: 僕はお酒が好きなので、お酒を飲む時間かな。特にワインが好きで。大きなグラスで、ぐるぐる回しながら(笑)、チーズとか生ハムとか……最近は健康に気を使って、節制して週2回ぐらいにしていますけれど。
(――加耒さんは以前伺った時に、飼っているネコちゃんが癒しだとおっしゃっていましたね。そして、Jリーグ、アビスパ福岡の大ファンでいらっしゃることは有名ですが。)
加耒: そうですね。それは変わっていません。サッカーは結果が出るスポーツなので、応援しているチームが負けた翌日などはテンションに影響してしまうので、「とっておき」と言えるかどうかわかりませんけれど。勝てば1週間気分がいいですけれど、ストレスになる時もあります。でも、そうやって音楽を離れて、全然違うスポーツを見るというのは、とっておきの時間です。
近藤: 僕は長野の出身で、自然の中にいるのが好きなんですよ。今住んでいるのは神奈川なのですが、たまたま家の裏が山でして。朝起きると、鳥が鳴いているんです。それを聴いているのですが、ちょうど3月の自粛期間が始まった頃から、「パパパパパ」ってずっと練習しているんです、鳥が。「パパパパパッ パパパパパッ」って、明け方5時ぐらいから毎日。たぶん同じ鳥なんですけれど、結構うまくなっていて。 
宮本: リアル「パパゲーノ」(モーツァルトのオペラ『魔笛』の登場人物、鳥刺しの名前)だね。
近藤: そうなんです(笑)。鳥も頑張ってるんだな。僕も頑張ろうみたいな気にさせられて。それがとっておきの時間です。

近藤 圭

――なんだかいいお話を伺いました。宮本さんにとってのとっておきは?

宮本: 私は、ものを集めるのが好きで。古いもの。古い楽譜とか、古い本や画集とか。そういうものを用もなく並べ替えるのが最高に楽しい時間ですね。作曲家別にしたり、ジャンル別とか。何を持っているのかはすべてデータ化してありまして。集めたり並べるのが、好きですね〜。

――では、古本屋さんなどによく行かれる?

宮本: そうです、古本屋なんかに行った日にはもう、大変ですよ(笑)。海外に行っても、連絡を取り合う骨董屋がいくつかあって。私の趣味嗜好を伝えてあるので、そういう品が店に入ってくると連絡が来るようになっているんです。なにか、古いものに憧れてしまうんですよ。誰が使っていたんだろうとか、どんな人の想いがあるんだろうとか、どんな気持ちで描いたんだろうとか考えて、ず〜っと見ていられますね。

――それぞれのキャラクターは随分異なりながらも、絶妙に息の合った楽しいハンサム四兄弟。同じバリトンでも、お話しされる声の質もそれぞれ異なり、しかし美声であることは共通で、いつまでもその声を聞いていたいと思うような時間でした。「とっておきアフタヌーン」が待ち遠しいです!

  • ハンサム四兄弟 歌「見上げてごらん夜の星を」&メッセージ

  • 近藤 圭(バリトン)メッセージ

  • 加耒 徹(バリトン)メッセージ