つたのほそみち まきえ ぐし
金色地の薄手の櫛で、棟がとても広く、そのぶん歯は細く短い。棟に蔦の茂みと笈を蒔絵で盛り上げるように表わす。蔦は赤い実を付け、笈には斧が挿してある。修験者が入峰の際に持つ斧であろう。また裏面には、蔦の茂みと両端を結んだ手紙があしらわれている。つまり本作は『伊勢物語』第九段「東下り」における駿河国の宇津山の場面を留守模様風に意匠化した櫛と考えられる。在原業平が京都から東に向かう旅の途中、宇津の山の峠にさしかかった。ここですれちがった修験者に業平は、都に残してきた女に送る手紙(和歌)を託した、という場面を、櫛の表と裏の両面を使って表現しているのである。(『歌枕 あなたの知らない心の風景』、サントリー美術館、2022年)
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