歯以外の全面に金蒔絵を施した櫛の両側に「隅田川」と「三囲」の風景を描く。「隅田川」と記した面には、川の水面に数羽の都鳥が浮かんでいる。『伊勢物語』の「名にし負はばいざ言問はむ都鳥我が思ふ人はありやなしやと」に象徴されるように、都鳥は歌枕としての隅田川にとって重要なモチーフである。もう一方の「三囲」と記した面には、三囲神社の大鳥居と社殿が見えるが、三囲神社は宝井其角が雨乞いの俳句を奉納したことで知られる。櫛の表裏で和歌と俳句の名所を表現したものであろうか。(『歌枕 あなたの知らない心の風景』、サントリー美術館、2022年)
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