大きく羽を広げた蝙蝠を艫に、陰陽勾玉巴文を舳に配した船形鉢。中国では蝙蝠の「蝠」の音が「福」に通じることから、瑞祥文様として工芸品で多用されてきた。また陰陽勾玉巴文も大陸に起源をもち、宇宙の根源を二分し相反する気がバランスを保っている状態を示している。装飾のテーマには壮大な構想の存在が予想されるが、全体の意味・用途共に判然としない。文様構成は他に類を見ず、カット面は細く鋭く芯が通り、薩摩藩の技術力の高さを物語っている。(『サントリー美術館プレミアム・セレクション 新たなる美を求めて』サントリー美術館、2018年)