げんじものがたりず びょうぶ さかき
本作品は『源氏物語』「賢木」の帖に取材したもので、娘の斎宮に伴い伊勢へ下向することを決意した六条御息所を光源氏が嵯峨の野々宮に尋ね、名残を惜しむ場面である。秋草の繁る中を進む源氏の君の一行と、御簾越しに浮かぶ六条御息所の悩める姿が、今しも雲間から顔を覗かせた月に照らし出されたかのように描かれている。金砂子を全面に散らして梨地風に仕上げた画面に、人物や樹木を対角線上に配しており、余白を大きくとった画面構成が、源氏と御息所の心の距離を窺わせ、しみじみとした別離の情緒を一段と深めている。右隻に描かれた黒木の鳥居と、その左右に連なる小柴垣は、斎宮へ上がる潔斎の場として知られる野々宮を象徴するものである。筆者の土佐光吉(1539-1613)は土佐光茂の門人で、『源氏物語』などの王朝文学に取材して、優雅にして繊細な美の世界を描き出すことに優れていた。(『「もののあはれ」と日本の美』、サントリー美術館、2013年)
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