しょこく めいしょ ひながた
雛形とは小袖の意匠見本集のこと。元々は呉服屋の見本や注文控えであったが、江戸時代に木版刷りの冊子として出版されると、現在のファッション誌に近い感覚でも読まれるようになった。染織の中枢であった京都の版元など、上方の書肆(しょし)による刊行が多く、現在しられているだけでも百二十種以上あり、人気の出版物であったことが分かる。形式としては、一頁に一点、小袖の背面型を配し、その中に様々な模様を描き、余白には模様の題名や配色の説明、加工法などを記すのが主流となっている。「新板小袖御ひいなかた」(作品番号103)は浮世絵師の菱川師宣(一六一八~九四)による雛形本。小袖の意匠に加えて、小袖を着用した人物の姿も登場し、実用書としてだけでなく、絵本としても楽しめる趣向になっている。小袖のデザインは動きのある大胆なモチーフが多く、前の時代である寛文年間(一六六一~七三)に流行した寛文小袖の影響が強く感じられる。それらのデザインの中には歌枕に基づくと思われるものも散見され、特に龍田などは流水のイメージを伴うので、上から下へと流れるようなデザインが特徴の寛文小袖の意匠に用いられやすかったようである。 「諸国名所雛形」(作品番号104)は、『内裏名所百首』所収の名所和歌に想を得たもので、順徳院・藤原定家・藤原家隆の和歌を翻案した百の意匠を紹介している。おそらくは広く流布していた『内裏名所百首』の抄出本を元にしているのだろう。そして序文には「幼女のすさみことにならんとおもふに」とあることから、実際の小袖の図案帖というよりは、小袖図案を介した手習帖のような性格のものだったようである。当時の歌枕イメージをうかがい知る上で貴重な資料である。(『歌枕 あなたの知らない心の風景』、サントリー美術館、2022年)
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