かき ふうけい
ガレは森を表現した作品をいくつか残していますが、Topic3で紹介した「我が根源は森の奥にあり」という言葉にも表れているように、植物、昆虫、動物を含めた自然そのものである森は彼にとって芸術の出発点でした。本展覧会の最後を飾るのは、森を表現したふたつの作品――《花器「木立」》と、2019年にサントリー美術館のコレクションに新たに加わった《壺「風景」》です。両者の森の表現を見比べながら、新収蔵品の《壺「風景」》に込められたガレの心に思いを巡らせてみましょう。 《花器「木立」》では、樹木の大きさや立体感に変化をつけることで、どこまでも続く森が表現されています。浮彫状に表わされた樹木には、ガラスの表面を化学反応で窯変加工する「パチネ」が施され、樹木の苔むしたような質感が表現されています。一方、《壺「風景」》では、器胎を取り囲むように、太い根をもつ樹木が立体的に表わされています。樹木の背後には、オレンジ、黄、紫、白、淡い青のガラスが帯状に配されており、紫色の部分には家屋が見えます。ナンシー派美術館に所蔵される本作のデザイン画から、これは森の中から眺めた人里の風景が抽象化された表現であることが判明します。 奥深い森を表現した《花器「木立」》に対して、森を抜けた人里の風景を表した《壺「風景」》。後者のように、人の存在を感じさせるような風景表現は、ガレのガラス作品では珍しいものです。 《花器「木立」》や《壺「風景」》が製作された1900年頃はガレの円熟期です。1900年パリ万博においてガレ商会はガラス部門と家具部門でグランプリを獲得、各部門に貢献した個々のデザイナーや職人たちもメダルを受賞し、ガレはその名を不動のものにしました。そうした時期に、ガレが《壺「風景」》のような作品を構想したのはなぜなのでしょうか。力強い生命力に満ちた樹木の表現からは、森に寄り添うガレの姿勢を読み取ることも可能です。しかし一方で、青黒い木々と対照的に、人里の風景が暖色で表現されている点に注目するならば、暗い森を抜けた先にある、明かりの灯る家へのガレの思いを想像することもできるのではないでしょうか。成功の重圧を超えてガレが帰りたかったのは、あたたかく迎えてくれるこうした家だったのかもしれません。(『リニューアル・オープン記念展Ⅲ 美を結ぶ、美をひらく。美の交流が生んだ6つの物語』、サントリー美術館、2020年)
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