やつはし まきえ すずりばこ
方形、被蓋造の硯箱で、見込には中央に下水板、左右に懸子を収める。下水板に嵌める水滴は、銅製鍍金で菊の折枝をかたどったものである。蓋表から蓋鬘、身側面にかけて、杜若が群生する水辺に板橋を架け渡す景色を、杜若に集まる蝶とともに描く。蓋と身を閉じた時、側面が連続するように描かれている。これは『伊勢物語』第九段「東下り」で名高い三河の国、八橋の地を表わしたもので、「からころもきつゝなれにしつましあれば はるばるきぬる旅をしぞ思ふ」の和歌を詠んだ場面である。一方で、蓋裏と見込には、水辺の柳を表わして、下水板と懸子にも柳を一株ずつ表わす。蓋裏の柳には「蔭」の文字が葦手の手法で書き込まれており、西行の和歌「道の辺に清水流るる柳蔭 しばしとてこそ立ちどまりつれ」(『新古今和歌集』夏)を表わしたことが知られる。これは西行が陸奥の旅に詠んだとされる歌であり、在原業平の東下りとともに、蓋表と蓋裏・見込で二大歌人の旅の和歌、さらには夏にちなんだ和歌を取り合わせた意匠である。(『「もののあはれ」と日本の美』、サントリー美術館、2013年)
作品名、作者名、制作地・様式などのキーワードで収蔵品の検索ができます
2024年 1月
2024年 2月
2024年 3月
2024年 4月
2024年 5月
2024年 6月
2024年 7月
2024年 8月
2024年 9月
2024年 10月
2024年 11月
2024年 12月
2025年 1月
2025年 2月
2025年 3月
2025年 4月
2025年 5月
2025年 6月
2025年 7月
2025年 8月
2025年 9月
2025年 10月
2025年 11月
2025年 12月