かき かわせみ
コウホネ、オモダカ、ガマなどの植物が鬱蒼と茂る水辺に、かわせみがひっそりと止まっている。その様を、淡黄色・淡青色ガラスの上に、黒褐色ガラスを被せてから浮彫りにした花器。この黒色ガラスのシリーズは、1889年のパリ万国博覧会で発表された素地「ヤリト Hyalite」で、ガレ自身の解説文によって、過酸化鉄を還元して得た色彩であることがわかっている。このパリ万博への出品作品で、ガレは中国の玉にインスピレーションを得て新たに開発したガラス素地をいくつか発表している。中には墨玉を模した素地もあった。1885年にガレがベルリン工芸美術館を訪れて調査した中国ガラスにも、さまざまな形をした黒色ガラスが含まれていたという。1889年に発表したこの黒色ガラスは、中国ガラスの影響を得て探求されたものであろう。ガレは、ヨーロッパでは積極的に用いられてこなかったこの色合いを逆説的に取り入れて、孤独や悲しみ、寂しさや闇などの感情を表わしていった。ナンシー派美術館には「日本のモティーフ」と題したデッサンが収蔵されており、日本風の絵柄がさまざまな浮世絵から転写されている。その中にかわせみの姿態がいくつも描かれており、ガレの試行錯誤の跡が感じられる。図像そのものは日本や自然科学からの影響を受けながら、ガラス素地は中国のガラスにインスピレーションを得た作例と考えられる。(『ガレも愛した―清朝皇帝のガラス』、サントリー美術館、2018年)
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