しん びじん さんじゅういち めがね
《真美人》は多様化する明治時代の女性たちを描いた半身像の揃物で、明治30~31年(1897~98)にかけて全36点、目録2点が出版されている。女性が少しずつ社会進出を始めた様子や、珍しい西洋からの輸入品が生活の中に取り入れされていく様子なども見て取れ、新しい明治の女性像をうかがい知ることができる。各図には題名がなく、画面左の版元名のすぐ下に通り番号が漢数字で入れられている。上質の奉書紙を用い、彫り摺りとともに優れた技術を詰め込んだ本シリーズは、周延の美人画の集大成に位置付けられている。 No.116(《真美人 十四(傘)》)は洋傘を手にした女学生を描く。洋傘は、時計やランプなどと同様に、ハイカラな文明開化のシンボルであった。また、着物の下にボタンの付いたチェック柄のシャツを着用し、リボンや花を髪に付け、左手薬指に指輪をしたスタイルは、当時の女学生の最先端のファッションであったに違いない。明治時代になり、女子中等教育が盛んになったことで、女学生という新しい社会のグループが生まれたが、分厚い洋書を手にした本図の姿は、女性たちが本格的に学問の世界へと参画するようになった時代を象徴している。 N0.117(《真美人 三十一(眼鏡)》)は眼鏡をかけた女性を捉えている。眼鏡は江戸時代にも国内生産されていたが、原料のガラスは輸入に頼らなければならなかった。しかし、明治時代になって板ガラスが国内生産されるようになり、一気に普及した。女性の服装は江戸時代からの伝統的な紋付の着物だが、左手薬指に指輪を嵌め、洋風の椅子に座るなど、生活様式は西洋風を取り入れているようだ。固く口を結んだ冷静な表情や金縁の眼鏡が、女性の知的なイメージを強調している。(『リニューアル・オープン記念展Ⅰ ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』、サントリー美術館、2020年)
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