しゅんせつ
終戦直後の昭和20年(1945)8月初めに移り住んだ疎開先の御殿場で、画室も画材も整わない環境で苦労して描いた作品。開国以降の日本が歩む道など知るよしもない江戸末期の武家の女房が、いまだ浅い春の日、雪の降るなかを帰宅した夫の羽織をたたむ姿である。着手したのは同21年1月、朝に夕に富士を眺める暮らしのなかで「日毎に変る富士の色にたまたま見た深川鼠を着衣に出してみた」という(「疎開日記抄(二)」(『続こしかたの記』p。357)。日常のなにげない一瞬を美しく描きあげた画面からは、つつましくも平和な暮らしを願う、清方の祈りのような感情が伝わる。2月半ばに仕上げ、まずは清方を温かく遇した土地の人々への感謝を込めて、下絵とともに自宅で披露してから3月の第一回日展に出品した。この作品から清方の戦後は始まった。(『鏑木清方と江戸の風情』、千葉市美術館、2014年) 清方は、戦時中疎開を繰り返した。この作品はその戦火をくぐり抜けながら終戦を迎える御殿場へ伴われた。日展への出品に先立ち、疎開先で公開された。非国策画とされた美人画をやっと公の場に現わすことができた時だった。江戸末期の春、武家の女房が雪降る中、外出から戻った夫の羽織をたたんでいる。女性の着衣の裾には雪輪を描き、その間に梅や水仙の花を配しており、袖からも梅が覗き、間近かに迫る春の気配が伝わる。第一回日展に出品した作品。(『清方ノスタルジア 名品でたどる鏑木清方の美の世界』、サントリー美術館、2009年)
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