紅板とは、唇などを色づける紅を入れて携帯するための容器である。紅は当時紅花からとれるごくわずかな色素を用いて作られていたため、大変高価なものであった。さて、紅板は《春草群蝶図円形紅板》(No.33)のように象牙を主体とするものや、《藤群蝶図紅板》(No.36)のように金属に針描で文様を表すものなど、素材は様々である。形も蝶番を用いて左右に開く《群蝶文紅板》(No.37)・《群蝶文紅板》のようなものから、No.33・《秋草群蝶図紅板》(No.34)のように被蓋造のようなものまで幅広い。また、No.34のように中に小箱を伴うものや、刷毛を収めるものもある。いずれもごく小さな画面に象嵌や針描、蒔絵を用いて多彩な文様が施されており、今と変わらぬ身を彩る道具への思いも感じることができる。当時の女性たちも中に入れる紅とともに大切に持ち歩き、出先で化粧直しを行ったことだろう。(『虫めづる日本の人々』、サントリー美術館、2023年)
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