「サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品」では、名だたる「名品」だけでなく、昭和36年(1961)の開館以来、あまり注目されず展覧会にも出品されてこなかった、知られざる「迷品」も一堂に会し、さまざまな視点から多彩な魅力をご紹介しています。
本展の展示室では、通常の作品解説に加え、作品にまつわる逸話や意外な一面をお伝えするマニアック解説<学芸員のささやき>を設置しています。
そしてここでは、そのマニアック解説よりもさらに一歩進んだ情報・裏話などを、展覧会担当学芸員が執筆するコラムでお届けするスペシャルウェブコンテンツ“学芸員のささやき特別版”をお届けします。
作品にまつわる逸話や意外な一面を知れば、すべての作品が「名品」にも「迷品」にもなる、そんな「メイヒン」体験をご提案すべく企画した本展覧会ですが、そのきっかけとなった作品が、メインビジュアルにもなっている《鞠・鞠挟》でした。
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本作にまつわる記録をたどると、昭和41年(1966)の収蔵とあり、コレクションの中ではなかなかの古参であるようです。そして、これまでの約60年間で展示された回数を数えると、サントリー美術館で2回、館外貸し出しで3回とありました。この展示回数の少なさはまさに典型的な「迷品」です。
![entrance_.jpg](https://www.suntory.com/sma/info/visual/entrance_.jpg)
また、開館してから間もない時期に収蔵されたこともあってか、コレクションとなった経緯や作品の由緒などは伝わっていません。こうしたことから館内では長らく本作に対して、
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程度の認識しかされてこなかったのです。しかし、これが一変したのが鞠の専門家による調査でした。
実は2019年開催の「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展で、本作はひっそりと出品されていたのですが、偶然これを見た鞠の専門家の方から、「ぜひ調査をしたい」との申し出が寄せられたのです。これは当館としても願ってもない機会。早速ご覧いただく運びとなりました。すると驚愕の事実が次々と告げられたのです。
「これ以上状態がよく残っている古い鞠は見たことがない」
「これほど美しい球形に作られた鞠はほかにない」
「鞠を飾る鞠挟も類例のない形式である」
古い鞠で保存状態がよいものが少ないなか、当館の鞠は良好な状態が保たれている上に、球に近い姿が非常に美しいとのこと。さらに鞠を飾る鞠挟も、ラックに鞠を吊り下げて床に置く形式はかなり珍しいのでは、と教えていただきました。しかし、最も衝撃的だったのが次の一言だったのです。
「現代の鞠製作者の中には、この鞠を理想としている方もいる」
ドラマの撮影などでも使われる鞠を作っている製作者の中には、当館の鞠を目指すべき理想としている方もいらっしゃるというではありませんか。ここで初めて本作が人知れず「現代蹴鞠界のスター」となっていることがわかったのでした。
そしてこの調査を経た後、「なぜか鞠がある……」程度でしかなかった、本作から受ける印象は急変することとなります。
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館内からはこんな声が聞こえるようになりました。
一見しただけではわからない隠れた情報を知ると、作品に対する印象も変わってきます。たとえ「迷品」とされるような作品でも、何かがきっかけで心が動かされれば「名品」と「迷品」に差はないのでは?そんなことを考え始めたのは、この《鞠・鞠挟》での「メイヒン体験」からでした。
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