ぼたん がく からじし もよう つつがき ふとんじ
百獣の王といわれる獅子は西域から中国に伝わり、その勇猛で気品ある姿が邪気を祓うものとして好まれ意匠化された。牡丹に獅子を配すのは仏教に由来し、獅子は仏・菩薩の三昧耶形(誓願を象徴するもの)で、牡丹を愛しこれを食したと説かれ、また文殊菩薩の乗物でもある。「百獣の王」の獅子に「百花の王」牡丹を配したともいうが、多くは能楽の「石橋」を題材としたものである。平安時代、入唐した寂照法師は、清涼山に至って名高い石橋を渡ろうとする(実際に石橋があるのは天台山)。すると童子が現れ、石橋は滝の落ちる千丈の谷に架かり偉大な仏力を具えた者でなければ渡れないと止め、文殊菩薩の浄土でしばらく待てば奇瑞があると告げる。やがて獅子が現れ牡丹の間を舞い戯れ、天下泰平千秋万歳を祝って舞い納め文殊の台座へと戻っていった、という。本作には、険しい岩山と流れ落ちる滝が描かれ清涼山の険しさが表されるとともに、親子三頭の獅子を表すことで、子を千尋の谷に蹴落として試すという様も併せて示すようである。額を描きこんだ凝った図様である。(『筒描―幸を祈る藍、福を招く布』、サントリー美術館、2003年)
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