Vol.12
《青磁染付葦鷺文皿》
ー調和する色と絵
江戸時代前期、17世紀の初期伊万里、青磁染付の角皿です。ほぼ正方形に近く、四方を入隅にした厚手の皿で、縁が折敷風に垂直に立ち上がっています。平らな底裏に、円形の厚い高台が付けられていますが、その周囲には大きな窯割れ(=焼成時のひずみによるひび)が生じています。
見込の下辺に、翼を大きく広げ片足を上げる一羽の鷺と、その視線の先には枯蘆の小さな群れが、染付で描かれます。鷺の凛として誇らしげな佇まいは、先端までぴんと伸びた翼、高く上げた足の指先、もたげた細い首の湾曲など、少ない線で端的に表現されています。畳付を除き、器全体がややくすんだ淡青緑色の青磁釉に覆われます。鷺の体躯の輪郭線に沿って丁寧に切り抜いたように青磁釉が掛け外され、代わりに透明釉が掛けられており、それゆえ鷺の全身がシャープに白く浮かび上がっています。青磁釉には艶があり、随所にむらが生じ、貫入も入り、また無数の小さな黒斑が現れていますが、鷺や蘆の様子と調和して寂びた、えも言われぬ趣深さが感じられます。見込の上方に大きく設けられた余白は、広々として境界線もなく、水辺の延長にも、また空にも見えます。
「青磁」も「染付」も、中国や朝鮮半島においては日本以上に長い歴史を持ち、数多くの名品優品があります。一方で、一つの器物の上に青磁と染付を併用する「青磁染付」が、絵柄・主題とかくも良く調和し、完成されていったのは、日本磁器においてではないでしょうか。およそ400年前、日本で初めて磁器の焼成を開始した有田(現在の佐賀県有田町一帯)では、染付の藍色と青磁釉の淡青緑色が醸し出す独特の雅味に、早くから気付いていたと考えられます。初期伊万里には、魅力的な青磁染付の作品がしばしば見られます。また、徳川将軍家への献上品を焼いた佐賀藩の藩窯「鍋島」において、青磁染付は洗練の極みに到達し、「青磁染付七壺文皿」(図2)のような、さまざまな優れた意匠の青磁染付の皿が生み出されました。
出典:『サントリー美術館ニュース』vol.266, 2017.4, p.6
2020年6月12日