広口で肩は狭く胴は垂直で丸底となる。鐶付は玉章(結文)をかたどり、胴の半面には、水面に出た岩上に腰を下ろす猿が右前足をかざして空の細く欠けた月を見上げる図を、もう半面には、樹上の猿が水面に映る細い月に手を伸ばす図を鋳出している。これは身の程をわきまえず、失敗すること意味する仏教の比喩「猿猴捉月」を表している。この題材は禅で好まれたものであるので、禅文化を背景とする茶湯釜の意匠として流行したものであろう。(『サントリー美術館プレミアム・セレクション 新たなる美を求めて』、サントリー美術館、2018年)