けいざん ぎょいんず
入江付近に建つ小屋の中で茶を飲んでいるように見える人々や、振り分け荷物を背負う人の姿に比して、迫り来る岩山の大きさが際立つ。遠山には淡い藍を用い、岩肌に根を下ろす樹木の一部には代赭を施す。岩肌にも藍や代赭の皴を交えるなど、大胆かつ清らかな彩色が印象的である。岩山にはリズミカルな点苔と幾重にも重なる披麻皴が用いられる。いわゆる屛風講時代の作品以降、蕪村の山水図には点苔を多用する傾向がしばしば見受けられるが、本図はその特徴が顕著といえる。さらに注目すべきは、皴の中に極めて複雑な白抜けが見られることで、これは揉んで皺をつけた紙を下に敷いて描くことにより生じたものと思われる。岩肌の質感表現に対する並々ならぬ執着と工夫の跡がうかがえる。署名は「東成謝寅」、「謝春星印」(白文方印)、「春星」(白文方印)を捺す。(『生誕二百年 同い年の天才絵師 若冲と蕪村』、サントリー美術館ほか、2015年)
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