あまやどりず びょうぶ
屋敷の門前に集まる人々。通りには傘をさす琵琶法師一行や布を頭に被せて走る男などがおり、にわか雨が降り始め、雨宿りする場面であることがわかる。上空には暗い雲が立ち込めているが、雨らしい描写は一切なく、人々の振る舞いによってにわか雨の到来を示している。こうした表現は、灯火や松明を描くことで夜であることを示唆する表現にも通じ、闇や雨など、ストレートに表現しにくいモティーフを間接的に描こうとする伝統的な感覚をみてとることができる。また、琵琶法師、竿竹売り、赤子に乳を飲ませる女など、絵巻や近世初期風俗画にたびたび描かれる人物をはじめ、登場するのはいずれも風俗表現の中で脇役を務める人物ばかりだが、困り顔の男たち、それとは対照的にはしゃぐ子どもらなど、各人を表情豊かに描き出し、雨宿りという日常の何気ない光景が一つの魅力的な画題に仕立てられている。こうした風俗画の新たな主題を生み出したのは洒脱な画風で知られる英一蝶である。この屛風を描いた高嵩谷(1730-1804)は一蝶の門人、佐脇嵩之に学んだ江戸の町絵師で、武者絵を得意とした。また、本図以外にも雨宿りを扱った作例があり、一蝶由来の主題も手がけていたことがわかる。(『水と生きる』、サントリー美術館、2007年)
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