甲盛と胴張が強く表された量感ある姿形の手箱。金粉を密に蒔いた沃懸地に、螺鈿によって浮線綾文という有職文様の円形花文を等間隔で表す。一つの浮線綾文は螺鈿の小片4種13パーツで構成される。蓋裏には、研出蒔絵によって約30種もの折枝文を立ち上がり部も含んで画面いっぱいに描くもので、その描写は非常に緻密である。手箱は神宝として神にも捧げられ、華やかに格調高く仕立てられたものが多い。名品の多い鎌倉時代の手箱のうちでも代表作に数えられる。(『サントリー美術館プレミアム・セレクション 新たなる美を求めて』サントリー美術館、2018年)