しおや まきえ こ すずりばこ
長方形、被蓋造(かぶせぶたづくり)、蓋の肩を削面(そぎめん)にした小さな硯箱。蓋表から蓋裏にかけて、金銀の高蒔絵によって浜松に千鳥が描かれ、蓋表左端には製塩のための塩屋も描き添えられている。海辺の寂しげな風情を醸し出す浜松と千鳥の組み合わせは、何らかの和歌に基づいているとみられ、後世のものだが箱書には「小硯箱 すま」とあるので、おそらくは「淡路島通ふ千鳥の鳴く声に幾夜目覚めぬ須磨の関守」(『金葉和歌集』第四・冬・源兼晶)のような須磨の景を描いたものであったと思われる。ちなみに箱の覆紙には「加州家御物之内 筥書付宗甫筆加州家掃物之節出ル」とあり、加賀藩主前田家の旧蔵品であったことと、箱書が宗甫、すなわち小堀遠州(一五七九~一六四七)によるものであることが示唆されている。本作の意匠が元より須磨の景を表わしたものであったかは定かではないが、多くの茶道具に和歌銘をつけてきた遠州の目には、海辺のうら寂びたイメージが詠まれる歌枕・須磨と映ったようである。(『歌枕 あなたの知らない心の風景』、サントリー美術館、2022年)
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